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精霊王の心

精霊王視点です

「なんだいなんだい、久々にあたいが見えるやつに会えたってのに……」


何かに逃げるようにその場を去ってしまったあの二人とその連れを見ながらあたいは愚痴を零した。ここの祭祀はあたいのことが見えないくせに呼び出すのだけはいっちょ前なんだ。あーあ、まだ帰りたくない


「……そうだ!」


あたいはいい案を思いつき彼らを追いかけた。そう、まだ彼らには()()をしていないのだから


《路地裏》


「いたいた……」


コソコソ話をしている四人を見つけ、そっと近づく。先程竜の角を持つ男に抱きかかえられてた黒い獣人がくんくん鼻を動かすと、何か黒い角を持つ悪魔に告げた。するとすぐに悪魔がこっちを向いて、手を振ってくれる。悪魔の行動がどうも嬉しくって、私はコソコソするのをやめて一気に飛び込んだ


「悪魔~!離れちゃ駄目じゃないか~!どこいく気だったんだいあたいを置いて!」

「ちょっとな……帰らないのか?白黒の世界に」

「そりゃあたいの勝手さ。どっちに居たって時間は保たれるんだから。で、で?さっきはなんであたいを置いていったんだい?気になるじゃないのさ」


少し話をずらそうにした後、悪魔は話してくれた。どうやら変な輩に目をつけられたかもしれないから撤退してきたらしい


「まぁ、あたいが見えるヤツは将来凄いやつになるのが決まったようなもんだからね!で、で?あんたらは何を望むんだい?」

「?」

「もう、いけずだねぇ……精霊王への願い事だよ、ね・が・い・い・ご・と。富かい?名声かい?それとも両方?あんたならなんだって叶えてやるさ」


目をぱちくりさせた後連れの三人と目を合わせてまたこちらを見た悪魔。悪魔だから世界とかいいそうだねぇ。白黒の世界はやれないが、この世界くらいならちょちょいのちょいと───


「何も要らないな」

「そうかい!なら今から……へ?今なんて?」

「何も要らない、と言った」

「な、なんで?富よ?名声よ?下手すりゃあんたが欲しいもん全部手に入る!どうして?!」


今まであたいをその目に映し、言葉を理解した奴らとは違う言葉に戸惑いを隠せない。悪魔の心には野望も願望もあるのに、なんでそれを願わないのだろうか。いい悪魔でも演じる気か


「綺麗事はごめんだよ!ほら、あんたの心の中、願望も野望も、沢山あるじゃないのさ!それを言ってご覧!あたいがパパッと───」

「願い事で叶えられる物じゃないから、言わないんだ」

「……それ、どういう意味だい?あたいが精霊王だってこと忘れてないかい?時の精霊であるこのあたいが少し時を弄ればなんだって手に入るんだよ?」

「ははっ、ごめんな精霊王。私が欲しいものは富でも名声でも、世界でもないんだ」


なぁ?と言うように自分の近くにいた連れのうち二人を撫でる悪魔の微笑みは人間のようで、とても暖かく感じた。吸血鬼や獣人は撫でられて嬉しいのか、笑みが零れている


「私はただ、家族とその家族を守れる力が欲しいだけだ。その力も、自分で手に入れたい。精霊王から貰ってしまったら、達成感がないだろ?」

「達成感……?それの為に、すぐに手に入る物より時間をかけるってのかい?」

「そうだな、私なりの馬鹿な考えだよ。弱かったら守れないのに、その達成感の為に君の提案を蹴った。私よりオウガに聞いてやってくれ」


自らを貶した悪魔は、その視線を竜の角を持つ男に向ける。だが、視線を向けられた男は小さく息を吐き、首を横に振った


「……俺も、要らない」

「なんでさね!」

「もう、手に入ってるから」


竜の角を持つ男はそのまま悪魔に抱きつき擦り寄った。くすくすと笑って悪魔がその男を撫でるのを見て、なんだか悲しくなってくる。あたいは誰かの願いを叶えなきゃいけないのに、意地悪する気かい?


「…本当に、何も要らない?自分で手に入れる?」

「あぁ。私もオウガも要らないと結果が出た。好意を捨てるような真似をして申し訳ないが、それを叶えてしまうと傲慢になってしまうかもしれないから、断るという選択肢以外は無いかな。我儘言って申し訳ない」

「……」


目の前の悪魔は自分の手にある生き物を大切に抱き締めている。吸血鬼も、獣人も、竜人も……種族も違って、血も繋がってないのに。とても大切にしているのが分かって、あたいは自分のマントを握りしめた


「……不思議な人達さね。でも、そこがいいんだろうねぇ……」


悪魔の頬に手を添え、コツンと額と額をくっつける。悪魔が私の頭に手を持ってきて、額をそっと寄せてくれた。暖かくて心地いい。こんな気持ちは初めて……胸が熱く高鳴って、()()はとても楽しいものになったと感じられる


「……せめて、あんたらの厄災を退けるくらいは願わせてくれるかい?」

「精霊王直々に願ってくれるなんて光栄だな。ありがとう精霊王」

「……ローゼンハイン」

「?」

「あたいは、ローゼンハイン・ヴァルプルカ……ローゼンとでも、プルカとでも好きに呼ぶといいさね」

「そうか、なら……ローゼンと呼ばせてくれ。私の名はガルマン、この子がオウガで、この子がラルク、この子がキールだ」


とても嬉しそうに紹介していく悪魔に、なぜか胸が高鳴った。あぁもう、なんさねこの気持ちは。世界が出来てから何億年も生きてるのに、1度も感じたことがないものだ。……わかる日、来るのかねぇ


「……とてもいい名前だね。さて!そうと決まればあたいは帰るよ!なんたって精霊王だからね!管理は忙しいもんさ!」


胸を張って少し嘘をついた。管理なんてこの世界は要らないんだ。時のままに流れるのをただ見続けるだけでいい。でも、こうでも言わないと彼から離れることはあたいには出来ないだろう


「ローゼン、またあったら美味しいものご馳走するから」

「……楽しみにしてるさね。じゃぁね!」


竜の角を持つ男とはそこまで話さなかったが、悪魔……いや、ガルマンと話せてあたいは満足して白黒の世界に帰った。精霊の集いに行こうと思い空を飛んだが、少しだけ後ろを振り返ってみる。まだ少しあたいの話をしているのを見て、心を踊らせながらその場を離れた


(ガルマン……あの男、幸せになって欲しいさね……)


高鳴る胸を抑えて前を向く。この感情は、何なのだろう

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