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情を持った悪魔

キールが私の血の味を知ってから数日後。二人で魔獣を狩ることが多く、少しいい暮らしをしていると変な輩に絡まれるのが当たり前なこの地域。すぐに目をつけられた


「なぁ、俺たちにもその肉分けてくれるよなぁ?」

「お互い助け合いが大事だろ?」

「何が助け合いだ。お前達は助け合い精神皆無だろ」

「おっと、こりゃ酷い言いがかりだ!俺達ほど優しーくしてやってる奴はいねぇぜ!なぁ!」

「おう!」


コイツらは知っている。説明するのも嫌になるくらいの悪行を行っている奴らだ。それの何処が優しいのだろう。少しばかり幸せに暮らしている場所から何かを奪っていくことが優しさというのか。阿呆らしい


「お前達に渡すものは無い!自分達で狩って食べたらいいだろ。わざわざ俺たちから貰わなきゃ生きてけないのか?」

「チッ、ちょっと優しく接してやったってのにこの対応か。調子こいたガキはこれだからきれぇなんだよ」


数分も経たず本性を出した相手にキールは少し怖気づき私の背中に隠れた。それを見た輩共は押せば行けるとでも思ったのか、不格好な武器と言えるかも分からない先を尖らせた武器を持ち出した


「ほら、怪我させられたくなけりゃ寄越しな!」

「戦う気があるなら魔獣も狩れる。その足で森に行けばいい」

「おいおい、そんなこと言っていいのか?そこのガキ、見た感じ弱そうじゃねぇか。そいつ怪我させちまってもいいのか?ん?」

「やれるならやってみろ」


俺の言葉は威勢ばかりだと思ったのか一人が出てくる。キールに小さく「血が飲み放題だな」なんて言ってみると、瞳を輝かせて前に出た。キールの代わりに願っておこう。サラサラな血でありますように


「おらあぁあぁ!」


敵の先制攻撃。残念ながら、人間の動きは鍛えてきた吸血鬼キールの前ではノロマにも程があり、すぐ様急所にナイフを突き刺した。これも弱肉強食。負けた者は食事となるのだ。特に人間は、格好の餌食だろうに。よくもまぁこんなにも来てくれたものだ


「こ、こいつガチで殺しやがった……!?」

「当たり前だろ。ディストピアが弱肉強食って教わらなかったのか?いや、どこもかしこも、国の外は常に弱肉強食だろうな」


ウキウキした様子のキールを見て他の人間達は後ずさる。私も戦って少しは経験力を上げたいのだが、どうやら相手は戦意喪失しているようでまともな経験にはならないだろう


「うっ、うわあああぁあ!」

「ひいぃぃっ!」


誰からともなくその場から尻尾を巻いて逃げていく人間の集団。呆気ないものだった、楽しくない。まだ私は戦ってないのに


「ガルマン様!」

「飲んでいいと思うぞ」

「わーい!」


嬉しそうに腕にかぶりついたキールは、そのまま吸血(食事)を始めた。途中から顔を顰め、最後には「うぇっ」という言葉と共に腕を落とした。どうやら美味しくなかったらしい


「うぅ……ドロドロしてて、脂ぎってて……全く美味しくなかった……」

「仕方ないな……人間好きなやつに渡すか」

「うん……」


顔色を前より悪くしたキールがげっそり顔で歩き始めた。私は人間を担ぎ、そのままちょっとした集落まで足を運ぶ


「あー!ガルマン兄ちゃんだー!」

「ガルマン兄ちゃん!」

「久しいな。これ食うか」

「わー!久々のごちそうだー!」


人間が好きな虎の獣人の集落にやってきた。勿論人間は相当喜ばれ、ついでに魔獣の肉も提供しておいた。この弱肉強食の世界、こうやって正当に協力してくれる者は貴重だ。敵対しないならば大事にするに限る


「キール兄ちゃん、お顔真っ白ー」

「人間は、まだ私には早くって……」

「美味しーのにー」


焼くのが待ちきれなかったのか、少し炙ってむぐむぐと食べ始めた子供達。育ち盛りはよく食べる


「キール、口直しするか」

「する……」


キールが相当しんどそうなので、親指の鋭い爪で人差し指の腹に切り、血を流す。少し深かったのか溢れ出した血に興奮してキールはすぐに飛びついてきた


「んぐんぐ……」

「美味いか」

「んぐっ」


輝く瞳で美味いと言われたので、キールにとって私の血はどんな感じなんだろうと少しだけ気になった。興味が湧いたり冷めたり、忙しいな私は


「ガルマン兄ちゃん、お肉美味しかった!ありがとー!」

「いや、大丈夫だ。私たちに喧嘩売ってきたから返り討ちにしただけだしな。その戦利品だとでも思ってくれ」

「あ、そうだ!今度ね、狩りに出るんだって!お外の悪い人たち食べていいって言ってた!」

「お前はその()()()になるなよ?」

「ならない!食べられちゃう!」


悪いヤツ=食べられるっていう考えはこの集落独特だなぁと考えながら、私達はその場をあとにした。いつまでも私の指に食いついてるキールはちゃんと剥がしておく


「ガルマン様、もう少し強くなったら仲間欲しいね」

「だな、多い方が何かと効率もいいし。浜辺とか言ったら漂流物あるから、後でそれ見てみるか?」

「うん!見に行こう!」

「日除け魔法強めにしとかないとな……」


日光が直撃する浜辺は吸血鬼の苦手な場所なので、魔法の効果はしっかり強めていく。ここで砂とか灰とかになられたら喪失感でどうしたらいいのかわからなくなりそうで怖いのだ。死を体験しているからこそ、身近にあるそれに少し恐怖の念を抱いている。いや、こんな場所で生活してたら怖いものなんてないと最初は考えていたが、やはり記憶があるのとないのとでは、大きく違いが出てくるものだ


「こっちだったっけ」

「潮の匂いがする。こっちで合ってるだろ」

「ガルマン様はなんでも知ってるね……どうやったらそんなにたくさん覚えられるんだか」

「ちょっとな」


前世の記憶があればこの世界でも少しは役に立つ。魔法などの知識も、ファンタジー系統でなんとなくは知ってるし、それがここの世界と適合する物だったから使ってる迄だ


「わぁ……ここが海!」

「こら、まだ魔法強めてないんだからな」

「えへへ……」


男のくせに可愛いなと心は女である私は少し悶えた。子供だから可愛く感じるのだろうか


「……これ、なに?」

「【正しい敬語を学ぶ本】……?よく分からない物が流れ着いてるな。お、これ使えそう」


漂流してきた箱や瓶などを物色していると本や武器などが手に入った。一部必要性のなさそうなものもあったが、取り敢えず欲しい物を持って拠点に戻ることに


「なんだ、敬語の本持ってきたのか」

「うん。わからない文字は教えてね?」

「ん」


拠点に戻ったあとは、拾ってきた物の整理を行った。錆びてしまっている刃物系も、魔法で手入れをすれば使えるので置いておき、本などの物は作った箱の中にしっかりなおした


「ガルマン様!これなんて読むの?」

「【おっしゃる】」

「ふむふむ……」


敬語の本に熱心になっているキールを他所に分別を進めた。言い忘れていたが、私達の拠点は大きな洞窟の入口付近。穴はそこまで深くなく、火をつけて進めばすぐに最深部に到着する深さだ。だが、広さ的に二人では広過ぎる


「……なにか来る」

「え?」


私の気配察知が何かの気配を見つけた。千里眼は使えないので、取り敢えず見に行くことにする。気配的に衰弱しているようだ


「だ、大丈夫なの?ガルマン様、怪我しない?」

「衰弱しているとはいえ、強い魔物だった場合はどうだろうな。まぁ、その時はその時だ。援護頼む」

「う、うん……」


キールが後ろを着いてくるのを見て、私はそのまま気配の方へ進んだ。長く生い茂る草を除けながら進むと、そこには傷だらけの小さな竜がいた。竜と言っても、本当に小さな者。私の腕の中で納まってしまうくらいの大きさだろうか


「りゅ、竜種だよガルマン様!」

「落ち着けキール。弱ってて火を吐くのも無理のようだ」

「キュゥ~……」

「……」


弱々しく鳴く子竜を見ていて、私はそっと頭を撫でてみた。息遣いが荒く、このまま放置すればこのままこの世を去るだろう


「……キール、帰るぞ」

「えっ、連れて帰るの?」

「あそこなら手当できる位の薬はあるだろ。前調合したんだから」

「う、うん……」


ここに来てまさかお人好しを発揮してしまうとは自分でも思ってなかったが、記憶のせいで前までの残忍さはどこへやらになってしまったのは事実。前世ではよく人助けをしていたし、弱っているものは助ける精神だったせいだ。記憶を手に入れても微妙な気分だ


「竜の手当なんて出来るの……?」

「しないよかはマシだろ」

「まぁ、そうだけど……」


弱肉強食のこのディストピアで、こんな優しくしてたら仇で返される事もある。それが心配なのだろうがこの竜はそれどころじゃないだろう。その時は捩じ伏せるしかない


「キュゥ……」

「まだ意識は朦朧としてる……暫くはこのままだろうな」


覚えたての治癒魔法を使いながら、傷だらけの子供の竜の手当を終える。こんなにも小さいという事はただの竜では無いのだろう


「ガルマン様、この本に載ってるんだけど、この子亜人かな」

「亜人?……あぁ、亜人か。竜の姿になった時に狙われたか、逆に攻撃されて竜の姿になったのか」


今はよく分からないが、取り敢えず安静にさせて怪我の傾向を見なくては

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