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双子の兄はお姫様

むかしむかし、ああ、そんな昔ではない話しのこと。


あるところにセナとリナという双子の高校生がおりました。

双子と言っても一卵性双生児ではなく二卵性双生児の男女です。二卵性の双子は一卵性ほど似るわけで無く、ただの姉弟と変わりません。


それでも中学校まではとてもよく似ていました。


しかし二人に二次成長期がくると、格好良くなったり可愛くなったりと変化してしまったので、それまでと比べると似てない双子になってしまいました。


けれど二人にはある共通するものがありました。

それは、それぞれが美しく成長して、見る人を魅了して虜にしてしまうということです。


美しい二人は愛する人に出会い、愛する人との子を授かり、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。


めでたしめでたし。


え? それじゃあ面白くない?


そうね、それじゃあ本当のおはなし、聞かせてあげるわ。


これは双子が高校生の時の話よ。ちょうどあの二人が美しく成長した頃のね。


そう、二人はとっても美しくて、それはもう毎日のように告白されていたわ。



……同性にね。

「セナ!なんかセナのこと呼んでる人がいるよ!」

 放課後、図書委員の仕事に向かおうとしているとクラスメイトの1人が近寄ってきてそう言った。


「いないって言って」

 どうせめんどくさい事だろう。


「いやもうあそこにいるし無理だわ」

 クラスメイトが「あそこあそこ」と指差す所を横目で確認すると、教室のドア付近に緊張した面持ちの男子生徒が立っていた。

 しかしその生徒に見覚えはない。おそらく後輩だろう。


 ドアの近くにいたクラスメイトが見慣れぬその生徒を見て不思議そうにするが、オレの姿を見て納得した様子で教室から出ていく。


 クラスメイトにとってこれは見慣れた光景なのだ。


 またか、とため息が漏れるのは仕方ない。出来ることなら気が付かなかった振りをして足早に立ち去りたいところだ。


 しかし今までの経験から、あそこに立っている後輩はスルーしてはいけない人種だと察した。


 普通、上級生のフロアに来るなんてかなり勇気のいる行動だと思う。すれ違う先輩からジロジロと奇異の目で見られるのだ。それを突破して、目当ての教室のドア付近で待ち続ける……なんてことが出来るのはよほどメンタルが強いということだ。


 ここでスルーしたらクラスメイトの目の前で告白されるだろう。それも大声でだ。そんな公開処刑は1回経験していればもうじゅうぶんだ。


 どうせ告白されるなら、出来るなら人目につかないところがいい。告白されたあとクスクス笑われるなんて絶対嫌だ。


 オレは教室の外で待ち構えてるホモクソ野郎に向かって近づき「呼んでるのってあんた?ここじゃないところで話を聞くよ」と話しかけ、いつも告白される時に使う場所へ誘った。


 名前も知らないその後輩は、オレの提案を聞くと嬉しそうな顔で頷き了承した。


「ついてきて。でも近付かないで、ちょっと離れてろよ」

 そう宣言して歩き出し、腕時計を確認する。委員の仕事には遅れてしまうだろうけど、もう別のクラスの委員がどうにかこなしてくれるはず。


 今日一緒に当番を務める相方が誰だったか覚えてないが、多少遅刻しても許してくれるだろう。


 廊下を歩くと注目を浴びるが全部無視する。黙って階段を登り、屋上へ続く出入口の前に着く。

 振り返って、ついてきた後輩に向き合う。


「で、はなしってなに?」


「あ、あのっ好きです!入学して、遠くから見た時に一目惚れして……えっと……その!夏休み、どこか一緒に行きませんか!」


「好きとか言われても」


「ああ、好きになったきっかけは、最初顔がかわいいなって思って、で、しばらくずっと見てたら女の子に優しかったりなにげなく運動がんばってたりそういうところもかわいいなって思って、それからやっぱりその笑顔が」


「あ、もういいから。てか好きになった理由なんて聞いてないし。付き合うとか絶対無理だし」


「えっ・・・理由を聞いてもいいですか?」

 先程までのウキウキした雰囲気は吹き飛び、目を見開いて驚く後輩。


「聞かないと分からないの?俺、男。お前、男」

 むしろ断られないと思ってたのか?と言いたくなる。


「男とか女とか、性別は関係なく好きなんです!」

「名前すら知らない人とは付き合えないし」


「あっ、僕の名前は」

「聞いても付き合うわけじゃないから。あともう委員会の仕事あるから、オレ行くわ」


 そう言って相手の返事を聞かずにその場から立ち去る。

 名前も知らない後輩を踊り場に置き去りにして、階段を駆け下りる。


 相手のことをろくに知りもしないで一目惚れなんて信じられない。

 外見が好みだとしても、まずは友達から始めて親しくなって人間性に惹かれてからだろう。


 それに――

「そもそもオレは女の子のおっぱいが大好きだっつぅの!」


 小声でボヤいたはずの独り言は思いのほか大きくて、静かな階段ではよく響いてしまった。誰かに聞かれてないかと辺りを見回したが、誰もいないのでセーフだ。


 告白を断られても、変に粘るようなやつじゃなくて良かった。そんなに時間は経っていないだろう。

 時刻を確認しようとスマホを取り出す。

 うむ。そんなに時間は経っていない。経っていないのに、スマホにはメッセージが何件も届いている。


「あー、今日はあいつとだったのか」


 オレは返信せずに尻ポケットにスマホをしまい、走って図書室へと向かった。





「あ、セナ。今日図書当番なの忘れて部活しにいったのかと思ったよ」


 図書室の受付カウンターの内側からそう声をかけてきたのは、双子の妹であるリナだ。


「あーごめん、野郎に呼び出されてた」


「呼び出されてたってあたかも喧嘩してたみたいに格好つけて言うけど、どうせまた告白されたんでしょう?委員の仕事に遅れるなら、遅れるってあらかじめ連絡してよね」


「だからごめんって。今日の相方が誰だったか忘れてたんだよ。リナだってこのあいだ連絡せずに遅れてたからチャラな? 今日はまだ誰も来てないみたいだし、いいじゃねぇか。あの時はいっぱい人がいて受付が大変だったんだからな」


「あれはトイレで女の子達に待ち伏せされてて、なかなか解放してくれなかったんだって言ったじゃない。スマホを鞄に入れたまま教室に置いてたから連絡も出来なかったんだ……って」


「はっ。さりげなく自慢すんじゃねぇぞ。女の子に囲まれて離してくれない、なーんて一度でいいから言ってみてぇよ!一人でいいからオレに回してくれ。おっぱいおっきい子を。間違ってもリナみてぇなチチ無し芳一は勘弁な」


「てめぇ玉無し芳一にされてぇのか?良かったなぁ。男にモテるセナくんが女になればすべてが丸く収まる。女にモテる必要もなくなる」


「女がチンとか言うなよな。そんなんだからリナは男にモテねぇんだよ。もっとこう、妖精みたいに触れようと手を伸ばした途端に消えちゃいそうな儚さみたいなもんを纏えよな」


「この童貞ポエマーが。ポエムが好きとか女みたいな趣味持ってるから男から告白されるんだよ」


「趣味じゃねぇしポエマーでもねぇよ!」


 そう二人で言い合っていると受付近くのドアが開き、女生徒が図書室の様子をを伺ってきた。

 顔はイケてるがおっぱいはイケてない。貧乳女子はオレたちの姿を確認すると顔を赤くさせるだけで、図書室の中に入ってこようとはせずにもじもじしている。

 ああ、この感じはいつものアレだ。察したオレはリナにアイコンタクトを送った。


 アイコンタクトの意味を理解したリナはふぅと短くため息を吐くと、受付の椅子から立ち上がりおとなしそうな女生徒に声を掛ける。


「こんにちは。図書室の利用は初めてですか?」


 その凛とした声からは、先ほどまでオレを童貞と罵ってきた女と同じ人物だとは思えない。


 女子生徒はボソボソとしゃべっているが、声が小さすぎて聞き取れない。リナは受付カウンターの外に出て女子生徒の方へと向かった。


 どうせこのシャイな女子生徒は学校図書の利用目的で来たんじゃない。リナ目当てのファンだ。ルールを知らないということは、今日オレに声を掛けてきた野郎と同じく一年生なんだろう。


 二年や三年の間にはある暗黙のルールが存在している。

 それは『双子の学校生活の妨げになるべからず』というもの。学校生活というのは授業はもちろん部活や委員会活動も含まれる。


 しかしもうすぐ夏休みになるというのに誰にも教えてもらわなかったんだろうか。さっきの人の話を聞かなさそうな一年野郎でも、俺が委員会という言葉を出したらちゃんと引き下がった。


 きっとおとなしそうな顔してたから、ルールについて教える必要はないと周りが判断したんだろうな。


 そう一人で納得し、昼休みの間に返却された蔵書の整理でもするか。と受付から離れていると

「なんでそんなこと言うんですか?」

 とヒステリックに喚く女の声が聞こえてきた。


 なんだ? さっきはおとなしい女子生徒だと思ったがヤバイやつだったのか? やっぱりおっぱいが小さいと情緒不安定になるのか!?


「私なら絶対平気なはずです! 試してみてからもう一度断ってください!」


 リナがなだめる声が聞こえるが、効果はないようだ。何が平気なのか分からないが、試さなくてもその大きさがオレを満足させる事が出来ないのは分かる。


 オレは尻ポケットからスマホを取り出し、暗黙のルールを作った張本人にメッセージを送る。

 あと数分もすれば図書室はいつものように静寂を取り戻して、ピンと緊張した雰囲気を取り戻すだろう。

 メッセージの送信相手がここに来るまでリナのフォローに回ろう。


「酷いですリナさん! リナさんはそんなことを言う人じゃないはずです! いつも私に微笑んでくれた優しい王子様はどこに行ったんですか?」


 女子生徒はリナに詰め寄り叫んでいる。あれはマジでやばいかもしれない。カウンターを乗り越え、リナと女子生徒の間に割り込み、女子生徒の肩を掴んで押さえる。


「邪魔すんなよこのチビ! あんたなんか呼んでねぇんだよ!」


 ヒステリックに叫んでいてもリナに対しては敬語を保っていたのに、オレを見た途端ギアがさらに上がったようで、第二形態に変化してしまった。


 目は極限まで見開かれて血走っている。口の端には泡立った唾を蓄えていて、叫ぶたびにビシビシと飛ばしてくる。


「うわ、きったな」


 不意打ちの唾攻撃に両手で顔をガードする。ガードしながらワイシャツの袖で顔を拭く。まじ汚い。

 オレが唾に気を取られて肩から手を離したせいで自由に動けるようになった女子生徒が、奇声を上げながらオレに体当たりしてきた。


「セナ!」


 リナが焦った顔をしている。

 なに? と思ったのと同時に、ぐらりと体勢が崩れていく。


 やべぇ。後ろの本棚、倒しちまう。


 その次の瞬間、背中と頭に衝撃が走った。


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