<7>
うるさく騒ぎ立てる呼び出し音でアーティスは目を覚ました。何だかんだ言って、結局寝てしまったらしい。いつでもどこでも寝られる自分の図太さに、今日ばかりは感謝したい。隣を見ると余程疲れていたのか、アンジェラがまだ眠っている。眠っているアンジェラを見るのは初めてだ。昨日アンジェラとそっくりな死体を見ている分、ピクリとも動かないアンジェラに少々不安を感じて、思わず生きているかどうか確認して大きく安堵のため息を付いた。よかった、ちゃんと息をしている。
アーティスの肩口に顔を埋めるようにして眠っていたアンジェラの無邪気な寝顔がそこにあった。起こさないようにそっと部屋を出て、モニタールームに入る。扉が閉まると同時に『箱舟』に命じる。
「おはよう『箱舟』、今の呼び出し相手と繋いで」
『了解』
すぐに通話が繋がり、相手が現れた。それは昨日から連絡をしようと決めていた相手だった。
「起きてたのか? 寝てるのかと思ってあんたの所に向かってた」
繋がった瞬間、スヴェトラーナの顔が画面に現れる。その顔に笑顔で答えた。
「ごめん出られなくて。どうかしたの?」
「緊急招集がかかってる。九時からミーティングルームだ」
標準時を見ると、午前八時。一体何があったというのだろう。
「何があったの?」
「死体が消えたんだ」
言っている言葉の意味が分からず、頭が真っ白になった。
「……死体って……」
「馬鹿、死体っていったら一つしかないだろ。アンジェラだ」
「……あ、ああ」
アンジェラはここにいるのにと言いかけて、ようやく昨日の状況を思い出す。フォリッジの死体だ。けれど何故フォリッジの死体が消えねばならないのだろう。考え込むアーティスの耳には、スヴェトラーナのいつもより一段とハスキーな声が入ってくる。
「どこのどいつかしらないけどふざけやがって。アンジェラを死んでからも弄ぼうってのか。犯人見つけたらただじゃおかないからな。死んだ方がましな目に合わせるぞっ、たくっ!」
銀の髪をかき上げ端正な白い顔に朱を走らせながら、怒りを込めてスヴェトラーナが低く呻いているのだ。顔は女神だが言動は破壊神だ。スヴェトラーナが怒りの籠もったままの目を、真っ直ぐモニター越しにアーティスに向けてきた。
「聞いてんの? 寝てるんだったら、叩き起こしに行くぞ?」
「うん。来て欲しい」
そういうと、不審な目でスヴェトラーナは眉を寄せた。死体が消えたという不可解な状況では、益々アンジェラの身が危険にさらされるかもしれない。事は一刻を争う。画面の向こうでなおも眉を寄せ考え込んでいたスヴェトラーナは、大きくため息を付いて笑みを浮かべた。
「あんたがそんな顔してるんじゃ、よっぽどだね。OK、そっちへ先にいく」
「ありがとうスヴェータ。入れるようにしておく」
答えのないまま通話がプツリと切れた。
「あれ、スヴェータ?」
端末に尋ねるたが返事がない。その代わりアーティスの後ろで扉が開き、スヴェトラーナが入ってきた。
「早いね」
「部屋の前にいたからね。何だよ話って……」
言いかけたスヴェトラーナの視線が隣室へと向けられる。何かを見付けたかのようにじっとベットに釘付けになった。もうアンジェラを見付けたらしい。
「あのね……」
説明しようとしたが、アーティスの言葉より先にスヴェトラーナはベットへと早足で近づき、布団を捲っていた。そこには、体を丸めて眠るアンジェラの姿がある。
「スヴェータ?」
スヴェトラーナの肩に手を置いた瞬間、すさまじい力で壁に体を叩き付けられた。背中の痛みで一瞬呼吸が止まる。痛みで瞑ってしまった目を開けると、目の前にスヴェトラーナの端正な顔があった。怒りで白い頬と眉間が紅潮しているのがよく分かる。観察している余裕もなく襟首がギリギリと締め上げられ、壁に体が押しつけられている。呼吸が苦しい。女性にしては長身のスヴェトラーナは、アーティスよりも身長が高いから、この体勢では半分つるし上げられている状態だ。
「く、苦しい……」
抗議の言葉を言い終わる前に、スヴェトラーナが怒鳴った。
「死体を盗んだのは、お前か!」
「ち、ちがっ……!」
「じゃあ何でアンジェラの死体がここにあるんだ!」
「死体じゃ……ない……」
「そんなことあるか! アンジェラは死んでたじゃないか!」
「誤解だっ……て!」
どうすれば誤解が解けるか分からずアーティスはもがいた。襟首を掴んでいるスヴェータの手を、渾身の力を込めてもぎ取ろうとしたが力が入らない。酸欠になっているようだ。呼吸ができないというのはこういう事かと、頭の中にあるどこか冷静な部分で変に納得する。
「放して……スヴェータ、聞いて……」
とぎれとぎれに訴えると、一瞬憐れむような表情をして、スヴェトラーナはほんの微かに力を緩めた。渾身の力でスヴェータの腕を振り払い、床にへたり込む。喉がゼイゼイと鳴った。
「し、死ぬかと思った……」
大きく幾度も深呼吸すると、靄がかかったようになっていた頭がすっきりしてくる。こんなところで誤解されたまま死んでしまっては、元も子もない。口を開こうとすると、一足先にスヴェトラーナがポツリと呟いた。
「あんたの気持ちも分かるよ。アンジェラ可愛かったし。あんた、とっても可愛がってたもんな。でも死体を盗んで添い寝するのは……」
「違うよ! そんなことしないってば!」
恐ろしい誤解をされている。
「じゃあ死体を盗んでベットに寝かせておく理由は何?」
「死体じゃないんだっては!」
仕方なくベットのアンジェラを揺り起こした。
「アンジェラ、起きて、スヴェータが来たよ」
ちらりと見ると、そのアーティスの様子を、スヴェトラーナが痛ましいものを見るような目で見ているのが分かった。死体だと思っているのだから当たり前の反応だ。死体を生きていると思い込んで起こそうとしている仲間の姿。それを想像すると、確かに怖い。
「アンジェラ、アンジェラ、朝だよ」
なかなか起きないアンジェラを揺り動かすと、アンジェラは眠たそうに緑の瞳をゆっくりと開き、真っ直ぐにアーティスを見つめる。
「……朝?」
ほんの少しだけ首を傾げて、アンジェラが呟いた。寝起きのほんわりと柔らかな声が、アンジェラの唇から漏れる。後ろでドンッと、スヴェトラーナが壁にぶつかる音がした。振り返って動揺するスヴェトラーナを見るよりは、アンジェラが安心できるように彼女を見て微笑みかけた方がいいだろう。お互いのプライドのためにも。
「うん、朝だよ。おはよう、アンジェラ」
「おはよう……アーティー」
そういいながらアンジェラはゆっくりと体を起こした。眠たそうに目をこすりながら回りを見渡し、スヴェトラーナの姿を見付けた。
「スヴェータ!」
ベットから立ち上がり、スヴェトラーナの元に駆け寄って抱きつく。一瞬言葉をなくしたスヴェトラーナは、呆然としたままアンジェラの髪を幾度か手で梳いて、ようやく言葉を絞り出した。
「アンジェラ……なの?」
「うん」
「あんた、生きてたんだね?」
「うん。生きてた」
一気にスヴェトラーナの力が抜け、がっくりとアンジェラの肩に頭を乗せた。
「よかったよ、てっきり死んだと思った」
「ごめんなさい」
「アーティーもアーティーだよ。何ですぐに知らせないんだよ」
「いや、あの夜中だから悪いかと思って……」
「悪いわけないだろ、この馬鹿! こんな大事なこと一晩持ち越すんじゃないよ」
アンジェラの肩に頭を乗せたまま、スヴェトラーナはアンジェラを抱きしめた。
「まったくあんたって子は……脅かすんじゃない!」
「ごめんなさい」
「聞きたいことはいっぱいあるけど、今は無事でとりあえずよかった」
心の底から安堵のため息が出た。やはりスヴェータに打ち明けて正解だった。一人で背負い込むには重すぎる。とりあえず紅茶を三人前淹れると、ようやく落ち着いたスヴェトラーナに昨日聞いたアンジェラの話を手短に聞かせる。
とぎれとぎれのアンジェラの記憶が、色々な謎の鍵となることに間違いなさそうなのだが、その記憶が戻ることをあてにしてはいられない。悠長に構えていてはアンジェラが殺人者に狙われてしまう。
「それにしても分かんないなぁ……。犯人は何でフォリッジの死体を消したんだ?」
スヴェトラーナはアーティスのデスクの椅子に座って、長い足を組み直した。アンジェラとアーティスは並んでベットに腰掛けている。
「状況が分からないんだけど、いったいどうやって消えたの?」
消えたという状況がいまいち掴め切れていないためそう尋ねると、スヴェトラーナは眉を顰めた。余程異常な状況なのだろうと、聞く覚悟を決める。
「それが細胞レベルに分解されて処理されたらしい」
「細胞レベルに……」
あまりのことに思わず小さく呟くと、アンジェラが小さく声をあげ、手を口元に当てて顔を横に背けるのが横目で見えた。きっとフォリッジがバラバラに溶けていくところを想像してしまったのだろう。自分たちとは違いアンジェラは一般人だ。こんな会話は不快で怖いに決まっている。スヴェトラーナもそれが分かったのか、申し訳なさそうな目を一瞬アンジェラに向けてから、再びアーティスに向き直り、話を続けた。
「知っての通りこの船の中で家畜類や、生活プラントに存在する動物類の死体は細胞レベルに分解して、有機栄養源として生活・農場プラントの土に循環されているだろ? あれと同じように処理されたらしい。遺伝子サンプルを取る間もなく、動物やら植物やらの死骸と一緒に植物に吸収されたってわけだ」
「徹底した証拠隠滅だね」
「徹底してるさ。馬鹿にしてる」
憤慨しながらスヴェトラーナは腕を組んだ。彼女が憤慨する理由はよく分かる。犯人はそのシステムを知っていて利用しているのだ。となると仲間内に犯人がいることは間違いない。
「フォリッジの死体が消えた状況はどうだった?」
尋ねるとスヴェトラーナは、詳しくは知らないけどと前置きしてから話し出した。
「昨日ドクターが死体を医療室へ運ばせただろ? あの後一度は医療室の検死台に死体があることを確認したらしい。それから医療用コンピューターに血液サンプル、遺伝子サンプルの採取、全身のMRI画像の撮影、立体血管造影写真撮影をさせたんだって。もちろん自動で」
死体発見時にはすでに夕方をまわっていた。あの時間から全てマサラティが死体検案を行っていたとしたら、真夜中になってしまうだろう。細かい処置を機械に任せた判断は妥当だ。だが自動だということは、マサラティ自身の頭に何のデータも残っていないということだ。その上、死体を見ていたものはその後誰もいないということになるのではないだろうか。
「一度見たきり、死体は見てないんだね、ドクター」
口に出して確認すると、スヴェトラーナは頷いた。
「ああ。機械類に指示を出してから、自室に寝にいったらしいよ」
「つまり、ドクターが寝てしまってからなら……誰でもできたってこと?」
「全員の不在証明をしていないから正確なところは分からないけど、そういうことだね」
「部屋には誰でも入れた?」
「あそこは医療室だよ? いつでも入れないと意味がないんだから、もちろん入れるさ。あたしたち七人はね。」
全員が被疑者……。仲間を疑わねばならない状況に、言葉を失った。
「……なんか嫌だね、こういう状況」
ため息混じりに呟くと、スヴェトラーナも大きくため息を付いた。
「嫌だね、ホント。仲間内で疑うなんて不健全きわまりないよ」
その言葉を最後に室内は重い沈黙に包まれた。どう考えても嫌な方向にしか話が行かないときには、何となく全ての言葉を出すことを躊躇ってしまう。
「ごめんなさい」
俯いたまま小さくアンジェラがそういった。膝の上で小さな手をぎゅっと握りしめている。いいんだよとも言い切れず、気にするなといえる自信もないから黙ってアンジェラの握った拳に優しく手を乗せる。一瞬だけ顔を上げてアーティスを見たアンジェラは、視線を再び自分の膝に視線を落として、申し訳なそうに言葉を続けた。
「私の途切れた記憶が戻ってくれば色々分かるかもしれないのに、何も思い出せない。アーティーとスヴェータに迷惑かけるばっかりで、何もできない」
あまりに悲しそうな言葉に、どう返したらいいか考えあぐねてスヴェトラーナを見ると、彼女は妹を見るような目でアンジェラを見ていた。アーティスが見ているのに気が付くと、こちらに向かって軽く頷いた。
「気にしないでアンジェラ。記憶がないもんは仕方ないさ。それにね、フォリッジっていう不確定要素も紛れてたんだ。外部からの侵入者説はまだ捨てきれないよ」
スヴェトラーナは何気ない風を装いながら、椅子の背もたれを使って背筋を伸ばしつつそういった。
「でも私、迷惑掛けてるだけで何もできない。何をしたらいいかも分からないんだよ?」
不安そうな中にもしっかりとした意志を持った目で、アンジェラはスヴェトラーナを見上げ、それからとなりのアーティスを見た。
「自分が危険なのに助けて貰うだけなんて二人に悪いよ」
「悪くなんてないよ。僕は僕の意志でアンジェラを助けるって決めたんだから」
自らの至らなさを責めるアンジェラの手に置いた手に力を込める。
「でも……」
なおも言葉を続けようとするアンジェラに、スヴェトラーナも微笑みかけた。
「そうそう、難しいことは考えなくていいさ。アンジェラがやるべきことは一つだからね」
「ひとつ?」
「そう、アーティーから離れないようにすること。これだけ」
「僕から?」
唐突に出てきた自分の名前に思わず声を上がると、スヴェトラーナが真剣にアーティスを見つめた。
「当たり前だろ。アーティーがアンジェラを守んないと、誰が守るの? あたしたちはこれからが『箱舟計画』の本番だ。だけど惑星環境が整った今、あんたは手が空いてるんだろ?」
「うん。開いてる。専門外だからね」
「だから暇なあんたしかいないの。分かった?」
あんまりといえばあんまりないいようだがその通りだ。考えようによっては、いいタイミングでアンジェラがここへ来たといえるだろう。苦笑しながら頷き、スヴェトラーナを見上げると、真剣なグレイの瞳と目があった。
「それに本当に大事なものは、自分の手で守りたいだろ?」
「もちろん」
初めて会った時、アンジェラは可愛くてお気に入りのアンドロイドでしかなかった。だけど人間として彼女と接すれば、彼女はアーティスの大事な人であることに間違いない。それならスヴェトラーナの言うように、非力ながらも自分で守りたい。スヴェトラーナにも助けて貰えば何とか彼女を守れるだろう。
「心が決まったようだね。じゃあとりあえず第一の問題を片付けよう」
「何?」
「緊急招集。一応アーティーとあたしは遅れるって伝言はしたけど、これ以上は無理だ」
いわれて時計を見ると、もう九時半をまわっている。スヴェトラーナがきてから一時間以上が経過していた。だが自分はミーティングルームに行っていいのか、いまいち分からない。
「謹慎中なんだけど?」
「馬鹿だね、緊急招集なんだからそんなの関係ないだろ」
「そっか。参ったなぁ……」
招集なら謹慎中に声がかかることはないが、緊急招集となると話は別だ。ならばアーティスも行かなければならないだろう。そうするとアンジェラを一人この部屋に残すか連れて行くかを決めねばならなくなる。スヴェトラーナが言った問題とはこのことだ。
「第一の問題が分かったよ、アンジェラだね?」
「その通り」
リスクの高さでいえば、連れて行った方が数段低い。もしも仲間内に犯人がいたとしても、突然飛びかかってくることはあり得ないだろうし、飛び道具で突然撃ってくることもないだろう。それをすれば全員に『自分が犯人です』と告白することになりかねないからだ。これも身内のひいき目か、そんな考えなしはこのメンバーに存在しないと断言できる。
「アンジェラ、僕は一緒に行った方がいいんと思うんだ」
口に出して告げると、アンジェラは目を伏せた。やはり怖いのだろう。その気持ちはよく分かる。アーティスは自分の仲間をよく知っているから、どうしても恐怖感が薄れてしまうのだが、アンジェラにとっては全員が見知らぬ他人だ。その他人の中に自分を殺そうとしている人物がいるという状況は、とてつもなく恐ろしいものだろう。
「ここに隠れていることが安全とは思えないんだ。僕は君のことを、昨日全員の前で話しちゃってる。君が頼るのは僕かスヴェータだってことはみんな知ってるんだ。だからもし君を置いていったとしてもこの部屋を探されたらお終いだ」
立ち上がってアンジェラの前の床に膝をつき、ベットに座ったままのアンジェラを見上げた。堅く唇を引き結んで考え込んでいるアンジェラのその緊張感と迷いを見ていると、今まで自信がなくて言えなかった一言が口をついて自然に出てきた。
「今度こそ僕が君を守るよ。約束する」
両手で小さなアンジェラの手を包みこむと、目を伏せていたアンジェラが顔を上げた。全てを見通してしまうように澄んだ緑の瞳が、真っ直ぐにこちらへと向けられている。しばし見つめ合った後、アンジェラはふわりと微笑んだ。
「私、アーティーを信じる」
「ありがとう」
多少照れくさくて、もの凄くくすぐったい気持ちでアンジェラに微笑み返すと、背中の方でスヴェトラーナがくすりと笑ったのが分かった。もしかしなくても、もの凄く恥ずかしい所を見られているのかもしれない。
「さてさて、初々しい恋人ごっこは終わりにして、そろそろ行こう」
椅子から立ち上がったスヴェトラーナが、きっぱりとした口調でそういった。初々しい恋人ごっこに見えているとは、恥ずかしいことこの上ない。
「スヴェータ……」
思わず呼び止めると、スヴェータは肩をすくめて苦笑する。
「安心しな。あんたの恥ずかしい話なんか、みんなに言いふらしたりはしない」
「ありがとう」
安堵のため息が漏れる。
「もしもデニスが僕の言動を知ったら、どれだけからかわれるか……」
だがそのデニスも容疑者の一人なのだ、と不意に思い出して、冷水を浴びせられたような気分になった。不意に言葉を詰まらせたアーティスの気持ちに気が付かないわけもないのに、スヴェトラーナがことさら明るくアーティスの肩を叩きながら言った。
「初恋がエネノア、次がアンジェラ。あんたって本当に、苦労する恋が好きだね」
「……悪うございました」
スヴェトラーナに合わせて盛大にむくれてみせると、お互いに堪えきれず吹き出した。
「苦労する恋って私のこと?」
きょとんとした表情でアンジェラが自分を指さす。その仕草が無邪気で可愛らしくて、思わず髪に触れる。
「アンジェラは気にしなくていいからね」
「うん。分からないけど。分かった」
難しい顔で頷くアンジェラに、スヴェトラーナは再び吹き出し、アーティスもそれに倣った。こうやっているうちは、何とか仲間を疑う重圧から逃れられる。そんな気がする。
「みんなへの状況説明は、あたしもできる限りフォローするから安心してな」
「うん」
「さあ、行こうか、アーティー、アンジェラ」
スヴェトラーナに促されて三人は部屋を後にした。