名コンビ
キールと出会ってから四ヶ月が過ぎた。キールの元気も出てきて、誰かと戦う確率と回数が増えた為か、二人とも強くなってきたと思っている。私は日除け魔法を使っている時に、別の魔法を使えるようになったりして調子がいいし。キールは日除け魔法のおかげか、日中でも翼を広げて飛び回れるようになったし、接近戦も上達してきてそこらの人間には負けないくらいだ。とてもいいコンビだと思っている
「ガルマン様」
「ガルマンでいいって言ってるだろ。俺と二歳しか変わらないし、仲間なんだから」
「私より強いから……」
キールは最近、私に様を付けるようになった。どうやら尊敬する人に対しての礼儀として叩き込まれた物で、しょうがないと言っている。吸血鬼ってよくわからない
「……もういいや。今日はどうする?魔獣狩りに行くか?」
「そうだね、久々にお肉食べたいかも」
「よし、なら魔獣狩りだな」
ディストピアの魔獣は結構手強い。多分二人がかりで倒せる位だろう。力量も試されてくるし、戦ってるといい経験になっているのでよく魔獣狩りはしてる。魔法の良い的だし
「ガルマン様、私にも魔法を教えてもらっていいかな……」
「魔法?なんで」
「接近戦も身についてきたけど、出来るなら魔法を覚えておきたくて……」
「真面目だな……わかった、帰ったら魔法書の初級貸してやる」
「やった!」
魔法もそうポンといきなり使えるわけじゃない。そこまでの知識と魔力が必要だ。その基礎を学べるのが初級だから、覚えようとしているキールには良い教科書になるだろう
「あっ、ガルマン様!あそこに猪がいる……」
「ホントだな。モンスターみたいだし狩るか……」
木漏れ日の差す中、プースカ眠っている猪二体を発見した。顎から生えた大きな牙が特徴的で、身体もでかいしいい肉が取れそうだ
「私が影縫いで動きを止めるから、その間に任せた」
「了解」
木漏れ日で照らされる身体の先に出来た影に魔法の杭を指す。確か前世の忍者とかが使ってた技だった気もするが、魔法に応用するなんて容易いことだ。影魔法の応用は基本だし
「せいっ!」
「フゴォッ!?」
「プギィッ!!」
キールが石を加工して尖らしたナイフを頭に突き刺した。詳しくは言わないが、確実に急所に入っただろう。それでも少しは抵抗するので、しっかり影を抑えてトドメを刺させた
「ど、どうだった!?」
「ナイスだキール!皮はいで焼くぞ!」
「うん!」
飛び散った血を拭いながら返事をするキールに流石は吸血鬼だと少し感心した。血に対して何の感情もなく、時折舌舐めずりする程だ。こういう生活だから吸血鬼のメインの食事の方は疎かにしているが、血よりもお肉の方が好きだと本人は言っているのでそこら辺は深く聞かないでおこう
「ガルマン様は焼いた方が好きなんですか?」
「まぁな。焼いた方が美味しい」
「血が滴っていいと思うけど……」
「生肉はなんだかなぁ……」
今までは生肉だろうと食えりゃいいとガツガツ食べていたが、前世の記憶が原因で生肉を食べるのが億劫になってしまった。焼いた肉の味をしめてしまえば生肉はもう食べれない。焼肉美味い
「……」
「?どうしたキール」
「あっ、なんでもない!」
「??」
肉を食べていると不意に視線を感じ、その視線の先にいるキールに聞いてみたがなんともないと返ってきた。吸血鬼独特の紅い瞳がなぜか妙に気になる
「……何かあるなら言っていいんだぞ?」
「大丈夫!」
「それならいいんだが……」
明らかに見てくるキールが不思議で堪らない。私がなにかしてしまったのだろうか。いや、それならもっと嫌な視線に感じる筈だ。キールの今の視線はなんだかチクチク刺さるような物じゃなくて、少しだけ心地いい。気になるのは変わりないのでどうにかしたいところではある
「……ガルマン、様……」
「なんだ」
「……指……」
「指?……あ、怪我してたのか」
皮を剥ぎ取るときに石の尖った部分で切ってしまったのか、右手の人差し指から少しばかり血が流れていた。もう塞がりかけているそれに特に気にせず食事を進めようとすると、横から青白い手が伸びてくる
「キール?」
「美味し、そう……」
「おい、キール?」
うっとりしたその表情に、吸血鬼の本能だと悟った。口元まで血の流れる指を持ってくると、躊躇せずパクりと口にくわえた。血の流れる傷口にねっとりと舌を這わせ、キールは幸せそうに少量の血を堪能し始める
「……もう流れてないだろ」
「んー……」
「……」
こういう時の対処法が分からなくて、私は取り敢えずキールの後頭部に怪我のしていない手を回し、髪を優しく掴んで固定した。血に夢中なキールはそれに気づかず舌を這わせているので、口の中に親指と中指を突っ込み口を開けさせた
「あががっ!?」
「吸血鬼だから鋭いな、キールの牙。まだ子供とはいえ、これで噛めば血なんて簡単に吸える」
「あが……?」
遠回しに「私の血じゃなくて獲物の血を吸え」と言っているのだが、伝わらなかったのか私の指を離して流れ作業のように指に付いた唾液を拭いとったキール。そのあとは何事もなく肉を食べ始めてなんだったんだと言う気持ちでいっぱいになったのは言うまでもない
「あっ、ガルマン様。怪我したら教えて欲しいな……特に流血とかしたら、真っ先に」
「……わかった」
「やった!」
嬉しそうにはしゃぐキールに、俺の血そんなに美味しいのかとカサブタになっている怪我を見た。私もこの世界では悪魔だし、ちょっとくらい血は美味しく感じるのだろうか。そこら辺よく分からない……記憶を取り戻す前の食事案件は、私の記憶から無くなったし、正直悪魔だし深く考えなくてもいいだろう