ミドルフェイズ5(情報収集フェイズ2)
FHからの直接的な襲撃を受け、また支部長ナツキがFHエージェントによって深手を負わされたことにより、UGN・N市支部の緊張は増していた。
ナツキは八部江になるべくの自宅待機を命じている。
学校にいる間はジバシが護衛を務めることが出来るが、放課後に一人で動き回るのはリスクが高い。先日の春日恭二の襲撃により、FHの目的は明確になっている。またいつ八部江が襲われるか分からない。
かといって護衛をつけるにしてもUGN・N市支部は人手不足だ。そこで少しでもリスクを下げるための自宅待機である。
UGN側も、早急にFHの情報を集めるために動いていた。
特にFHのターゲットの可能性がある綾瀬真花についてや、春日恭二に加えてもう一人、このN市に潜伏しているとされるFHエージェント、シューラヴァラの脅威がまだ詳しく判明していない。
ジバシは、学校では八部江と綾瀬の二人の護衛を務め、放課後は調査のために動いていた。UGNのエージェントとして日本各地の支部を転々としていた時期に出来た伝手などを頼り、有力な情報を得られないかと行動している。
オーヴァードの中には機械を自在に操り、電子戦に特化した者もいる。情報戦においてそういったオーヴァードの存在は大きく、どちらかといえば直接戦闘のような荒事担当のジバシは、しばしば彼らのような存在を頼っていた。
そして今日も無事に学校が終わり、放課後に。
ジバシは未だ、FHエージェントの疑いが晴れていない矢神秀人の追跡調査を続けていた。
彼の尾行を始めてからもうそれなりに日が経ったが、まだ矢神がFHエージェントだという証拠はつかめていない。彼の擬態が非常に巧妙なのか、それとも矢神は本当にただの一般人でFHとは無関係なのか……。
今日も矢神は放課後に寄り道をするらしく、高校周辺を歩いている。
高校周辺は駅にも近いためか、繁華街ほどではないがたくさんの店がある。
矢神はどこに行くか明確な目的地を決めていないのか、冷やかすようにあちこちの店を回っている。ジバシは矢神に悟られることのないよう注意を払いながら、彼を尾行していた。
すると、ジバシのポケットの中で携帯電話が震えた。携帯電話を取りだして確認すると、電話の相手はジバシが情報収集を頼んでいたUGNの情報調査部隊の一人。昔なじみの伝手で頼っていた人物だ。
尾行の最中だが……。
ジバシが矢神の様子を確認すると、彼はちょうど小さな古本屋へと入っていくところだった。これなら、少し目を離すことになっても問題ないだろうとジバシは判断し、電話に出る。
「もしもし」
『もしもし、ジバシさん。調査の結果が出たんで、急いで報告です。ちょっと危ない橋を渡ることになったんですが、FHの内部情報を一部、入手することが出来ました』
流石は情報戦に優れた奴だと、ジバシは感嘆する。
そして、彼の調査結果は驚くべきものだった。
FHの作戦計画では、綾瀬真花はレネゲイドウイルスに適正がある人物として考えられているらしく、彼女をオーヴァードに覚醒させてFHに引き込む算段のようだ。
さらにこの計画はシューラヴァラというFHエージェントが強く押し進めているらしく、そこからシューラヴァラの綾瀬真花に対する強い執着心がうかがえるとも。
それだけでも非常に大きな成果だが、それ以上の情報を彼は入手していた。
それは未だ情報の少ないFHエージェント、シューラヴァラについて。
綾瀬と八部江の二名が巻き込まれたバス横転爆発事故。あの事故を引き起こした実行犯は“ディアボロス”春日恭二ではなく、どうやらシューラヴァラらしい。
そして別の支部のUGNエージェントでシューラヴァラと交戦し負傷していた者がいたそうだ。怪我で意識を失っていたその人物が目を覚ましたらしく、彼の証言からシューラヴァラの詳細が分かったという。
シューラヴァラは鋭い切れ味の獲物を使い、戦闘にも長けたFHエージェント。容姿は高校生くらいの男子で、黒髪。
その他にも彼の証言から出てきたシューラヴァラの特徴のことごとくが、矢神秀人と一致する。
そこから導き出された結論は一つ。
『FHエージェント、“シューラヴァラ”。その正体は矢神秀人です』
電話越しの彼が最後まで言い切るかどうかというところで、ジバシは矢神がつい先ほど入っていった古本屋へと駆け入った。
小さな店内をぐるり見回しても、どこにも矢神の姿が見えない。
ジバシが店主に聞くと、その高校生は店を間違えたのか、店に入るなりすぐにUターンして出て行ってしまったという。
――つまり、矢神はジバシの尾行に気付いており、ちょうどジバシが監視の目を緩めた隙を突いて逃走したということ。
「クソッ!」
悪態をつき、ジバシは店を飛び出す。
支部長へと事態の緊急さを伝えるために電話をかけながら、矢神を追うべく駆けだした。
――ジバシが矢神を見失う少し前。
ナツキの指示に従いすぐに下校して自宅にいた八部江の元に、一通のメールが届いていた。誰からだろうと、八部江はそのメールを開く。
差出人は、綾瀬真花。
内容は、どうしても二人で話したいことがあるから、学校近くのファストフード店に来てほしいというもの。
自宅待機を命じられている八部江は悩む。あまり迂闊に出歩くと危険だと言い含められているからだ。
だが――あのとき、学校で何かを伝えようとして言いよどんだ綾瀬の、あの表情が八部江の頭の中でフラッシュバックする。
ここで彼女に会って話をしなければ、何か取り返しのつかないことになりそうな、漠然としたそんな不安すら覚える。
悩んだ後、少しだけなら大丈夫だろうと自分に言い訳をした八部江は支度を整え、綾瀬に呼び出されたファストフード店へと向かった―――。




