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記憶が戻った十五歳

ただ、普通に暮らして普通に仕事をして、いつも通りに家に帰ろうとしただけ。私は特に悪いことなんてしてなかったし、ただただ日々を過ごしていただけだ。もしそれがこれの原因だと言うならば、私は死の基準を教えて欲しい。どうすれば長生きできて、好きな人と暖かな家庭を築けるというのか。どうすれば、私はもっと───


「……はぁ」


こんな暗い気持ちになっているのも理由があった。私はとある無法地帯【ディストピア】にて産まれた、珍しくもない下級悪魔である。周りは様々な種族のものが闊歩しているが、どれも高貴な種族のものではなかった。下級悪魔は勿論、オークや人間など多くの生命が生きる場所。精霊や高貴種族、貴族達から見捨てられた最悪な場所である


そんな場所で生まれ、十五歳となった私は人間とのいざこざでとある記憶を思い出した。それは前世と呼ばれるもので、最初は気にも留めていなかった。だが、数日経てば今まで当たり前だったこの生活が心底嫌になってくる。毎日喧嘩をする大人を見て、負けた大人から弱い子供はたかられ、負ける。私は悪魔だから人間やオークからは逃げれるが、弱肉強食のこの地域ではほぼ救いがないと言っていい


そんな中でやはり【国】というものはとてつもなく大切なものなんだと実感した。前世の記憶があるからこそ、纏まったものを治める器は必要だし、その分の生活力や様々な能力が必要となってくる。前世の記憶を思い出す限り、そういったものは本当に有難いものだったのだ。記憶の中の政治とやらも、国を成り立たせるためのものなのだから


「……お前、大丈夫か」

「…………」

「水いるか」

「……」


前世の記憶の事もあり、その時までなかった()()が芽生え、前世の名残りか自分より弱い誰かに手を差し伸べるようになった。ただ逃げるだけだったから、怯えられることはなかった。名も通ったような悪魔じゃないのが一番だろう


「あ、ありがと……」

「吸血鬼のくせに陽に出てくるなんて愚蒙だぞ」

「ぐ、ぐもう?」

「馬鹿のやることだぞってこと」

「ば、ばか……!?」


記憶が手に入って語彙力も増した分、学ぶことなんて野生としての生存能力だけのこの場所で難しい言葉はあまり通じない。まぁ、それに合わせられるからこちらはあまり不自由はない


「お前、日除けは?というか、吸血鬼ならなんでこんな所に居るんだ」

「……親に、捨てられた……」

「あー……そういうタイプか。なら仕方ないな、私と来い」

「え?でも……」

「日除け魔法位使える。十五歳ナメるなよ」

「あ、ありがと……」


三十まで生きて、今の悪魔生足すと45な訳だが、元は女ということもあり母性的何かが疼いた。魔法もショボイが使えるし、時々影に入って休憩でもしたらまた4時間くらいは日除け魔法を使えるだろう


「ここのルール知ってる?」

「しらない。きたばっかり」

「なら説明するけど、簡単に言うと弱肉強食。ここでやってくには倒すしかない。飯とか水とかは、まぁ俺についてきたらいいよ。その時に話す」

「……あんなのと、たたかうの?」

「ん?」


ディストピアの簡潔な説明をしていると、吸血鬼の子供が指を指した。そこには図体のデカいオークが居るが、アイツはディストピアでは珍しい優しいタイプのやつだ。特に気にすることは無いが……これもおいおい話してやろう


「そうだな、例外もいるが戦わなきゃならない。吸血鬼は夜しかまともに動けないと思うけど、ちゃんと守ってやるから安心しろ」

「うん……」


ここに来たばかりと言うなら、戦い方なんて分かるわけもない。暫くは私が守ってやらないと、いつお陀仏になるか分かったものじゃない


「名前は?」

「キール……」

「キールか。私は……」

「?」


今更ながら、自分に名前が無いことに気がついた。名前なんて呼ばず、会ったら即戦いで名前なんて覚えてられない。まず、ここで生まれた奴に名前があるのだろうか。私は前世の名前があるが、流石に女の名前を使う訳にはいかないだろう。どうしたものか


「……私の名はない。キールが考えろ」

「えっ!?そ、そんな。急に言われても……」

「なんでもいいけど、癪に障る名前は却下するからな」

「えぇ……」


自分で自分の名前を付けるなんて事は嫌だったので、取り敢えず仲間とこれから宜しくというの印に名前をつけてもらうことにした。キールは必死に私に似合う名前を考えてくれているようで、その姿が妙に可愛らしい


「ガ、ガルマン……ガルマンじゃ、駄目……?」

「ガルマンか……いいな、気に入った。私は今日からガルマンとして生きていく。よろしくなキール」

「うん!よろしくガルマン!」


可愛らしい笑みを浮かべるキールにこちらも笑みが零れた。子供を持ったらこんな気持ちなんだろうか。家庭を持つ前に死に、生まれた時から母も父もいない私にはわからない事だった

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