危険ななにか
「美味しいね、ガルマン様」
「あぁ、美味しい」
「塩…」
「ムグムグ」
四人で魚を食べながら、取り敢えず現在地を把握する為に地図をキールから受け取った。なんだか歩くペースが早いから森を抜けるのは、予定より少し早くなりそうだ
「あっ、そう言えば眷属からさっき連絡があったんだけど、森の外の平原で戦争の跡があったって」
「せんそう?」
「……??」
キールの戦争の言葉に二人は首を傾げた。その面の知識は疎いらしく、教えてあげようと口を開いた
「戦争は、国家間で互いに自国の意志を相手国に強制するために、武力を用いて争うことだ。敵方を滅ぼしてそのまま領地にするか、はたまた奴隷化させて自分たちの資源とするか」
「…和解の道がないのか…」
「名前からして俺好みのやつかと思ったが、そうでもなかったな。それはいけ好かねぇや」
少し気落ちしてしまったが、二人は戦争の件で腹が立ってるのか魚をガツガツ食べている。眉間のシワがわかりやすい
「食べ終わったらまた歩くぞ。戦争の跡という事は今はもうやっていないはずだ。またドンパチやられる前に通れるといいんだが」
「巻き込まれそうになったらオウガに乗って逃げればいいと思うな、僕」
「……ガルマン様に手を出す奴……殺す」
「国同士の戦いで目をつけられると厄介だからな。なるべくなら逃げたい」
「……承知」
殺意満タンで据わった目をしていたオウガに念の為釘を刺しておいた。微かな表情の動きで怒ってるか悲しんでるのかを把握するのはとても難しい。オウガの場合眉間でなんとか把握できるから助かるものだ
「よし、そろそろ行くぞ!」
「はーい」
荷物を纏めて地面に穴を掘り魚の骨や燃やした後などを埋め、魔法をかけて土に還るか木になるかどちらかに行くよう促した。魔法だから数週間後にはどちらかの特徴が出てくるだろう。魔法ってホント便利だよな、うん
「…なぁ主様」
「ん?どうしたラルク」
「……なんでもねぇ。なんでもねぇけど服の下覗きてぇとか思うなよ」
「?????」
ラルクの唐突な忠告に私は首を傾げるしかなかった。だって、いきなり変なこと言われたんだから仕方ないだろ?なんだ服の下覗きたいって。私そんな変態な人に見えてる?
「……あれ?」
「?どうしたキール」
「ちょっとこれ見て」
「ん?」
キールの持つ地図を見ると、何か赤い模様が浮かび上がっているのが分かる。少し先に行った進行先にちょうど出ているその模様は、前世でみた戦いを表すマークに似ている気がした
「なにかな、これ」
「……嫌な予感がするな。ちょっと迂回するか」
「ま、マジか……まぁ、主様が言うなら仕方ねぇか」
「取り敢えず眷属を送ってみるよ。それまでは迂回で」
「……承知」
赤い模様を浮かんだ所をギリギリ避けて迂回する事にした私達は、迂回した後元の進行先に戻った。すると、突然大きな咆哮が鳴り響く
「みっ、耳がいてぇ!キーンってする!」
「ガルマン様、無事か」
「私は大丈夫だぞ、キールは」
「う、うん…僕も大丈夫。ありがとうガルマン様」
「いや、咄嗟にオウガに耳を塞がれたからつい目の前にいたキールの耳を」
「俺だけかよ被害出てるの!あぁ耳が痛てぇ……」
プルプルと震えるラルクをヨシヨシと撫でると、咆哮に若干怯えていたのかギュッと抱きついてきた。そう言えばこの子もキールと同じ16歳だったな。獣人の成人は18だし、外に出ていなかった分まだ子供なのか
「というか、今の聞こえた大きなのってなに?」
「咆哮に近い……」
「見てみてぇけど見たくもねぇ」
「1人が戦意喪失してるし、ここはこのまま進むを選ぶ。ラルク、歩けるか?」
「うぅ、情けねぇ……」
プルプル震えてまともに歩けないラルクを背負って先に進んだ。狼系統というか、イヌ科は主が危険じゃない場合敵が強いと認識すると勝つ気失せるのかな……よく分からないこと多いんだよなぁここ
「グォォォォオ!!!!」
「明らかにやばい」
「オウガ、お願い!!」
『任せろ!』
オウガが飛び上がり、竜の姿へと変化した。その瞬間ラルクを背負っている私やキールを抱き上げ一気に森を抜けるために上空を飛空する。ラルクをしっかり抱きしめながらなんとか後ろを振り向くと、何か黒く禍々しいものが蠢いていて、目を凝らしてよく見てみればなにかどす黒いものがついている気がする。見てはいけないものなんだな、把握したぞ
「あっ、結界張られた」
「えっ」
『今はとにかくここから逃げる』
「そうしてくれ。ラルクが落ち着く場所に行こう」
「すまねぇ……うぅ……」
オウガがその場から一気に離れた瞬間、球体型の結界が森に張り巡らされた。それに体当たりする黒く禍々しい触手のようなそれを見ながら、私達は瞬時に森を抜けた
《平原》
「ラルク、まだ歩けそうにないか?」
「うぐうぐ…俺ぁこんなにも弱い…」
「完全に自信とか色んなもの失ってる…」
「精神的にはそこまで成長していない感あるな……」
私の背に居るラルクは、大きさからして170cmはありそうだが、プルプルと震えて小さく泣くから子供のように幼い印象が見受けられる。少し下にズレてきたので背負い直すと首元にふかふかの獣毛が強い力で巻きついてきた。耳元では鼻を鳴らす音や小さな嗚咽が聞こえ、この子が完全な大人になるのはもう少し後かなぁと考える
「なんだろうなぁ、ラルクは悪ガキって感じなのかな。ちょっと似てない?」
「……確かに……」
「うっせぇ!俺だって、ちゃんと経験積めば……うぅ……」
「こらそこ、喧嘩しないの。ラルクも戦闘を繰り返せば本能的に成長していくだろうし、大丈夫。なぁラルク」
「主様ぁ……」
鼻をスピスピ鳴らして沢山擦り寄ってくるラルクのもふもふを堪能しながら平原を歩いた。地味に後ろから何かのぶつかる音とかが響いてるが、そんなの知らない知らない。危険なものには近づかないに限る