01_そして異界へ
声が聞こえる。
何これ。画面が真っ白。
いや、視界が真っ白。ひたすら白い。
『もし?聞こえておられます?』
暖かな陽光に包まれた感覚に身を委ねる。
ああそうか。僕は死んだんだった。
特に何もない、その国では平均的な人生だったと思う。
危ないこともなかったけど、代わりに本気で楽しいと思うことは少なかったかな。
まあ、危ないことは嫌だったんだけども。
『もし?』
「ごめんなさい。聞こえています」
『お目覚めのようですね』
見渡す限り真っ白。
いや、今目があるのか知らないんだけども。
その白い空間に、穏やかな声が響いている。
『貴方の人生は、なんの罪もなく、欲を張ることもなかったので多くの神々に認められました』
「認められた?」
『はい。貴方には私達神々より祝福が与えられます』
「祝福?」
『何でも願いが叶います。ドラ〇ンボールの様なものです』
おい。今、神様が某鳥〇先生の読者であることが発覚した。
狼狽を隠せないが、とりあえず話を続けよう。
「と、とりあえず願いを叶えてくれるのは分かりました」
『それで、何を願いまする?』
「少し時間を下さい」
考える時間をもらった僕は真剣に考え始めたのだった。
とりあえず、これはなんだか願いを叶えてくれる流れらしい。
それはいい。
問題は、何を願うか。だ。
僕の人生はごく平均的だった。
特に特徴のない子供として育ち、特に特徴のない学校に入り、特に特徴のない社会人となった。
そして、特に特徴のない家庭を築き、特に特徴のない葬式を迎え、特に特徴のない人生を終えた。
いや、自虐はやめよう。悲しくなってくる。
悲しいと言えば妻は元気だろうか。子供たちは元気だろうか。
いやいやいや。今は願い事を考えるのだ。
問題は、何を願うかだ。
レッツ、シンキーン。
(3時間後)
「・・・」
『も、もし?』
「―あ、はい?」
『結構な時間が経ちましたが、願いは決まりましたか?』
「・・・すみません。僕の願いを教えてください。うわぁぁ!!」
『泣かれても困るのですが。ここまで時間のかかる人も珍しいですね』
「とりあえず、他の人が何を願ったとか教えてくれないでしょうか」
『特典を得て転生。天国に入り隠棲。記憶を維持して元の世界に転生。などがありましたが、貴方の願いであるのが前提です』
「強いて言うなら、面白い何かがあってほしいくらいしか」
『ずいぶんと無欲な――あ。』
会話していた声が唐突に途切れ、様子が変わった。
空間が途端に静まり返ってしまい、不安を覚える。
「あの?何か?」
『神にこい願う声が聞こえました』
「はぁ」
『善良なる者の声を聴かねばなりません』
「はぁ」
『貴方の、「面白いなにか」を聞き届けます』
「はぁ?」
『異界のとある国を、救ってください』
「はい?」
―!?
いや救ってくださいと言われましても。
何もできない可能性が高いわけなんですがね。
こちとらガチの一般人ですぜ兄貴。
『私は女神です。兄貴ではありません』
「いや、思考読めるんですね」
『ひとまず、貴方の願いは保留とします。その面白い何かを異界で見つけるのも良いのでは?』
ああ。なるほど。
割といい提案かもしれない。
要は神様の手伝いをする代わりに、僕は時間がもらえるわけだ。
『その通りです』
飲まない手はない。
「分かりました。僕に手伝わさせてください」
『では、宜しくお願いします』
白い世界が、さらに眩くなった。
意識が落ちていくことが分かる。
『貴方が願いを見つけられんことを』
その言葉を最後に、僕の意識は完全に失われた。