竜の葛藤
※オウガ視点です
ズシン、ズシンと音が響く。真っ暗闇ではあるが、光魔法を散らしてなんとか視界が良くなるよう今できることを駆使し、辺りを見渡した。視界に映った文字の様な物が刻まれている壁は、鋭い爪を持つ今の竜の手で触れようものなら崩れてしまうのではないかという程に古ぼけている。理解など出来ないのでそのまま先へと進むと、どこか広々とした場所に行き着いた。祭壇のような場所ではあるが、特に何も無い
少し落胆しつつ念の為探索していると、魔法の紋章が刻まれている柱を見つけた。足元の方の柱には全属性の模様が刻まれており、掌に魔力を貯めて柱に触れてみる。すると、扉が開いた時と同じような重々しい音が響く。どこか開いたのだろうか
光を強くし辺りを見渡すが何も無い。今のはなんだったのかと気になりつつも、未探索の祭壇の方に近づいてみた
『……竜……?』
祭壇には、とても大きな竜の石像があった。先程遠目で見た時は無かったはずだが、まさかあの柱がこの石像を表す装置の役目を持っていたのだろうか
石像の周りをぐるりと歩き、石像を眺めた。所々ヒビが入ってはいるが、神々しい雰囲気はしている。背丈は俺よりも少し小さいようだが、鱗も翼も、今の俺より明らかに立派だ。俺も頑張ればこの竜の様に……そう考えても見るが、もしこれが竜神の石像ならば無理がある
しばらく石像付近を探索したが、特にめぼしいものはなかった。壁の文字も理解しがたく、こういう時にガルマン様の知識が欲しいと思った。俺は欲しいものが多すぎる……わがまま、というのだろうか?
『!』
魔力を使う場所がないかも確認をしていると、突然地面が揺れ始めた。竜の姿である俺が揺れで足を動かすのに、ガルマン様達はどうだ?そんな思いが強まり遺跡とも呼べる場所から急いで元の場所に戻った。特になんの変化もないのには少し違和感があったが、最初にここは試練があると思っていた自分が恥ずかしい。ただの自分の思いよがりだったのだ
『……?ガルマン様?』
扉を抜けると、そこは変わり映えしないあの場所。俺が入る前と同じ場所なのに、二人がいない
『ガルマン様?キール?』
どこにも、居ない。それが不安で俺は辺りを探した後、必死になって外に続く道を歩いた。竜の姿から人型になる事を忘れ、必死に。脳裏を過るのは捨てられたのではないかという恐怖のみ。勇気をだして踏み出した結果捨てられるなんて、そんなの嫌だ
『ガルマン様!』
「おぉ、オウガ来たか。さっきの地震で壁が崩れたみたいでな……道が大変なことに」
どうやら先程の揺れで洞窟の壁が崩れ、それを見に来ただけのようだ。ほっと安心したのだが、安心出来る状況ではない事は目の前を見れば明白だ。帰りはどうするのだろう
「どうしようガルマン様……」
「せっかく道標も残してきたのにこれじゃぁな……なんとかしてこの岩を退けるしかなさそうだ。オウガ、中どうだった?」
俺の方を見ずそう言ったガルマン様に近寄りズイっと鼻先を突きつける。よしよしと撫でてくる手が心地よいが、まぁなぜこんな行動に出たかは不明である。最近甘えていなかったし、反動だろうか。先程変な不安に駆られ、手持ち無沙汰だったのかもしれない
「……魔法で飛ばすか」
「大丈夫?魔力切れしない?」
「大丈夫だ、心配するな。オウガもブレスとか出来ないか?」
『多分、出来る。試す、してない』
「試したことないのか……ちょっと怖いな。身体もでかいから範囲自体が広そうだし」
考え込むガルマン様の代わりに瓦礫と化した岩を調べる。よくよく見てみれば、細かくだがなにか凸凹に違和感がある。まさかだが、なにか記されているのだろうか。触るだけではあまりわからない
『ガルマン様』
「どうしたオウガ。何かあったのか?」
『へんなの、見つけた』
「へんなの?」
ガルマン様が俺の足の間から模様を確認しに来た。うーんと眉間に力を込めたあと、ボソリと何かをつぶやく
「どうしたのガルマン様、何かあった?」
「オウガがなにか見つけたみたいなんだが……なにか文字が刻まれているな」
『文字……』
目を凝らしてみても全く読めず、でもどこかで見たような気がするなぁと思いながら首を傾げた。どうしようと聞こうとした時ガルマン様の方を見ると彼の表情は険しい。もしかするとガルマン様も分からないのかもしれない
『……読める?』
「読めるっちゃ読める。だが……この文字がここでもあるとは思いもよらなかった。もしかすると他の場所では使われているのかも知れない」
興味深そうにマジマジと見つめるガルマン様にそんなものかと一つ岩を手に取った。コロコロ掌で転がしていると、ガルマン様がハッとしたように俺の手にある岩を見てきた
「オウガ、ちょっと見せてくれ!」
『?』
ガルマン様には大きいであろう岩をそっと目前に移動させるとそれをいろんな角度から見始めたガルマン様。時折岩をいろんな角度に回転させるとありがとうと言われた。役に立てているならそれでいい
「……ふむ、この岩はただの岩じゃないな」
「というと?」
「魔法文字ではなくとある文字でだが、魔力を使えば自動的に崩れるよう設置されているようだ。中で何があった?」
『柱、あった。扉、同じやつ』
「そうか。中にもあったか。多分それと連動する文字が……」
ガルマン様がまた岩の探索に入り、俺はそれを眺めながら尻尾を振った。カッコ良くて、頭が良くて、優しくて。俺にはもったいない主だ。見ていてこうもドキドキする人は初めてだ
「……おっ、あったぞ。やっぱり連動してるみたいだな……」
「ちょっと待ってね、ガルマン様。その文字魔法文字でも日頃見てる文字でもないんでしょ?これなに?」
ガルマン様だけが理解出来ていることに少し不満だったのかキールは口を開いた。ガルマン様は少し困ったような顔をしたあと「確かにこの辺りでは使われない文字だが、どこかの地域では使われているかも知れないな。現に魔法文字と同じ効力を持って今ここに存在している」と話した。よく分からないが、ガルマン様が分かれば学べる機会ができる。帰還後にでも教わろう
「……待て、この文字通りなら……」
別の岩の文字も読んでいたガルマン様がそう呟くとおもむろに扉の方へと歩き始めた。先程の攻撃がまた襲ってくるのではと不安に駆られるが、その心配も杞憂に終わり、彼は一歩中に入るも何も作動はしなかった
「ふむ……オウガが中で何か触ってくれたから私も入れるようになったみたいだな」
「え、じゃぁ僕も?」
「ちょっと待て」
嬉しそうにルンルンと歩いていくキールにガルマン様からの制止の声がかかる。キールは一気に落ち込んだが、ガルマン様は中の壁の文字を見て何か考える素振りを見せた
「ここは……竜神の神殿っぽいな……岩と同じ文字が書かれてある……魔力操作の力はないみたいだが……」
羽根を広げて高い所も確認しに行ったガルマン様。完全に置いていかれているわけだが、キールの拗ねようがとてつもない。まるで『自分だって役に立てるのに』と言いたげに俺を見上げる時がある
「キール、この様子だと入って来れると思うが……待ってるか?」
「!行くー!」
話しかけられてすぐ元気になったキールが神殿の中に入った。意気揚々と入っていったキールは満足げに俺を見上げる。そんなにガルマン様の役に立ちたいのか、そうか
「まだまだ文字が記されている。全部読みたい所だが……奥にも何かあったか?」
『石像、あった。俺より、小さい。でも、凄い』
「それがこの神殿に祀られている竜神かもしれんな……特徴は……ん?神話に語り継がれる竜神はある一定の条件で今も存在するのか……?」
「ひぇーっ、待ってよ~」
壁の文字を読みながら奥へと進んでいくガルマン様に遅れを取らぬよう足を進める。光さえあればどれほど遠くとも見えるガルマン様はどんどん奥へと進んでしまう為、キールがついて行くのがやっとのようだ。仕方ないので掌にキールを乗せて進むことにした。ガルマン様が早いのか、キールが遅いのか……
「……おっと、ここで切れてるな」
最後まで読んだガルマン様が俺の所まで戻ってきた。詳しい説明は長くなると言っており、纏めて話してくれた
1、この神殿は竜神が祀られている神殿であること
2、地下にある理由は、大昔に土の精霊王を怒らせた種族がおり、その時に埋まってしまったのではとのこと。それを記す追記のようなものがあったらしい
3、竜神が定めし試練が有り、竜神にその試練の結果を示せればなにか望むものを得られるとのこと。また、別の何かを得ることが出来るがそこは有耶無耶にされていたらしい
4、2番目の試練は力。竜の姿のままクリアしなければいけないらしい
5、試練は3つある。3つ目はまた有耶無耶にされていたとのこと
「……よくわかったねガルマン様。僕読めない……」
「今は読めなくとも大丈夫だ。古代文字みたいたものだと思っていればいい。だが……ふむ、その試練には私達は加わると大変なことになりそうだな……」
『なんで?』
「これは竜のための試練だ。他種族が関わると最悪の事態になると記されている……竜神が定めた物のようだな。なんでそうしたのかは不明だが」
俺はそれを聞いて妙に納得してしまった。俺はガルマン様を守れるほどの力が欲しいだけだから、他の誰かの力を借りていては駄目な気がするのだ。竜神とは気が合いそうなのかどうなのか
「まぁ、とりあえず次の試練だ。力を示すという事だとは思うが……」
『ガルマン様、俺、一人、考える。ガルマン様、待ってて』
「そうだな……頑張れ、オウガ」
ガルマン様とキールに待っていてもらい、俺は先程の石像があるところまでやってきた。なにか無いか探し回るもあまりめぼしいものは無い。うんうん悩んでいるとピンと来るものがある。石像、動かせないだろうか
『……違う』
石像の前に立った時になんとなくそう思った。なんだか違う……力と言うより、それでは腕力になってしまう気がする
『どうしよう……』
何が何だかわからなくなり、俺はウンウンと頭を抱えるのであった