吸血鬼の考え
※キール視点です
出来損ないと言われ、僕は捨てられた。高貴な吸血鬼の中にお前がいては、家族の汚点であると────
僕はいつ、母や父にそう思わせる事をしたのだろう。いくら考えても、今でも分からない。いや、分からないからこそ捨てられたのだろうか
僕は最初こそ、それを悔いて仕方がなかった。ディストピアに捨てられ行く宛もなく、ただただ太陽から逃げて、ろくに何も口にせず生きる日々。僕はこんなにも惨めに終わるのかと思った。最後は誰にも看取られずに、ただただ消えていくと
その時だ、僕に一筋の光が差したのは。太陽の光ではない、希望の光が僕を照らす。こんな僕に手を差し伸べ、傍に居て、出来損ないと言われた僕を褒めてくれる。心に満たされていくこの感覚が僕は好きだった
彼は僕にたくさんのことを教えてくれた。戦い方や皮の剥ぎ方、このディストピアで生きていく為の事を。最初こそ、こんな事をするのかと億劫になったこともある。でも、彼と生きていく為に、彼と乗り越えるために必要な事だと受け止めて、僕は必死に生きてきた
助けられてからの数ヶ月、彼の魔法で日中も傍に居れるため僕はとても気分がよかった。彼との日々一つ一つが愛おしくて、私の日常が以前よりも色鮮やかになる。そう、あそこにいた時よりも遥かに幸せだった
そんな時、彼は子供の竜を拾った。十五歳にして、身体は僕より相当大きな彼の腕に収まるその竜に、少しばかりモヤモヤした物を抱える。僕は彼の腕の中に収まったことはあるのだろうか。そう考えると、その竜が羨ましく感じてしまう
「キール、どうした?」
「へっ?あ、なんでもない!」
「そうか。無理するなよ」
「うん!」
彼は優しい。自分より弱い者をただ虐めるだけの存在が嫌いで、それを見ると不機嫌になってそれを狩る。本当の弱肉強食とはこういう事だと知らしめるように。それを僕は残酷だと感じたことは無い。彼は偽善だと自分を卑下するが、僕はそう思わなかった。だって、彼は弱い者に生き方を与えてくれる。まだまだ子供な彼が、大人のような立ち振る舞いで弱い者を導いている
彼に助けられた者達は、助けられたもの達同士で仲良く集団行動をしていると、僕の眷属から教わった。確かに、自分より強いものに勝てる術はディストピアには最初はなかった。だが、集団ならば少しは生きやすくなる。それを教えたのがガルマン様だ。分かり合えるもの達同士で暮らし、ほかの集団とも仲良くやっていると眷属から聞いた時、僕はこれからもガルマン様と一緒にいようと決めた。彼をこのままの存在で終わらせたくない
「キュゥ……」
「……キール、そこの薬草くれ」
「あっ、うん!」
ガルマン様に頼まれた薬草を収納していた箱から取り出すと、ガルマン様はそれで薬を作り始めた。何処から得た知識なのかは、この洞窟に大切にしまってある本棚から分かる。彼は僕と会う前から、こういったものを集めては読んでいたようだ
「キュゥ~っ!」
「痛いのはわかるが、我慢しろ。もう命に関わる傷じゃない」
「キュゥ……」
子供の竜が意識を取り戻したのか、言い聞かせるように薬を塗るガルマン様の後ろで僕は火の準備を始めた。いつの間にか外は夕方より暗くなっていた。夕方と夜の間に夜の準備をした方がいい
「キュゥ~」
「ん、まだ動くなよ。傷が開くぞ」
「……」
子供の竜の相手ばかりするガルマン様に対し、モヤモヤした物がまた現れる。もっと僕に構って欲しいなぁなんて、僕の口からは言えないのだけれど
「キール、どうした」
「ん?何が?」
「さっきから私の事ずっと見てるだろ?何かついてるか?」
「付いてないけど…あの……」
視線に気づかれるのは二度目、ガルマン様も何かあったのかと思い始めるのは当然だった。僕がしどろもどろしていると、何かを察した彼は僕に近づき────
「へっ!?」
「なんだ、これが望みじゃないのか」
「あ、いや、違くは…ない……」
相手にして欲しいし、腕の中に収まりたいとも思っていたが、まさかこんなに早く叶うなんてと顔が熱くなる。彼はただ、寂しいとしか分かってないのかも知れないが、僕はそれを利用して彼にめいいっぱい抱きついた。暖かい、心地好い。彼の鼓動が、温もりが、吐息でさえも愛おしい
「キュゥ~」
「あっ」
のそりと私とガルマン様の間に割り込んできた子供の竜。一瞬殺意が沸いたが、そこは抑えて一旦離れた
「なんだ、もう動けるのか。無理してないか?」
「キュゥ?キュゥ~♪」
「元気みたいだな、良かった」
子竜に向けるその笑顔に僕はモヤモヤが倍増した。僕だけに向けて欲しい笑顔なのに……子竜、なんて恐ろしい存在だ
「あの様子だとお前親とはぐれたんだな。まだ自然界に慣れる前だし、暮らせるようになるまで面倒を見てやらないと」
「……育てるの?」
「勿論だ」
当たり前だろ?と言いたげに答えたガルマン様に、僕は渋々首を縦に振った。かの子竜が自然界で暮らせるようになれば、僕の邪魔をするものは居なくなる。それでいいじゃないか
「ガルマン様、子供とはいえ竜だ。念の為気をつけてね」
「あぁ、わかってるとも」
そう言って頷いたガルマン様の紅月の様な紅い瞳が子竜に向けられる。モヤモヤは晴れぬまま、僕は晩御飯の準備をした
「歯も生え揃ってるし、肉は喰えるな?」
「キュゥ♪」
「火傷するなよ」
ガルマン様に懐いたらしい子竜は、餌を貰って嬉しそうだった。いいなぁ、僕もアーンして欲しいなぁ。そう考えていると突然目の前に焼きたてのお肉が
「え?」
「食え。ちゃんと食べないと明日動けないぞ」
「はっ、はぃ……」
モヤモヤすることもあるが、こんなに嬉しいこともあるんだし一々気にしてられないな。そう考えて僕は目の前のお肉に噛み付いた