遊覧飛行に羽根を持つ
――もうダメだ
この言葉が浮かんだ時、旅人は空を捨てる
一日の始まりをその青に覚え、一日の終わりをその橙に嗅ぐ
変わり映えしない群青の宇宙を撫でて、寝る
数え切れない星も、太古から同じ光を揺らす
永遠に近いときを奏でるのは、大地を踏む音
それら日常を壊す時、人は空を捨てる
――なぜ?
胃が破れ、血を吐き、骨が砕かれ、肉が裂け、
脳が腐り、足が折れ、手が曲がり、髪は落ち、
頬は痩け、目が溶ける
その時旅人は空を捨てる
地の底しか見ない 空は消える
ただ一面の黒い塊 稀に紅蓮 寒い
空はない
――ダメじゃない
捨てた筈の上から何かが叫ぶ
声 言葉 言霊を秘めた意思
風が頬を叩く
――いいじゃない
草が尻を叩く
――いいんだよ
熱が背中を叩く
――顔上げろ
体が浮く 上から引っ張られる 首根っこを掴まれる
上を見た
いつもの空 青く蒼く群青い空
体は軽い 雛鳥の羽毛のよう
下を見る 黒は見えなかった
あの時聞こえた言葉はなんだろう
空の彼方まで飛ばした言霊 一つではなかった
言霊たちは、決して地面に突き刺さらなかった
体を軽くして、遊覧をさせてくれた 翼をくれた
切符は手に持つ一枚の羽根
『これで――を描こう』
旅人は思った
星の光と果てない空があれば何でも描ける
羽根が踊り出した