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ヤマタノオロチ編 1

まず手始めにという事で、俺達が入ることになったのは「ヤマタノオロチ」の童話。

しかも絵本だ。

内容が明快で、様々なアイテムが存在する、キーアイテム探しにはもってこいだと感じていた。

実際に入ってみるまでは……




「うおっ! まぶしっ!」


辺りが見えないくらいの光りに包まれ、狼狽える俺達の耳に聞こえてきたのはそんな声だ。

本の中に入る前は、周囲には誰もいなかったはず。


次第に収まっていく光、そして同時に明らかになっていく周囲の景色。

間違いなく今まで俺達がいた場所とは違う光景が目の前に広がっていた。


それはのどかな田園地帯とでも言おうか。

小さめの田畑と草だらけのあぜ道のようなものが続いており、その先には藁葺き屋根の民家がちらほら見える。

限界集落と言われているど田舎でだって、こんな風景はそう見られないだろう。

何せ電柱の一本もないのだ。


季節は初夏だろうか。

青く茂った緑の木々と、そよ風に揺れる草が見た目に心地よい。

空気もとても澄んでいる気がする。


「なんじゃ、貴様らは!?」


俺とリナは物珍しそうに辺りを見回していると、すぐ近くから人の声が聞こえた。

そこで初めて俺達の目の前に人がいることに気付く。


その人間は頭の両脇にまげのようなものを結っており、薄茶色の貫頭衣のようなものを羽織っていて、背が低かった。

頭が俺の目線の位置という事は、恐らく160センチ無いくらい?

年は若く、恐らく20代前半といったところだろう。

こちらを訝しげな目で見ている。


「ねえ、これ本の中? すっごい! 本当に入れちゃったの!? でもなーんにもないね! あはははっ」


隣でリナが辺りを見渡しながら興奮したようにはしゃぎまわっている。

確かに本当に本の中と思われる世界に入れて興奮しているのは俺も同じだけど、目の前に人がいるんだからもう少し考えろよ……


「あ、すいません、俺達旅の者で……ここってどこですかね?」


「ああ? 旅だと? けったいな格好しよって……ここは出雲国だ」


ここが本の中だとすると、入ったのはヤマタノオロチの童話、つまり少なくとも日本のどこかという事だ。

出雲……イズモ? 島根県の辺りか?


「というと、あなたはもしかして……」


「うん? ワシを知っておるのか!? がははは、そうであろうそうであろう。

建速須佐之男命たてはやすさのおのみこととはワシの事、この地に巣食う化物を退治しに来た神の使いよ!」


「名前ながっ!」


そう言ってまたケタケタとリナが笑い始める。

一体この女は何がそんなに可笑しいのだろうか。

大好きな本の中にダイブできて気が高ぶっているのか?


「おいリナ少し落ち着けよ、変な目で見られてるぞ」


「だってスサノオだよ! 超有名人じゃない。それがこんなにちっさくて可愛らしい人だとは思わなかったよ!」


「まあ確かに、毛むくじゃらの大男ってイメージだったけどな」


目の前にいるその男はどう考えても少し筋肉がついた中学生といった感じ。

そこまで毛むくじゃらでもないし、大男でもない。

俺達がここに来た経緯を把握していなかったら、スサノオなんて名乗られてもまず信じないだろう。


「貴様らは何もんじゃ、変な服を来てヒョロ長い……見たことがない奴じゃのう」


「あ、私達双子の姉弟でリナって言います、こっちが弟のセナ」


「ちょ、なに勝手に弟にしてんだよ」


「ええ? いいじゃないチビなんだし」


くっそこのペチャパイノッポが、胸に行く栄養が全部身長に回っただけじゃねえか。

いつものことながら忌々しい。

しかしそんなおちゃらけた空気は、次のリナの一言で一変した。


「こんな可愛い子がヤマタノオロチを退治しちゃうんだから凄いよね!

ねえねえ、私達もついて行っていいですか?」


「おい馬鹿やめろって……」


いつもはもう少し思慮深かったはずなのだが、ハイになっているのか、要らないことまで話し出すリナ。

俺は止めたが時すでに遅かった。


「貴様ら、何故オロチの事を知っておる?」


呆れたような顔をしていたスサノオが急に顔を険しくし、こちらに詰め寄ってきた。


「え、いや……その、有名だから……」


「嘘をつけ、先程旅人だと申したではないか。あ奴は年に一度しか姿を表さぬ、よその土地の者がオロチを知っておるはずがない」


危険を察して逃げようとするも、スサノオはとんでもない速さで俺達に詰め寄り、腕を掴んで捻り上げた。

大して太い腕でもないのに、ものすごい力だ。


「いて! いててて!」

「いたい! ちょっと! なにするのよ!」


「貴様ら怪しい者だな、周辺国の間者やもしれぬ。知っている事を洗いざらい吐いてもらうぞ」


「やめてよ! 私達ここに来たばかりで本当に何も……」


「オロチを退治する事を知っておる者が、何も知らんはずがないであろう! 急に光って出てきた事といい怪しすぎる」


スサノオはそう言うと、俺達を引きずるようにして近くにある村へと連行する。

骨が折れるくらいガッチリ掴まれており、途中で振り切って逃げることは不可能だ。

何よりこの状態で抵抗したら普通に殺されるかもしれない。


少し……いや、かなり危機意識が足りなかった。

まずは人と離れてからこれからの行動をリナと話し合うべきだったんだ。

俺達はこの本の中身を知っていても、彼らにとって俺達は不審人物でしか無いのだから……




「まずはここに入っておれ、村長と協議した後、沙汰を下す」


村に連れて行かれた俺達は、頑丈な木で組まれた檻の中に放り込まれた。

周囲には同じような気で出来た牢屋がいくつか置いてあり、ポツポツと人が入っているのが見える。

外には簡単な作りの槍を持っている、牢番と思わしき若い男が2人立っていた。


「ええ!? 何で閉じ込められるの!? 私達なんにもしてないのに」


「……おい」


元はと言えばリナの奴が興奮して大して考えもせずに現地人と接触したせいなのだが、まあそこは仕方ない。

俺も止められなかったし、何よりスサノオの目の前に出てくるとは思わなかった。

確かにこんな時代で目の前にいきなり人が現れたら怪しむよな。

場所が場所ならそのまま斬り殺されてたっておかしくなかった。


この“本の中に入る”って行為は、思った以上に慎重になる必要がありそうだ。


リナはとなりで延々と文句を垂れていたが、外にいた牢番に槍を突きつけられると青くなって黙ってしまった。

そのまましばらくすると冷静になり、だんだんと不安になってきたのだろう。

体育座りのまま顔を埋めて落ち込んでしまっていた。


「おいリナ、大丈夫か」


「……だいじょばない」


普段は凛として頭もよく、俺のことをいつも上から目線で馬鹿にする女だが、さすがにこうも暴力的に扱われたのは初めてなのだろう。

今ではすっかり本の中に入れたという興奮も冷めきっているようだった。


「……思ってたようにうまくいかないね」


「初めてだからな、もう少し慎重になるべきだった。もしくはもう少しヌルい本にしておけばよかったな」


「ごめんね、私が余計な事言ったから」


「過ぎた事だ、まさか入ったその場に物語の主人公がいるとは俺も思わなかったしさ」


俺がそう言うと、リナが少し顔を上げて、体育座りのまま徐々にこちらに近づいてくる。

そして俺の左半身にリナの脇腹が押し付けられたところでその動きは止まった。


「……何だよ」


「セナは冷静だね」


「そ、そりゃあまあ、サッカー部だし。試合中はどんどん変わる状況の中で常に最善を選んで行動しないといけないからな」


「すごい頼りになる……」


「そ、そうかよ」


偉そうな事を言ったが、俺だって別に平気なわけじゃない。

価値観の全く違う人間達に囚われて、武器まで突きつけられているんだ、怖くない訳がない。

ただ、男である以上はリナより先に弱音を吐く訳にもいかないというだけだ。

そんなちっぽけな見栄が、俺の気持ちを繋ぎ止めている最後の砦だった。


そんな中でリナの与えてくれた体の暖かさは、俺に少しだけ余裕を取り戻してくれた。

そしてわずかに生まれた余裕の中で、あることを思い出す。


「そういやさ、アイツに何かもらっただろ、保証をくれるっていう……」


「あ……あのゴルフボール?」


リナは思い出したようにポケットの中を手で探ると、程なくしてそれは出てきた。


確かにゴルフボールのような形といえばそうなのかもしれない。

微妙にゴツゴツしたその球体の表面には、何やら黒い点のようなものがびっしりと書き込まれていた。


「何か文字みたいなものが書いてあるけど、日本語じゃないみたい」


「これあれだろ、百面ダイスってやつ」


「確かこれを振れって言ってたよね、力がどうとかっても……」


「まあとにかく振ってみようぜ、この状況で何かできそうなのってこいつくらいだろ?」


俺とリナは目を見て頷き合うと、そのダイスを放り投げる。

まずは俺からだ。

地面が土のせいもあり、放り投げたダイスは微妙な角度で大して転がりもせずに止まった。


「……これ、何が選ばれてるのか分からないな」


「ダイスってもっと平らなところで使うものだよね」


そんな事を言い合っていたのもつかの間。

突然ダイスの真上に小さな小箱が現れ、弾けて消えた。

その後にメモ帳程度の小さな紙がヒラヒラと舞っている。

俺はその紙を手に取り、そこに書かれていた内容を読んだ。


『対象の物体から水を抜き出し、ゼラチン状にすることが出来る。有効範囲は掌の先から3メートル』



「っざっけんな! 何だこの能力、何に使えってんだ」


「サバイバル生活するにはいいかもしれないけど……」


どうやらこのダイスは、振った人間にランダムで何らかの能力を付与するものらしい。

試しに近くの草に掌を向けて「水を吸え」と呟いてみたところ、掌の先に小さなぶよぶよした水の固まりのようなものが出来、先にあった草はドライフラワーのようになっていた。

考えようによっては強力かもしれない、人間に向けて使ったら大変な事になりそうだ。

だが今欲しいのはこの牢屋から脱出する方法であって、近くの人間をミイラにしたところで意味がない。

そんな事をすればすぐさま俺達は殺されてしまうだろう。


「じゃ、じゃあ私もやってみよ……」


リナがそう言ってダイスを振った。

またしてもダイスはすぐに止まり、小さな箱が飛び出たかと思ったら弾けて紙が舞う。

どういう仕掛けなのか分からないが、この演出必要か?


しかし今回は少し違っていた。

紙の他に、ピンポン玉程度の大きさの球体が3つ転がり出てきたのだ。

それぞれ色がついており、側面には500、1000、2000と数字が書いてあった。


「何だそれ?」


俺は出てきたボールを拾い、出てきた紙を凝視しながら固まっているリナを覗き込む。

すると、リナは読んでいた紙をクシャッと丸めると、ポケットにしまいこんでしまった。


「な、なななななんでもないわよ、ちょっとそれ、貸しなさい! そんな雑に扱っちゃダメ!」


そう言うと血相を変えて俺の持っていた三色の玉をひったくる。


「何だよ、爆弾とかなのか?」


「ち、違うけど……私もちょっと理解が追いついていないわ」


「お前が分かんないんじゃ俺も分からないだろうけど、ここから出るのに使えそうか?」


「無理……」


どうやらこのダイスは何らかの力をランダムで与えてくれるもののようだ。

しかしその内容は完全にランダムらしい。

そしてダイスを振れるのは一人一回のみ、その後何度ダイスを振っても、何も起こらなかった。


「畜生あいつめ、思わせぶりなこと言いやがって、何の役にも立たないじゃないか」


単に運が悪かっただけなのかもしれないが、中で危険な目に合わないように貰ったというのにこれではガッカリだ。





「お前達にはオロチへの生贄となってもらう」


結局俺達はどうすることも出来ず、二人で身を寄せ合ってじっとしていたところ、数時間ほどで牢からは出されたのだが

その後連れて行かれた村長の家で俺達を待っていたのは、またしても碌でもない運命だった。


「ちょっと! 何で通りすがっただけの私達が生贄になるのよ」


「他国の間者かもしれぬ者をこのまま村の外に出すわけにもいかん。

かと言って村に住まわせるわけにもいかん、丁度明日の晩はオロチへの貢物を差し出す日、ならば少し役に立ってもらうというわけだ。

無事に帰ってくることが出来たら、村の一員として認めてやらんこともない」


「一員になるつもりなんて無いわよ!」


腕を縛られ、村で一番大きな家に連行された俺達は、そこでこの村の村長と対面する。

村長の名はアシナヅチと言うようだ。

俺はよく知らないが、リナはその辺りの事は把握しているのだろう。


俺達の周りには数名の護衛の若者と、村長夫妻、そして例のスサノオがいた。

スサノオの隣には何やら純朴な感じの少女が一人、村長とリナのやり取りを見てオロオロしている。


「そう怒鳴るな娘、このまま間者として処刑されるよりもよほどマシであろうが」


「だから私たちはそんなんじゃないって……」


「だったらその証拠でも見せてみろ、自分が誰で、どこから来たのかお前は言えるのか?」


「そんなの……言ったって分かんないわよ」


「だろう? それではこちらもただで開放するわけにはいかん。

ならば貴様らはワシのオロチ退治を手伝い、少なくとも我らの敵ではないという事を証明せよという事になるのだ」


スサノオはそう言うと、俺の方を向いてニヤリと笑った。


スサノオの言っていることは、妥当のようにも思えるが、実際のところは俺達の正体なんてどうでもいいのではないかと思う。

俺だってこの先の大まかな展開くらいは分かってるつもりだ。

これからこのスサノオは、ヤマタノオロチを退治しに行くのだ。

そしてその為の罠として、酒の入った瓶をいくつも運ぶに違いない。これは有名な話だ。


しかしこの自動車もない時代に、でかい蛇が飲むような量の酒が入った瓶を運ぶには人手がいる。

だがオロチの元へ行きたがる村人などそういないだろう。

だから俺達が運搬手兼生贄として選ばれたのだ。

余所者の俺達なら、たとえ計画が失敗してオロチに食われようが村に被害はないからな。


「スサノオ様おやめ下さい。なにも村に関係ない旅の方を巻き込むなんて……」


そうしていると、このやり取りをオロオロしながら見ていた少女が意を決したようにスサノオに物申した。

見た目は気が弱い田舎娘といった感じだが、おっぱいが大きいのはポイントが高い。

いいぞおっぱいちゃん、もっと言ってやってくれ。


「何だクシナダよ、ワシのやり方に文句があるというのか?

こ奴らが今回の討伐に加われば、最悪そこの女を差し出せばお前は食われぬのだ、良い案であろうが」


「そんな酷いことを……クシナダは望んでおりませぬ」


「大丈夫だ、ワシは負けるつもりはない、ちゃんと手も打ってある。

こ奴らはただの人足、酒の運搬を手伝わせるだけよ。最悪の事態など起こらぬ」


「ですが……」


「ええい、もう良いわ、お主は少し黙っておれ」


なおも食い下がるクシナダに少し感動しながら応援していたが、スサノオは押し問答に嫌気が差したのか、クシナダに手を向けると指を2,3度クルクルと回した。

するとどうだ、真っ白な煙がクシナダを包み、それが晴れると今まで巨乳田舎娘だったクシナダは消え、代わりに床に1枚の櫛が転がっていた。

スサノオはそれを拾い上げると自分の髪に無造作に差す。


「す、スサノオ様……」


「大丈夫じゃ、事が終われば戻す。どうせワシのものになる女よ、問題なかろう」


慌てるアシナヅチを手で制し、スサノオはこちらを向いて、村の者に俺達の縄を解くよう指示した。


「さて、では役に立ってもらうとしようか」


「何で私達がそんな事……」


「よせ、リナ」


今の光景を見た後で、なおも食い下がろうとするリナの肩を掴んで止める。

このスサノオという男はどうも気が短い、ここでモタモタしていると何をされるか分からないからだ。


「でも、このままじゃ……」


「オロチの所に行くのは明日の夜なんだろ、だったら今は従っておこう。

この本の中に呪いのアイテムがあるとしたら、多分オロチのところだろ、どちらにしろ行かない訳にはいかなくなる」


「……うん、分かった」


リナは俺の説得で一応納得し、抵抗を止める。


「ようし、ようやく自分の立場が分かったようだな。

ではまず酒の用意じゃ、お前達も来い、やる事は山のようにあるぞ」


俺達が大人しくなったのを見たスサノオは、そう言って俺達に付いてくるよう指示する。

俺達はその後を追った。


「なあリナ、これまでってヤマタノオロチの話と同じ感じで進んでるのか?」


「う、うん……多分……細かいところはよく分からないけど、クシナダヒメも櫛になっちゃったし、お酒も用意するみたいだし……」


「じゃあこのまま行けばスサノオはオロチに勝てるんだな?」


「本の中ではそうだけど」


問題は、俺達が関わりすぎたことでどうなるのかという部分か……

しかしこれはその時になってみないと何とも言えないところだ。





スサノオに案内されて着いたところは、大きな酒蔵だった。

酒の匂いが辺りに充満している。

ここにいるとそれだけで酔っ払ってしまいそうだ。


「どうじゃ、これがこの日の為に作らせた特別な酒、八塩折の酒だ。

仕込みに丸一年かかったが、これでオロチを倒せるとなれば安いものよ」


そう言ってスサノオは自慢げにこの発案と、酒の作り方を語ってくれた。

何でも酒を作り、その酒を使ってまた米を発酵させるという事を繰り返すことで濃度を上げていく手法らしい。


しかしふと思う。

何度熟成を重ねようが、所詮は酵母発酵の力を借りた酒造だ。

となるとそのアルコール度数は高くても20%程度。

蛇というのは案外アルコールに強い生き物である。

伝説の中では酒を飲ませて眠らせたとあるが、果たしてこんな酒で本当に寝てくれるのだろうか。


「なあ、ヤマタノオロチって本当に蛇だと思うか?」


俺は隣で酒の匂いにしかめっ面をしていたリナに意見を求める。


「え? 何で?」


「いや、でかい蛇が酒のんで寝るって部分がよくイメージできなくて」


「うーん、確かにヤマタのオロチっていうのは、洪水とか他部族との戦争をイメージ化したものだっていう説はあるけど……

でもあれ見たでしょ、クシナダさんが本当に櫛になっちゃったの」


「ああ、スサノオは魔法が使えたんだな」


「魔法というかね、多分ここはお話の中だから、日本史上で実際はどうだったかっていうのはあまり関係ないと思うの。

あくまでオロチはお酒で眠っちゃう大きな蛇として出てくると思う」


「……なるほどな」


そうなると勝ちは確定しているとも取れるが、ここは一つその勝率を上げておきたい。

俺はオロチ用に瓶の中に注がれていた酒に手をかざし、中にある水分を吸収する。

吸い取った水は、水球となり、ふわふわと浮かんだ後にバシャッという音を立てて地面に落ちた。

その音を聞きつけてスサノオが血相を変える。


「おいお前! 酒をこぼすなんてなんてことしやがるんだ!」


「こぼした訳じゃないよ、ちょっとこれ、味見してみて」


俺の言葉にスサノオは怪訝な顔をしつつも、半分ほどに減った瓶に柄杓を入れ、その酒を口にした。


「ぶっふぉおおおおお!」


次の瞬間、スサノオは天を仰いで悲鳴を上げた。


「な、なんじゃこれは!? こんな強い酒、飲んだことがないぞ!」


「酒から水だけを抜いて強くしたんだ」


「なんと奇っ怪な術を使う……いや、だが、これならオロチも間違いなくイチコロだな!

よしお前、さっそく全ての瓶をこの酒にするのだ!」


酒から水を抜き、アルコール度数を高める。

即席焼酎とでも言おうか。

まさかハズレだと思われていた能力にこんな出番があるとは思わなかったが、勝ちを取る為なら思いつくことはやっておきたい。


「お前、随分ヒョロっちい男だと思っておったが、なかなか見どころがあるではないか!」


スサノオはそう言って上機嫌で笑った。


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