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リメンバー・彩  作者: 若雛 ケイ
一章 爆走! 桜華紅蓮隊!
5/62

第5話 この連続イベントに理由などない!

 ドンドンドン

 聞きなれないドアのノック音で目を覚ました。

 おかしい。

 朝、目を覚ましてドアをノックされるということは、家に誰かがいるということ。

 目覚まし時計を見てみる。

 7時過ぎ。

 やっぱりおかしい。

 7時過ぎにはすでに母親は仕事に出ているはずだ。

 つまり、俺と母親しか住んでいないこの家に、他の誰かが侵入しているということになる。

 通常なら恐ろしいことなんだが、いかんせんまだ俺は寝起き。

 あまり疑問を持つこと無くドアに手を掛けた。


「本堂さん! 朝ご飯できてますよ!!」

「ぎえ!!」


 今の一瞬で目はすっかり覚めた。

 ドアの外に居たのは制服+エプロンの小柄の女、月河琴子だった。

 そうだ、今日からこの怪しい女がうちに住み着くことになったのをすっかり忘れていた。


(一瞬知らぬ間に俺が女を買ってきたのかと思ったぜ)

「ぎえじゃないですよう!! あ・さ・ご・は・ん!」

「早すぎだ。あと45分は寝かせてもらう。おやすみ」


 正体が分かれば、後はもう何もない。

 時間ギリギリまで寝るだけだ。

 と、半分寝ぼけながらもドアを閉めようとする。

 が。

 力を入れてもなかなかドアは閉まらなかった。

 月河がドアに俺と反対の方向に力を入れているのだろう。


「も~、早く起きないと遅刻ですよ!」

「別に遅刻しても俺は困らない。おやすみ」


 俺はいっそう力を強く入れてドアを閉めようとする。


「ダメですよーーーー!!」


 が、全然閉まらない。月河もかなりの力を入れてドアを閉められないようにしている。


「ぐぐぐぐぐ……」


 なんか俺も意地になってきた。力で女相手に負けているということがなんとなく許せなかった。


「ぐぐぐぐぐぐ……」


 なおも力を全開にしてドアを閉めようとする。

 おかげで目はしっかり覚めてしまった。

 それでもドアは閉まらない。


「ぎぎぎぎぎぎ……」

 相手も魔法の力を使ってか、かなりの力でこじ開けようとしている。


(こうなったら意地の張り合いだ。絶対に負けるわけにはいかない!)


 俺は両手でドアのノブを持って、思いっきり引っ張った。


 ドガン!!


 「!!?」


 何か大きな音がしたと思ったら、俺は一気に後ろへ吹っ飛んだ。

 そしてその拍子に頭をベッドにゴツっとぶつける。


「いててて……」


 右手でぶつかった所をさすろうとしたら、俺は無意識のうちに右手に何か持ってた。


「何だこれ……ド、ドアノブ!!」


 よくよくドアを見てみると、ドアは完全に大破していた。


「ふざけんな!! 俺の家、どーしてくれんだ!!!」




 通常朝飯は手軽なシリアルとか、パンとか、母親が何かのきまぐれを起こして用意してくれない限りは粗雑なものが多い。

 それに比べて今日の朝食は物凄く豪華だった。

 パンと、種類の豊富なサラダ、そして何故か味噌汁。

 洋食なのか和食なのかまるでハッキリしていないが、どれも普通に手間隙掛けて作ってある料理だ。


「おばさんと一緒に作ったんです」

 と、月河。

 ほんの少しの間でもう母親と仲良くなってしまったらしい。

 まぁ、母親が一方的に月河のことを可愛がっているだけなのかもしれないが。

 いつも粗雑な朝食しかとってなかったが、これからは毎日普通の朝食が取れると思うとなかなか楽しみだ。


「だがこれはこれ。それはそれ。お前アレ弁償しろよ」

「うぅ……」


 当然ぶっ壊れたドアのことだ。

 第三者からしてみれば責任は俺にもあるとは思うんだが、俺からしてみれば俺に責任は全くない。

 月河が俺の家にこなかったらドアは壊れなかった。

 このことは全くの真実なんだ。

 その理論を月河にぶつけたら、あっさり100%自分のせいだと認めた。

 月河は俺にそう論されてガックリ肩と落としてへこんでいる。

 こんな馬鹿な論理が通用するというのもアホくさいのだが、俺としては都合がいい。


「いいじゃねーか、魔法使えば」

「うぅ……あんまり魔法使いたくないんです、疲れるから」


 らしい。


「でも壊したもんはちゃんと直さなきゃな。じゃ、がんばれよ!」


 俺は朝食をさっさと食べ終え、一人で家から出て行く。


「あぁ、本堂さん待って!!」


 月河は俺に付いてこようとする。


「お前はあのドアを直してから学校に来い」

「え、本堂さん、待っててくれないんですか?」

「待つ理由がどこにある?」

「えぇ~ん……」


 月河は待ってよと散々俺に声を掛けていたが、俺はそれを無視してとっとと学校へ向かった。

 何で俺が奴のことを待たなければならないのかサッパリ分からん。

 一緒に登校しろってか?

 そんな事誰がするか。

 奴は俺の召使いだ。

 俺が奴に何かお願いをすることはあっても、奴が俺にお願いをすることは許されないんだ。




 さて、今日もご機嫌に学校に到着した。

 もちろん俺に召使いが加わったからといって学校自体は何も変化しないし、俺の学校生活だって何一つ変わらない。

 登校してから下校するまで睡眠睡眠また睡眠だ。

 だから今日も普段と変わらない様子でいつも通り教室に入って自分の席を目指すが……。


「おい、本堂、座れ」


 俺の席に三人組の女が既に座っていて俺を待ち構えていた。

 昨日俺の静寂な昼休みを散々邪魔してくれた、桜華紅蓮隊の三人組だった。

 その三人が俺の席で偉そうに座っている。

 この三人組と村下楓というリーダーが加われば、桜華紅蓮隊のメンバーは全員揃うことになる。


 そういえば昨日はそのリーダーに恋愛しようぜとは言われなかったし、今も目の前にはいないな。

 まぁ、居てもらっても困るだけだからいなくていいんだが。


 座れと言ったのは金髪カールの昭和風ヤンキー米谷。

 その米谷が俺の席に既に着席し、その両隣に三好と高田が立って俺を睨みつけているといった格好だ。

 座れと言ってるのに俺の席が既に埋まってる所が馬鹿らしい。

 俺は構わず米谷の膝の上に座るような感じで、自分の席に着席した。


「てめぇコラ本堂!! 誰が座れと言ったんだぶっ殺すぞ!!」

「お前がついさっき言ってたじゃねぇか!!」

「うるせえ。殺すぞ?」


 横にいる高田に胸ぐらを掴まれてそう凄まれた。

 俺、こいつ怖すぎて嫌い。好きな奴なんていないだろうけれども。

 もうこいつらと絡むのは嫌な結末しか迎えないので嫌だ。

 ここは無視してやり過ごすことにしよう。

 そう思って俺はこいつらを華麗に無視して隣の月河の椅子に座った。


「てめぇシカトかよ!!」


 でも、やっぱりそれを逃してくれるような奴らではないんだよな。

 無視した俺を追う形で米谷が俺の傍まで詰め寄ってきて胸ぐらを掴んでくる。

 登校して直ぐ様変なイベントが始まり、早速テンション落ちそうだ。

 周りの反応はというと、こっちを見てる奴もいれば、完全にスルーしている奴もいる。

 残念だが先生を呼びにいくという雰囲気は到底感じられない。

 どっちかっていうと、『この三人組が暴れれば面白そうだ。もっとやれ』っていう雰囲気が出ている。

 それはきっと、やられている対象が俺だからという訳ではない。

 この三人組とその親玉の計四人は、学校内でも面白いトラブルを期待されている存在だからだと思う。


「うるせえ。んで、俺に何か用なのか? また恋愛しようぜか?」


 あんまり動揺もせず、落ち着いた様子でそうこいつらに聞いてみた。

 俺は基本的に、こんな奴らに絡まれたって平常心を保つことが出来る。

 所詮相手も同じ人間だと思えば恐怖も糞もなくなるもんだ。

 さすがにガタイが良くて一目見てそれと分かるような男5人とかに囲まれたら恐怖を覚えるだろうが、今回の場合は同じ学校の人間、しかも女だ。

 ビビる要素は一つもない。


「ち、ちげぇよタコ!!」

「だったら何の用なんだ? さっさと終わらせろ。俺は忙しいんだ」


 睡眠でな。

 今日は月河にいつもより早く起こされてしまったからな。

 俺はそう言って月河の机にうつ伏せた。


「……何の用……。恋愛じゃねぇよ……。じゃあてめぇは何の用なんだよ!! あぁ!!?」

「何かすごい不条理な感じでキレたー!!」


 思わず体勢を元に戻して突っ込んでしまった。

 まぁ、外見でおおよそ判断できるし、噂には聞いていたが相当の馬鹿というのは本当のようだ。

 今回の学年テスト247人中243位の俺よりも成績悪いと見た。


(っと、待てよ。244……245……246……とあと親玉が一人。うん、バッチリだ!)


 数が合ってしまった。

 どうしよう。すごい馬鹿だ。俺も似たようなもんか。


A.っつーかお前から俺につっかかって来たんだろ!!

B.土下座して俺に謝れクソ野郎

C.すまん。特殊戦隊カメルンマンのビデオの録画をしてくるのを忘れた。7時から6チャンだ。頼むぞ

D.お前らの学年テストの順位を聞きたくてな


(D!!)

 と、選択肢を自分で勝手に作り、意味も分からなく俺は即決する。

 馬鹿相手には真面目に突っ込まない。

 何故なら俺も馬鹿だからだ。


「Dだ」

「はぁ? てめえ、何言ってやがるんだコラァ!!」


 間違えて記号で答えてしまいました。

 君たち、テスト中も言葉で聞かれたら言葉で返さないといけないぞ。


「あぁ、いや、お前らの学年テストの順位を聞きたくてな」

「何……? おい、ナナ、お前何位だ?」


 俺の問いに対して、米谷は律儀に答えてくれそうだ。


「わふぁしはにひゃくひょんひゅうほくいだよ」


 口から飴の棒を出している三好七恵は、それを受けてそっぽ向きながらクールに答える。

 彼女の答えは246位と聞こえた。

 喋る時くらい飴を口から出せ。


「ユキは?」

「うちは244位」


 紫色の坊主頭の高田由希子は244位。


「よう、お隣さんだな。俺は243位だ」

「で、あたいが247位だ」


 米谷は247位、学年最下位らしい。

 となると、残る245位はこいつらの親玉ということになるだろう。


「おぉ、素晴らしい。皆でちゃんとそろってるじゃねーか!」

「……まあな」

「じゃ、俺はこれから睡眠に入るから後はよろしくな」


 俺はそのまま月河の机に再びうつ伏せた。


「あぁ……じゃあな……」


 そういい残して三人はおとなしくこの教室を去って行った。


(奴らはいったい何がしたかったんだ?)


 奴らは絡んでくる時は不条理な癖に、引き際はやたら良い。

 こうして大人しく帰っていくのを見ると、またしても意味の分からない無駄なイベントだったな思う。

 っつーか昨日もそうだったけれども、珍しい。

 何で急に俺に絡み始めたのかもよく分からないのだが、いつもは四人組だっていうのにリーダーの姿が今も見えなかった。

 村下楓。

 『桜華楓』なんていう所謂『族ネーム』みたいなもの持っていたっけ。

 そのリーダー村下の姿が、昨日も今日も見えなかったのが少しだけ気になった。


(ま、別にどーだっていいか)


 何か変な奴らにからまれたが、とりあえず何事も無く終わった。

 いつもセットでいるはずのリーダーの安否と学力テストの順位は気になったが、それもどうでもいいこと。

 めんどくさいことになるかと思われたが、相手が馬鹿すぎて何もイベントは起こらなかったので助かった。

 こうして今日も俺は安心して睡眠に入れるという訳なのだ。



 しかし、しばらくすると教室が騒がしくなってきた。


「本堂さん! おはようございます!!」


 最悪だ。

 転校生月河琴子の存在を忘れていた。

 奴は俺と同じ学校で、しかも席は俺の隣。

 というか今俺が寝ている席。

 さらに月河には転校して早々人気者というオプションもついているので、騒がしくなることは必至。

 女受けもいいが、何より男受けが抜群だ。

 時が過ぎるごとに休み時間俺の隣の席はどんどん野郎共の声で賑わってくる。

 そのせいで俺は安らかな眠りにつくことができない。

 そういう点で月河に恨みがあるので、俺はこのまま月河の席で寝ているフリをして彼女の言葉を無視しておいた。


「もしも~し、本堂さ~ん? そこ、私の席ですよ~? ……ありゃ、寝ちゃってるかな。そっとしておいてあげよう……」

(さ、今日も何にも無い日でありますように……)




 今日の日課が全て終わって放課後。

 俺はさっさと帰ろうと鞄を持ち、教室を出る。


「あぁ! 本堂さん!! 待って!!」


 隣からそんな声が聞こえてきたが、当然のようにシカトだ。

 今日も授業中何度も何度も月河に声を掛けられたが、全部シカトしておいた。

 俺は基本的に人と絡むのが嫌いなんだ。

 それでも懲りずに俺に突っかかってくる月河には学習能力がないのであろうか。

 まぁ、そんなことはどうだっていい。

 月河がクラスの連中に捕まっている隙をみて一人で教室を出た。



 下駄箱につくと、朝いた三人組の不良スケバングループが俺を待ち構えるように立っていた。

 俺は一瞬顔を見合わせて立ち止まるも、まるで何事もなかったかのように無視する。

 こいつらと遊んでいる程俺も暇ではないという訳だ。


「おい本堂!」


 俺は何も見なかったことにして通り過ぎようと思ったが、そう易々と見逃してくれる奴らではなかった。

 仕方がないので視線はやらずとも、声だけ返してやる。


「なんだ?」

「ちょっとこいや!!」


 ローファーに履き替えようかって所で、相手の金髪カールは俺の腕をつかんでずるずると引きずってくる。


「嫌だね。俺は忙しいんだ。遊び相手なら他の奴を探してくれ」

「うるせえ! ちょっとこっちへ来い!!」


 なんとか抵抗するも、奴の力は相当あった。

 必死で抵抗すれば何とか振りほどけるくらいではあったものの、頑張って抵抗して奴らの神経を逆撫でたくはないので、仕方なく奴らの思うがままに引きずられることにする。

 こいつらが俺をどこへ連れて行こうとしているのかも、これから何が始まるのかも全く見当がつかない。


「何が始まるんだ?」


 引きずられながらもそう聞く。


「今からお前をリンチする」

 平然とそう答えられてしまいました。

 まぁ、どうせロクなことでもないんだろうとは思ってはいたが、ここまでロクでもないことだと聞かされるとさすがに驚きは隠せない。


「平然と宣告するな!! そしてふざけるな! 俺は帰るぞ!!」


 そこではじめて全力を持って抵抗したが、奴ら三人がかりで抑えられてしまう。


「暴れたらぶっ殺すぞ!! いいか!? リンチはリンチでもなぁ、リンチじゃねぇんだよボケ!! これは楓さんのため……」

「トーコ!!」


 金髪カールが読解不能の日本語をしゃべっていると、途中で坊主頭に口を入れられていた。

 よく分からないが、俺もその坊主頭の言葉を真似して発してみる。


「トーコ!!」

「あ? なんだてめえ?」

「これから何がはじまるんだ?」

「リンチだ」


 即答されました。

 なんの恨みがあって俺がリンチされなくてはいけないのか全然分からない。

 ここで初めて顔面が少しずつ引きつる。抵抗しても腕は三人がかりでガッチリ抑えられて、今の俺に自由はない。

 俺はこいつらに処刑場に連れて行かれようとしているのだ。


 こいつらの喧嘩の腕はハンパじゃない。

 そこらへんの男じゃ絶対にかなわないのは過去の数々の事件を知っていれば誰でも知っている。

 もちろん俺だって喧嘩はこいつらほど得意じゃない。

 それが三人がかりで襲ってくるということはつまり、俺のバッドエンドは確定ということだ。


「ちょ、ちょっと待て! 俺が何かしたのか!? 何かしたなら言ってみろ!」

「いや、貴様は何もしてない」

「だったら何故――」

「そういう運命にあるからだ」


 物凄いジャイアニズムだった。


「ちょっと!! オイ! ちょっと待て!!」


 必死で抵抗するも、俺はずるずると奴らに引きずられ、リンチには絶好の場所である体育館裏へと連れてこられてしまうのだった。

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