盗賊男の悲運
剣の師匠を訪ねてこの森に入ったのはいいが、盗賊男が襲撃してきた。
「お、おまえ、どこでそんな力を身につけた!?」
相手となっている盗賊男は森の中でも響くような大声で言い放った。
僕にとってはあまり力を入れた覚えはないんだけど。ただ、この男は剣を振り下ろし襲い掛かってきたから僕は剣を抜いて応戦しただけで何もしていない。
「くっ、黙っていないで何か言ったらどうなんだ!?」
「あ、いや、僕は何も」
盗賊男は僕の言葉を聞くと真っ赤な顔をして拳を振り上げ向かってくる。
僕よりも大きい身長で頭の上から振り下ろす拳は見ていると当たればただでは済まないという威圧感があり、大きく見えた。
でも、速度がない。僕は顔を右に傾けて盗賊男の拳を避けて、左手で剣の鞘を掴み盗賊男のみぞおちをめがけて突きだす。鞘は盗賊男のみぞおちよりちょっと上に当たってめりこみ、肋骨をボキッと折った感覚と音が同時に伝わってきた。
「がっ、はぁっ!」
盗賊男は僕に突かれたみぞおちを両手で抑えながら三歩ほど後ずさりする。
呼吸もままならない状態で、必死に何か言いたそうに口をパクパクと動かしていた。僕には読唇術はできないので盗賊男が何を言いたいのかは残念ながらわからない。
「ぐ、ぐぅ……」
伝え終わったようで安心したのか、はたまた、伝えきれなかったのか。口をパクパクさせている途中で盗賊男は白目になり前かがみで地面に倒れ込んだ。
「結局何が言いたかったんだろう?」
僕は剣を鞘に納めて、森の中にある剣の師匠を訪ねて道を歩き始めた。