第6話 スーパーバイオレンス告白
訳の分からんクルクルパーな連中に連れて来られた先は体育館裏。
体育館裏の影には赤い髪が隠れているのが確認できた。
赤い髪……この学校でそんな派手な髪の毛している奴は一人しかいない。
こいつらのリーダー村下楓だ。
そのリーダーが何故か物陰に隠れてこっちを見ていた。
(な、なんなんだ!?)
リーダーも途中で加わって俺をリンチという事なのか?
いや、途中で加わる意味なんか全くない。じゃあ何であそこに隠れているんだ??
全く意味が分からない。
「おい本堂、お前にはうらみはねえがここで死んでもらうぞ」
俺がはるか前方に居るその赤い髪に注目していると、米谷が威圧的にそう言ってくる。
「なんだそれ!!? 恨みがないのにどうして俺が死ななくちゃなんねーんだ!!?」
そうあがくも、彼女達は揃いも揃って背中から木刀をスッと取り出し、戦闘態勢に入る。
これはマズイ。
非常にマズイ。
常識の通じる相手じゃない!
まともに話合っても無駄なことは分かっている!
じゃあどうすればいい!?
ここはおとなしくやられるしかないのか!?
いや、そんな納得のいかない話があるか!
俺は何もしちゃいないんだぞ!!
そんなことを思っているうちに、相手の三人はジリジリと俺の方ににじり寄ってくる。
(でも待て! どうしてあの赤い髪は襲ってこないんだ!?)
物陰からこっちを覗いてる人影を見る。
あれは明らかにこいつらの親分村下楓だ。
その親分が何故か戦いには参加せずに遠方から隠れて(って言ってもバレバレだが)こちらを傍観していた。
そんなことを思っているうちに奴らが一斉に襲い掛かってきた。
「死ねや本堂ーーー!!」
「意味わかんねーーーー!!!」
俺が全てを諦め、そう叫んだ時……。
「やめろ!!」
矢の刺さるように突き通った声がその物陰から聞こえてきた。
声の主はこいつらの親分、村下楓だ。
そいつがいかにもリンチされてる俺を助けるように、ヒーローの如く現れた。
「えぇーー!? どういう状況だこれ!?」
物凄く特徴的な赤い髪をした、こいつら三人をまとめる番長、村下楓が俺達の前に悠然と立っている。
この声が聞こえてきた瞬間、俺に襲い掛かかろうとしていた三人は急にピタリと止まって動かなくなった。
何が起こったのか全然分からない。
「本堂待ってろ! 今助けてやるからな!」
村下がこっちに向かって猛然と木刀を背中からとりだしながらダッシュしてくる。
俺はそれを呆然と見ていた。
「お前ら! 覚悟しろ!!」
いきなりそう言って村下は俺の目の前にいる三人組を本気で叩き潰し始めた。
赤い髪の村下楓は物凄い音を出しながら俺の目の前に居る三人を木刀で次々とぶっ叩いていく。
とっても痛そうだ。
「うわー! さすが楓さん!! かなわない!!」
「うわっ!! 楓さん!! 強すぎる!!」
「うぅ……この強さは一目ぼれに値する……」
三人組は不自然なやられ台詞と共に次々と村下に倒されていった。
それは実に八百長くさかった。
「大丈夫か、ハウ=モロブスタ?」
「いや……まあ……。っつーか人の名前間違えてるし……。誰だよハウモロブスタって……」
三人全て倒し終えた村下は俺に手を差し伸べてくる。
あまりに場が不自然なので、俺は警戒してその手を断じて取らない。
「さあ……。知らんな。お前知ってるのか? クリサマ=トーラス」
「知るか! なんだそのクリサマ=トーラスってのは!」
なんだコイツ。
さすがはバカの親玉といったところだ。
というか、何なんだこれは。
こいつはこの三人の親玉だと記憶していたが、何故こいつはためらうこともなく三人を叩きのめした?
こいつは俺の敵なのか? 味方なのか??
そう思って、なんとなくこの女が敵なのか味方なのか、色を見てみたくなった。
俺は目を『色を見るモード』に切り替え、村下の色を見てみる。
(……敵だ)
村下の色は気持ち悪いくらい濃いこげ茶色をしていた。
どう見たっていい色しているようには思えない。
それを一瞬見ると、もうこいつはどうでもよくなってきた。
「どうだ? あたしは強いだろ!?」
「まあ……」
「やっぱり強い人は憧れるだろ!?」
「いや、別にこんな八百長っぽい喧嘩なんかしなくたって、あんたが強いことくらいは知ってるが……」
「八百長だと!?」
彼女がすごい剣幕で俺をすごむ。
マズイ。
無意味に刺激してしまったか?
(やばい……。怒らせたくさい)
この親分は他の奴らとは桁違いの強さを誇ると噂されている。
複数人を相手に一人無傷で相手をボコボコに出来る程の強さという噂だ。
こいつだけは怒らせたらまずい。
本気で怒らせたらマジで殺されかねない。
俺の顔が少し引きつってくる。
「おい! トーコ!! ヤオチョウってなんだ!?」
(…………)
「たぶん何かメモ帳とかその類だとおもいますけど……」
無情にも村下楓に思いっ切り倒された三人組の一人が、地面に寝転がりながらそう返す。
(うわ~……だいぶ違ぇ……。学年ビリ組みはダテじゃねえなこりゃ)
「そうか……」
(納得したぞオイ!!)
俺は八百長をメモ帳と同じグループだと思うような奴らと同じレベルだというのか。
なんか急に自分の学力が恥ずかしくなってきたぞ!
どうか学年下から4人目と5人目の差は圧倒的であってほしい。
「で、強いから惚れたろ!?」
(うわっ、なんだその思考回路は!?)
「うちのめされたろ?」
(そこの三人がな)
「体が震えたろ?」
(怖さで)
「しびれただろ?」
(ある意味)
「てめえ!! だまってねーでなんとか言ったらどうなんだ!?」
「いや、強い=惚れるとかじゃねぇだろ!!」
「何!? じゃあなんなんだってんだよ!?」
ドガ!!
「ぐっ……ってーな、こげ茶色……」
赤い髪の毛の村下にみぞおちをくらう。
その一発で俺は膝を落としてしまった。
「……貴様には色々と教えてやらんといけないようだな。面白いもの見せてやるから来い!」
すると、目の前の焦げ茶色は俺の腕を肩に抱え、俺の体を引きずり始めた。
俺は必死で振りほどこうとするも、こいつの力が強すぎて振りほどくことが出来なかった。
この桜華紅蓮隊の親玉は体育館裏から出て下っ端三人から見えなくなる位置まで、俺を抱えてやってきた。
「せいや!」
「ぐぉあぁ!!」
体育館裏の曲がり角を曲がった瞬間、こいつはそのままの格好で俺を背負投げする。
ドシンと大きな音を立てて俺は勢い良く地面に倒れこみ、体を強打した。
「な?」
「何が『な?』だ!! 普通に降ろせ!!」
「面白くなかったか?」
「えぇーー!? 面白いものみせるって、今の背負投げ!? 面白いわけねぇだろ!! いてぇよ!! ただただ痛ぇだけでしたね!!」
「投げる時、私の右の眉毛がピクッと斜めに上がるのだが、それが面白いとナナに言われたのだがな」
「分かるかーーーー!! 斜めに上がっても真下に落ちても見えねぇから!! 何故なら俺は意味もなく投げられてたからな!!」
「じゃあ、今度は左の眉を見せてやろう」
そう言って村下楓は俺を再び投げようとしているのか、俺に近づいてくる。
こんな訳の分からない理由で投げられてたまるかって感じなので、当然俺は逃げるように相手と距離を取った。
本当にこいつらは何から何まで滅茶苦茶だ。
「いいから!! 右も左も見たくねぇから!! あーはいはい。面白い面白い。凄い楽しかった。ありがとサンな」
今のところ1から10まで意味が分からないので、こんなことことで時間は潰したくないと思い、そう相手に伝える。
こいつらの手下三人は何故か引き際が良かったから、こうやって適当なことを言えば引き下がってくれるだろうと考えてだ。
俺はそう言ってこの場からさっさと逃げようとする。が。
「待て。まだ要件は終わってない」
「俺は終わった。じゃあな」
「待てと言っているだろう!」
逃げようとするも、相手に肩をガシッと掴まれてしまう。
本当に噂に違いない力の強さだ。男の俺でもなかなか振りほどくことができない。
「要件って何だ!? さっさと話せ!」
「……目玉焼きは好きか……?」
「…………」
相手は俺の肩を掴みながらそう言ってくる。
俺は相手に背を向けているので、相手がどんな表情でそんなことを言っているのか分からないのだが、何という意味のない質問なんだ。
こいつらがやっていることに意味を考えても無意味なのかもしれないな。
ということなので、適当に話を合わせてさっさと退散させてもらうことにする。
「好き好き大好き愛してる。目玉焼きラブなんだ。毎日食べてるぞ、目玉焼き。むしろ、今も食べているくらい好きだ。もうこれでいいか?」
「そうか……」
相手は妙に納得して、暫く間を空ける。
それでも肩を掴んでいる手を離してくれない辺り、まだ要件が済んだ訳ではないのかもしれない。
「よ、よし。そ、それじゃあ……」
「それじゃあ何だよ。目玉焼きをご馳走でもしてくれんのか? それには及ばない。俺は全自動目玉焼き機と毎晩添い寝している程……」
とか何とか適当なことを言っていると、話の途中で突然相手から爆弾発言が飛び出した。
「そ、それじゃあ私達は付き合うことになるな」
「えぇーーー!!?」
相手がそう言った時、肩を掴む力が抜けたので俺はその隙を見計らってサッと手を振りほどいて、相手と向かい合うように距離を取った。
相手の顔を見てみるのだが、何か顔を赤らめて俯いている。
え、何コレ。
付き合うってそういうこと!?
この人、本気で俺と男女の恋愛でもしようとか考えていたってこと!?
「ならないならない!! 絶対ならないわ! それに何!? 付き合うって男女の恋愛的な意味で!? 絶対嫌だわ!!上司にこき使われながらも毎日献身的に働くイエスマンも真顔で断るレベルで無理だ!」
「なっ……何だと!! 貴様!! 私の何がダメだ!! 言ってみろ!!」
「全部だ全部!! 今の一連の流れで俺にしてきたこと全部ダメだろうが!!」
「なっ……良かれと思ってやったことなんだぞ!?」
「えぇーーー!?」
良かれと思って背負投げするとか、もう、ここまで来ると頭悪いとかじゃない気がしてきた。
何かの病気だ。
「わ、私をよく見ろ!! お、お前が望むなら何でも直してやる!!」
そう言って相手は持っていた木刀を地面に落とし、構えを解いて無防備な格好になる。
恥ずかしがっている様子で顔を俺から背けているが、それが何か気持ち悪かった。
相手をよく観察してみる。
髪は染めているのか、赤毛だ。それをちょんまげみたいに後ろで結わっており、ポニーテールのような感じの髪型をしているのだが、その髪が無駄にサラサラで綺麗だ。
身長は俺と同じくらいで女にしてはかなり高く、細身でスタイルもかなりいい。顔は……まぁ、美人と言えば美人な顔つきをしているのだが、黒い口紅というのが怖すぎる。
全部メイクを落として黒髪にしたらもしやとは思うのだが、ご覧の通りの性格をしているので考えるまでもなくダメだ。
(ってか、何俺は真面目に考えてるんだ……)
「さぁ、私のダメな所を言ってみろ! すぐに直してやる!」
「……まぁ、まずその赤い髪がダメだな」
「何だと!? それは直せん!!」
「言ってることがもう変わったーー!! すぐに直すんじゃねぇのかよ!! 」
「それだけは譲れないので、それ以外だ! それ以外なら全部直す!!」
相手……村下楓はそう言って必死に食い下がってくる。
こいつ、マジなのか……?
なんかふざけているようでもないしな……。
「口紅がおかしいだろ口紅が。何だ黒って。大体高校生がいっちょ前に口紅なんかつけてんじゃねぇよ」
「それは直せん」
「ひとっつも直す気ねぇじゃねぇか!! 何を直すつもりなんだあんた!!」
「そんな事はない!! こ、こう見てもわ、わ、私は……お前が……好きに決まってんだろうぶん殴るぞ!!」
バシッ!!
「ぐはっ……」
告白と同時に木刀でぶん殴られた。
今まで手紙やら直接言いに来るやらで告白されたことはあるんだが、もちろんぶん殴られながら告白されたのは初体験だ。
女からやたらモテるといういらない特殊能力を身につけている俺だが、この時程いらないと思った事はない。逆に俺のどこに惚れたのか聞いてみたいくらいだ。
俺とこいつ、接点なんて今までなかったと思うんだが……。
そしてこの女、手加減なしな勢いで本当に木刀を打ち込んできやがった。
咄嗟に頭をガードしたものの、その勢いで地面に打ち付けられ、頭が真っ白にしってしまう。
「さ、さぁ、私をよく見ろ!! そして悪いところは何でも言え!! それを直したら私と付き合え!!」
見えるか!!
地面にくるまって悶えながらそう突っ込みたかったけれども、それどころではない。
しばらくジタバタ悶えていると、相手が「大丈夫か!?」と俺に手を貸して来る。
「大丈夫な訳ねぇだろ!! 本気で殴りやがったな!!」
「だ、誰にやられた!?」
「お前だよお前!! お前の持ってるその木刀でやられたの!!」
「なっ……わ、私とした事が……すまぬ。興奮してしまった……」
そう言って村下は俺に肩を貸して立たせてくれる。
ちらっと相手の様子を見てみたが、何か本当に申し訳無さそうだった。
これ、本当にマジでやってんの!?
どう見てもふざけてやっているとかからかってやっているようにしか見えないんだけれども、今の村下の表情を見るとそれが段々疑わしくなってくる。
まだ相当なダメージが残って頭が痛いんだけれども、さっさとこのイベントを終わらせたい思いが強まってくる。
また殴られたらたまったものではない。
ふらふらになりながらも何とか立ち上がり、俺は相手を刺激しないよう、落ち着いて相手を論そうとした。
「あのなぁ、まだ互いに相手のことを知らないだろ」
「い、今のが私の全てだ!」
「じゃあ尚更ダメだわ!! 他に良い所ないんだ!? 全部ダメ! 0点!!」
「何だとぉーー!?」
今の俺の発言にキレて、村下は俺の胸ぐらを掴んでくる。
落ち着いて、相手を刺激しないようにしようと思ったんだが、相手が馬鹿すぎてその思いも一瞬で吹っ飛んでしまった。
しまったと思いつつも「分かった分かった」と言ってキレる村下をなだめ、掴まれた腕を一旦振りほどいた。
「あんたは俺のこと知らないし、俺もあんたのことをよく知らない。そういう意味では俺だって別にあんたのことが嫌いって訳じゃねぇんだけれどもさ……」
この4~5分の間で嫌いになりました。と続けようとしたが、相手を無駄に刺激したらダメだと思い直し、喉の所でその言葉を何とかせき止めた。
するとすかさず相手からツッコミが入ってくる。
「それならば何故だ!? 私と付き合えない理由はなんだ? 他に好きな女がいるのか!?」
「そういう訳じゃ……」
と、言おうとした所で言い留まった。
正直に言えば、この人だろうと他の女であろうと、付き合う気なんてのはさらさらない。
相手がこんな滅茶苦茶な女なら尚更だ。
だが、ここは敢えて嘘を付いて追い払うことを思いついた。
そうすれば諦めのいい桜華紅蓮隊のことだ、素直に諦めてくれるだろう。
「じ、実はそうなんだ。俺には好きな奴がいるからあんたとは付き合えない。悪いな」
「くっ……、だ、誰なんだそいつは!! 教えろ!!」
また思い切り肩を捕まれ、顔を近づけてそう脅された。
まずい。何も用意していなかった。
「あんたにゃ関係ねーだろ」
「そういう訳にはいかん! 誰なんだ!! 言え!! そうでなければ納得できぬ!」
相手はかなり必死な感じだ。逆にここで適当な人間を言えば納得して諦めてくれるだろうか。
それならば話は早い。適当なこと言って早い所追い払おう。
「……超絶可愛い子だ」
結果、口から出た言葉がそれだった。
あまりの適当ぶりに我ながら感心せざるをえない。
「何……?」
「チョウゼツ……いや、ちょうぜつかわ いいこ……いや、えーこさんだ!!」
さっきデタラメ言った言葉を無理やり人の名前にしてみた。
「何……? 『ちょうぜつかわ』だと……?」
「そうだ。俺はちょうぜつかわえーこさんが好きなんだ。だからあんたとは付き合えない」
「ちょうぜつかわ……えいこ……4組の長絶川 栄子か!!?」
「いるんかい!!」
「何!?」
「い、いや……こっちのこと……」
まさかの展開に、言っててこっちが混乱しそうだ。
まさか自分で勝手に作った名前が実在するとは……。しかも同じ学校だし。
面倒臭いことになりそうだったが、ここで嘘だったと言うのも面倒臭かったので、俺はその長絶川さんが好きってことにしておく。
「あ、あぁ。4組の長絶川さんだ。彼女の事を思うと夜も眠れないんだ」
「そうか……」
俺がそう言うと、意外や意外。村下は分かりやすいほどガックリと肩を落として、すごすごとこの場から去るように歩いて行ってしまった。
さっきまでの勢いはなんだったのだろうか。
極端というか何というか、やはり引き際だけは何故か早い。
俺もそれを見てようやくこの酷いイベントから解放されたと一安心した。
どっかに放り投げられた自分のカバンを拾ってさっさと帰ろうと思っていると、体育館裏の方から三人組がズドドドドドという効果音付きで、凄い勢いで俺に襲いかかってきた。
「てめぇほんどーーーー!!!」
「まだこのイベント続きあんのーー!!?」
ヤバイと思って三人から逃げようとするのだが、すぐにあの坊主頭の高田に捕まってしまった。
そしてその場で足を掬われ、地面に倒される。
「てめぇコラ本堂!! 恋愛するって言ったじゃねぇか!!」
「恋愛してねぇんならぶっ殺すって言ったぞ!!」
「恋愛しなくてもぶっ殺すからな!!」
「どっちにしろぶっ殺されるんじゃねぇか!!!」
三人から集団でぶん殴られる。
完全にリンチだ。
俺は亀のように頭を抱える格好になって地面で丸くなり、ダメージを最小限に防ぐ体勢に入る。
恋愛って何、そういうことだったの!?
なんかこいつらが恋愛しようぜとか何とか言ってたけれども、あの親玉と俺を付き合わせたかったってことなのね。
以前のこいつらのイベントがあまりに意味不明だったが、これでようやく少しだけその謎が解けた気がする。
んで、あの親玉が俺を助けるってシチュエーションを作るためにバレバレな小芝居をした……と。
こいつらの謎の行動も段々分かってきて別に必要のないカタルシスを感じることができた。
そんなことを思っていると、遠くから声が聞こえてくる。
「あ、あなた達! 何をやっているんですか!!」
月河の声だ!
このままでは動くこともままならないと思っていたが、これはチャンス。
あいつを盾にして散々殴られたお礼をしてやろう。
「んだてめぇは!!」
「あ、あれ!? 本堂さん!?」
「あぁ!? てめぇ、本堂の知り合いか!?」
一旦俺への暴行がやんだので、俺は立ち上がって状況を確認してみる。
やはり声の主は月河で、奴がてこてこと俺の前まで走ってきていた。
「だ、大丈夫ですか? あなた達、何でこんな非道いことをするんですか!」
お、何か月河が怒ってる。
こいつはいつもへらへらしている印象があるんだが、こんな表情をすることもあるんだな。
そして、このヤンキー共にも物怖じしないというのも何気に凄い。
普通の奴なら見て見ぬふりするか、下手に下手にでて、相手の機嫌を損ねないように接するものなのだが。
事実、絡まれている俺を助けに来た奴なんていなかった。
月河は俺と桜華紅蓮隊の三人の間に入って、暴行を止めてくれていた。
が、俺も男だ。
こんな奴に庇われるほど落ちちゃいねぇし、今まで散々殴られた仕返しをしてやりたかった。
相手が女だからと言って容赦はしない。
それがこの黒の色を持つ男、本堂なのだ!
「せいっ!!」
相手が月河の登場によってひるんでいる隙を見て、金髪カールの米谷に向かって思い切りミゾオチにパンチを入れてやった。
が、さすがに喧嘩慣れしている紅蓮隊だ。俺の一撃を貰う寸前でうまい具合に体を捻って直撃を免れていやがった。
「てめぇ本堂!!! 上等だコラァ!!」
「今まで好き勝手殴ってくれやがって!! てめぇらまとめて全員張り倒してやる!!」
「本堂さん!!」
月河の抑止も虚しく、結局その場は壮絶な乱闘となってしまった。
しかし、やはり喧嘩慣れしており、竹刀も持っている奴が3人という状況を男女の力の差で埋めることは全くできず、結果は完全に完敗してしまった。
月河は途中で流れ弾に当たるような具合で何度か吹っ飛ばされていたが、途中でこの場からいなくなっていた。
結局、月河が教師を呼んでこの場を収めてくれるまで、俺はこいつらに好き勝手殴られ続けるのだった。
まぁ、俺も少しでも抵抗が出来たから満足とまではいかないが、良しとする。
教師があの場に着くと、桜華紅蓮隊の全員は脱兎のごとく逃げ出した。
地面に横たわっていた俺はもちろん逃げることなんか出来なかったので、そのままでいると教師から事情を聞かせろと、月河と一緒に職員室に連行された。
もうどうにでもなれという感じで「とんでもなくバイオレンスな告白を受け、気づいた時にはこうなっていた」と正直に話してやった。
それには教師も苦笑いしていたが、奴らの普段の素行もあってか、俺の話は割りと信じてくれたようで、無罪放免という形ですぐに釈放された。
ボロボロの体のまま月河と一緒に学校を出ると、周りに人がいなくなった辺りで月河は俺の傷の手当てをしてくれた。
「おぉ……。すげぇな、さすが魔法」
「もう……喧嘩なんかしちゃダメですよぅ」
歩く足を止めて、月河に言われるまま人影に腰を下ろすと、月河は俺の患部に手を当てる。
すると、血が出ていた患部はすぐに元通りになっていく。出血による痛みも魔法でみるみるうちに引いていった。
「他に痛みある所ありますか?」
「心だ」
「え!?」
「もういい。でも、魔法ってのは本当に凄いな……」
血もすぐに止まったし、痛みもほとんど消えた。
使えない奴だとは思っていたが、こういう所を見ると腐っても魔法使いなんだなぁと思う。
服はボロボロのままだが、とりあえず体は喧嘩する前の元通りの状態に戻った。
俺は立ち上がって一人でさっさと歩いて行く。
「本堂さん! 喧嘩はしちゃダメです! 私と約束してくれますか!?」
「…………」
今まで人の言うことを聞くだけだった奴が、一人前にご主人様に意見してきやがった。
さっき桜華紅蓮隊の前で見せた度胸もそうだけれども、意外と芯の強い奴なのかもしれない。
「俺だってやりたくてやった訳じゃねぇんだ。好きで喧嘩なんかするか」
「そうですよね……。もぅ、あの人達、一体何なんでしょうか!」
そう言う月河の顔は少しむくれている。
何なんでしょうか。
それは俺が聞きたい。
「何なんでしょうか」
「あ、でも、本堂さんに告白を……」
「……聞かなかったことにしてくれ。俺も忘れたい」
「本堂さん、モテそうですもんね」
「嬉しくない。大体俺は付き合うとか何とか、恋愛に興味なんて全くないんでね」
「えぇ!? なんだかもったいないなぁ……。本堂さんこんなにかっこいいのになぁ……」
「…………」
褒めてくれたんだろうが、こんなちんちくりんな奴に言われても全く嬉しくない。
別に会話を長引かせる気もないので、適当に無視して話を切っておいた。
そのまま月河の無意味な話を適度に無視しながら自分の家に帰ってると、途中目の前に4~5人の男達が一人の男を取り囲んでいるのを目撃した。
どう見てもリンチだ。
ここは閑静な住宅街。
周りにそれに気付いている奴なんかいない。
もっとも、奴らも人がいないからこの場でやってんだろうけど。
もちろん俺は一瞬それに目をやるがいつもの通りシカトする。
しかし。
「あ、本堂さん、あれ……」
月河がそいつらの様子に気付いて俺にそう言ってきやがった。
「あぁ。あれは告白イベントだ」
「殴られています!!」
「最近告白する時は殴るのが流行っているらしいぞ?」
「男の人同士です!!」
「ホモだと言ってた」
「違います!! いじめられているんです! いじめられている人はきっと助けを求めてます!」
「いや、分からんぞ。いじめられるのが好きな奴かもしれん。内心もっといじめて欲しいと思ってるかもしれんぞ」
「本堂さん!! 私、行ってきます!!」
俺も一緒に行かせようとしたのか、俺にそう話を振った月河だったが、俺にはその気がないということを分からせてやると、奴は一人で現場に走って行ってしまった。
「まぁ、正義感の強い人ですこと……」
厄介事が起こっている方向へと走っていく月河の背中を見る。
よくもまぁ、あんなちっこい女が4~5人の男に立ち向かおうという気になるもんだ。
逆にぶっ飛ばされるのがオチであろう。
まぁ、それも俺の知ったことではないがな。
それが黒色の本堂だ。
正義感が強いのは結構なことなんだが、人を振り回すようでは困る。
あいつは一回痛い目に合って、首を突っ込むべき所かそうでない所かというのを学んできたほうがいいと思う。
純粋の薄緑だからって、そのままだと社会の厳しさに飲まれて後々大変な目にもあうだろう。
今のうち世渡りというのを勉強しておけばいい。
そう思ったのだが、奴は魔法使いなので4~5人の男を相手にすると言っても普通に勝ててしまいそうだ。
怪我をしても治せる訳なんだしな。
何の心配もいらない。
俺は月河を無視してさっさと進路を自分の帰路へと向けて歩き出した。