ぷろろーぐ!
見切り発車
俺の異能の切っ掛けは純粋な願いだった。
当時小学生だった俺の隣には幼なじみがいた。
何をするにも一緒で休みの日はよく遊びに出掛けてた。
名前はかりん。茶髪ポニーテールの利発な少女だ。
顔立ちは整っていて可愛かったし、スポーツも得意。
そりゃあ周りからモテた。
小学生男子なんてちょっと笑顔で話しかけて優しくすりゃあコロッといくからな。当然の事実だ。
だが、俺は恋も知らないお子ちゃまで、いつも一緒に居たかりんがモテていようとも興味がなかった。
今考えれば惜しいことをした。
折角の幼馴染みテンプレだったのにな。
唾つけとばよかった。
そしてある日。事件が起きた。
学校の裏山から猿が降りてきた。
学校の敷地内に侵入した猿は手当たり次第に周囲を襲いだした。
鶏小屋は壊滅と言って良いくらいの被害を受け、児童はおろか教職員も数名怪我をした。
俺たち生徒は各教室で待機を命じられて警察が来るのを待っていた。
そんな時、不幸にも窓ガラスが開いていたウチの教室に猿が侵入した。
ごわごわした汚れた毛に血走った目、人を殺せそうな鋭い牙と爪。
アニメとかでデフォルメされた猿とは違って野生の猿はザ・動物って感じで恐ろしかった。正直チビりかけたね。
もちろん教室は大パニック。
殆どのクラスメイトは蜘蛛の子を散らすように廊下に逃げていった。
だが、一部の気弱な生徒は腰を抜かして動けないでいた。
うん。まぁ、俺のことだな。
俺は当時こんな口調でもなく、気弱な良い子ちゃんだったからな。
しゃあねぇ。
そして、猿は腰を抜かしてあわあわ言ってる俺に狙いを定めた。
ゆっくりと牙を剥き出しにして威圧的に近寄って来るわけよ。
もう気絶寸前。
猿との距離が残り5mを切ったその時。
猿と俺との間に割って入る小さな影があった。
かりんだ。
かりんが俺を守るようにして両手を広げていた。
突如現れたかりんを警戒した猿が距離をとって威嚇。
その隙にかりんは近くにあった椅子を両手で掴んでブンブン振り回す。
その様子に激昂した猿は更に大きく威嚇して、かりんに襲いかかった。
かりんはすかさず椅子を投げるも、猿は躱して迫る。
猿の引っ掻きをかりんはバックステップで避けた。
かちんは筆箱、鉛筆、カブトムシの入ったケースと辺りの物を手当たり次第に猿に投げつけるも猿は綺麗に躱しきる。
だが、徐々に壁際に追い詰められていった。
壁に追い詰めたと思った猿が爪を振りかぶる。
どう考えても避けられない。
かりんを守れるくらいもっと強ければよかった、と後悔していた。
そして、1秒後の光景を想像した俺は思わず目をつぶった。
ズドンと音がした。
慌てて目を開けると。
目の前で胸に大きな穴を開けた猿が倒れていた。
当時、異能なんて俺とは関係のない話だと思ってたし、何が起こったのか全く分からなかった。
その後、かりんも力を使い果たして倒れた。
10分ぐらい遅れて警察がやって来た。
俺は警察にあ、ありのままに 今 起こったことを話したぜ。
それから数日後、かりんは転校することになった。
理由は異能力者向けの学校に転入するためらしい。
クラスメイトは別れを惜しんで送別会を開いた。
最後に送別会でかりんと1つ約束をした。
『今回はわたしが助けてあげたけど、大きくなったら今度はわたしを助けなさいよね。約束よ』
それから俺はかりんとの約束を守るという純粋な思いで努力して異能に目覚めたって訳だ。
「ふーん、それでどこまで本当?」
…おい、良い感じに纏めたんだから邪魔するなよ。