1.日常
まだ異世界は関係ありません。
「あっづ~」
僕ー天宮暁はうだるような暑さのなか、学校へ向かって歩いていた。まだ6月の初めだというのに立っているだけでじんわりと汗ばむような暑さだ。
30°近くはあるんじゃないだろうか。
「うへぇ、体がベトベトする。こんな日まで長ズボンとか、学校側は鬼かよ」
そう、なにせ学校に行くには制服を着用せねばならず、下は大体長ズボンだ。冬場はありがたいが夏にはただの地獄である。
「あー、家帰ってシャワー浴びてクーラーの効いた部屋でゲームしてたい」
そんなニートじみた事をブツブツと1人ごちりながら、学校への道をノロノロと歩いていく。
「なぁーに朝からそんな疲れた顔してんの、よっ!」
バシンっ!と後ろから勢い良く背中が叩かれる。
夏ともなればワイシャツ一枚しか着ておらず、当然そんな状態で思い切り叩かれれば、かなり痛い。
「ってぇーな!人の背中いきなりぶっ叩くなよ!七海。あぁぁー、めっちゃヒリヒリするぅ~」
七海ー花咲七海は、僕の中学からの友達で数少ない心の許せる相手だ。
髪は肩にかかるぐらいの黒髪で、いつも元気なのが特徴である。顔立ちも整っていて、高嶺の花というよりも愛嬌があり馴染みやすい感じだ。
「ゴメンゴメン。なんかこー、朝から浮かない顔してるの見たら、ついやっちゃった。にひひ」
とまあ、こんな感じである。ほぼ毎日同じようなやり取りをしているのだが、あまり反省はしていないようだ。
「それよりどーしたの?朝からそんな疲れた顔しちゃって、そんな顔してると1日がつまらなくなっちゃうよ?ほらもっと元気出して、ね?」
「僕としてはこんな暑い中でよくもまあそこまで元気で居られるなって思うけどね」
「にひひ~。私は何時でも元気で明るいのが取り柄ですから!」
と言って、にかっと笑いかけてくる。七海のこの笑顔にはいつもドキッとさせられている。とても眩しい笑顔だ。
「七海ちゃーん!」
前から同じ学校の女生徒が呼びかけてくる。どうやら七海の友達のようだ。
「お、おっはよー!今そっち行くねー!」
その女生徒以外にも七海に声をかける人は沢山いた。やっぱり人気者なんだなぁとつくづく思う。
「んじゃ暁、私先行ってるね!暁も元気出して今日1日楽しくね!」
と言い、七海は前のグループへ走っていった。元気だなぁとしみじみ思いながら先程の言葉を思い出す。
「楽しく、か。」
ポツリ、と小さな声で反芻する。正直、最近はあまり学校を楽しいとは思えないなと考えながら。
次回から話が進みます。