急成長の証
オウガが強くなりたいと決めてからの成長は早かった。僅かな時間で戦い方を覚え、余裕のできたオウガに教えた筋トレの成果も分かりやすく出てきている。キールによると、竜種は体力や鍛える事に特化した種族らしく、私の教えた筋トレも相まって目覚ましい成長を遂げているのではとの事
最初こそ初めての事には戸惑っていたが、慣れも早く淡々とこなす様はもう別人であった。見ていてとても気持ちいいものだが、私は少しばかり困惑していたりもする。先程も言ったが、別人なのだ
「ガルマン様、肉、とってきた」
幼い姿とは全く違う、男らしく筋肉隆々の成人レベルの体付きになったのだから
「キール、私がオウガ鍛え始めたの何日前よ」
「?5日くらい前じゃなかったかな?」
「だよな、まだ何年も経ってないよな。なんであんな成長してんの」
「いつものガルマン様じゃないよ?大丈夫?」
「普通驚くだろ……なんであんな急成長するんだよ……口調も崩れるって……」
キールは驚かないし、オウガも当たり前だろ的な感じで狩りも鍛錬も勉強も勤しむもんだからどう突っ込んでいいのか分からない。なんだろう、この世界では常識なのだろうか
「ガルマン様、時々変だよね……頭はいいのに、種族のことはあんまりって言うか」
「仕方ないだろ、そういう系統は学んでないんだ……」
揚々と肉の処理をしてるオウガを見ながら私は溜息を吐いた。それを敏感に察知したオウガがチラリと横目で視線を向けてくる
「腹、減った?」
「減ってないぞ、大丈夫だ」
「……何かある、いう」
「あぁ、ありがとうなオウガ」
心配してくれるのは嬉しいことだが、多分私的にはオウガの成長っぷりが気になるので暫くこの状態だと思う。聞いていいのかな、聞こうかな。やっぱり聞いた方がいいよな……
「ガルマン様、気になるなら言えばいいのに」
「聞いていいものなのか?なんか気に触ったりしない?」
「変な所で気にする悪魔だな……あのね、竜人は実力に沿って成長するんだ。望んだ成長ができるから成長にも偏りがあるんだよ」
「へぇ……」
この後詳しく聞いてみると、どうやら竜人は体力や鍛えることに特化している為、自分の望む姿になる為にそれに沿った鍛錬を行うのが一般的だそうだ。魔法使いになる竜人の主な目的は自然の保護。魔法は自然を司る精霊達との交渉術のような物。自然は精霊であり、精霊は自然であるとされているようだ
で、オウガの場合は以前話した時に私とずっと居たいという意思を固めている。ずっと居るためには強くならなければ駄目であると同時に、私を守れるくらいの力が必要だと思ったオウガは必死に身体を鍛えて、技も学び、今に至るそう
見た目がクルクル変わるのは今だけらしく、大人になればその時の見た目が固定されるそうだ。オウガは私への保護欲が強く、あの厳つい姿から変わることはないんじゃないかとキールは考察している
「まぁ、竜人についてまた多く知れたからいいが、やっぱり急成長だよな……」
「うん、成長の面で見たらオウガは本当に早いと思う。普通の竜人でも、姿が成長するのは個人差はあるけど3ヶ月以上は掛かるし……」
「3ヶ月も凄いんだが?」
私の知らない事ばかりだと少し下を向いて物思いにふけっていると、トントンと肩を叩かれた。頭をあげると、真正面には何かの本を持ったオウガが居た
「どうしたオウガ、その本読みたいのか?」
「文字、教えてほしい」
「わかった、文字書きは教えてやらないとな」
鍛錬の類は教えたらすぐに実践して自分で成長して行くから私の出番が無さすぎて泣けたが、文字ならと淡い期待を持ってオウガに教えることになった。成長は嬉しいが、なんだろう。少し寂しい気もするのだ。これは私が子離れできてない感じだな……
「───で、この文字とこの文字で竜人と読む。お前の種族だな」
「……」
字とにらめっこするオウガがなんだか可愛くてヨシヨシしたくなるが、今それをすると立派に育った角で突かれかねないのでグッと我慢した。いくら可愛くても我慢だぞガルマン
「ガルマン様、聞きたい」
「どうした?」
「強くなる、もっと何か、ないか」
「もっと強くなりたいってことか?お前はこのまま行けば充分強くなれると思うんだが、それじゃ足りないと」
「足りない。ガルマン様、離せない、離れたくない。強くなって、守って、ずっと一緒」
オウガの意思が強く強固である事を改めて確認し私は魔法の書(初級)を棚から取り出した。今でもたまにキールも私も読む本で、魔法を始めるなら妥当であるだろう
「これ、魔導書。文字、わかる」
「そうだな、文字がわかるならこれも読めるだろう。本を読んでわからない所があれば聞くということをすれば文字も覚えやすくなるだろう」
「……魔法、ガルマン様、お揃い……」
少し頬を赤くさせてそう言ったオウガは、ページをペラペラとめくってどんな感じなのかを試し読みした。少し読めない部分もあったのか片眉を上げたが、それでも勝る気持ちがあったのかニヤつきながら本を見つめるその姿は、やはり可愛らしい。傍から見れば筋肉隆々の男のどこがと言われるかもしれないが、すまんな。私はオタク気質だ。可愛いものは可愛く思うし尊いものは尊い
そうこうしているとオウガが早速魔法の書の通りの訓練に励みだした。キールも昼飯の準備を始め、私もやることが無くなりとりあえず筋トレでもしてみる。久々という訳でもないが、筋トレは方法によっては本当に身体を効率よく鍛えられるので良いものだ。とある番組を見ながら筋トレしたりもしてたが、あれは結構キツかったな……
少し考え事をしながら腕立て伏せをしていると、キールが近寄ってきて背中に本を置いてきた。おい、誰がそんなことしろっていった。余計きつくなったぞコラ
「おいっ、キール…っ、なんでっ、本をっ……」
「オウガが乗せてくれって言ってたから、ガルマン様も鍛えてたし乗っけてくれる人いないだろうと思って……」
「マジかっ…」
オウガの方を見ると筋トレしながら魔法の書読んでるみたいで、アイツ凄いなとか本心で思った。私は無理、筋トレしながらは絶対に無理……竜人だから出来るのかは知らないが、絶対真似しないって決めた
「はいお水」
「あぁ、ありがとうキール」
「汗かいたらお水って言ってたの聞いてたから」
まだ十五にもならないのにキールは聡いなぁとほのぼのしながら思った。うちの子達はなんでこうも可愛いし賢いんだろ
「ガルマン様」
「どうしたオウガ、読めないところがあったのか?」
「違う。本、何か挟まってる」
「ん?」
オウガから受け取ったのはとある地図。以前砂浜からGETしてきた洞窟の地図だ
「懐かしいな、ちゃんとしまってたと思ってたんだが本に挟まってたのか」
「裏表紙、挟まってた」
「そうか。ありがとうなオウガ、これは暫く必要ないと思うから元のところに挟んでおいてくれ」
「うん」
言葉選びはどことなく子供に近いオウガにまだまだ子供なんだよなこの見た目とデカさでと感心する。竜人の成人は10歳らしく、今オウガは7歳なのであともう少しだろう。3年って短いからな……
「……ガルマン様、聞きたい」
「どうした?」
何か聞いたあとは別のことをするオウガが間を置いてまた質問してきた。返答してオウガの方を見ると、地図を広げてキラキラ輝かしい瞳をしている事に気がつく。地図を初めてみるオウガにとって、知りたい事が山ほどあるだろう
「ここ、行きたい」
「行きたいのか?でも、どこか知らなくてだな……」
「奥、行きたい」
「うん、だからな?ここの場所が──」
「奥、隠し通路、ある。奥、生きたい。ガルマン様、役たちたい」
「……ん?」
キラキラ輝く瞳が洞窟の奥を見ている。隠し通路という言葉をどこで覚えたのだろう。いや、そもそも隠し通路があるということをなぜ分かった?
「ガルマン様、どうしたの?」
「隠し通路がなんだとか言っててだな……この洞窟にあるらしいんだが……」
「えっ、そんなのあったの?オウガどこ?」
「あっち」
とりあえずゆび先から火を灯して洞窟の奥へと進んだ。私の左手をこれでもかと強く握るオウガの輝かしい瞳と嬉しそうな笑顔がなんとも言えない。地図を見てオウガは何を思ったのだろう
「……ここで行き止まりな訳だが……」
「……」
オウガはスタスタと壁まで歩いていき、ぺたぺた触りながら何かを探し始める。尖った岩に触れたオウガは、何か分かったのかそれを掴み、下へと下げた
すると、岩の壁は凄まじい音と揺れを伴い隙間を作った。オウガのような巨漢でも軽々入れるほどの隙間で、オウガは振り返りざまにとても可愛らしい笑みをドヤ顔風味で向けてきた。拍手したらしゅんとされてしまい、どれが正解なんだとちょっと考えた
「とりあえず、道は開いたわけだ……色々準備も整えたいし、今日はここまでにしてまた明日中に入らないか?」
「そうだね、今は入るべきじゃないかも。まだ食料とかも入るために用意してるわけじゃないし……」
「ガルマン様、明日、行く?」
「そうだぞ」
行く予定ができただけでも嬉しいのか、ふんふん鼻歌を歌い、尻尾を振りながら洞窟の入口へと戻っていくオウガ。キールはクスクス笑いながらそのあとを追い、私もそれに続いた。オウガ、精神年齢はまだ7歳だな……