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リメンバー・彩  作者: 若雛 ケイ
Episode1 メザメノイッポ / 序章 魔法の国からコンニチワ!
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第4話 俺(10)+月河(-5) VS 母親(8)

 月河の作ったうまい夕飯をたいらげて非常にアホくさいことをやっていたら、月河はそのうち疲れてしまったのか、ソファーで眠ってしまった。

 無防備な感じで寝ているんだが、こいつ本当に無警戒だな。

 俺が悪い人だったらどうするんだろうか。

 まぁ、悪い人なんだけれどもな。


 その寝顔を見てみると、余程疲れているのかぐっすり眠っている様子が伺える。

 こうしてみると可愛いと言えば可愛いんだけれども、中身がアホすぎて困る。

 まぁ、アホでなかったとしても俺には関係ないことだ。

 こいつは俺の召使い。それ以上でもそれ以下でもないんだから。


 居間のソファーでよだれを垂らしながらだらしなく眠っている月河をそこに放置して、俺は自分の部屋へと戻ることにする。

 これから俺は日課のトレーニングを行わなくてはならないのだ。

 主に脚力を鍛えるためのトレーニングなんだが、俺が大空を舞うまでは継続している日課なんだ。

 製作に熱中してしまって時折トレーニングに行かない時もあるけれども、ほぼ毎日欠かすことなく続けてきている。


 今日も元気にトレーニングだと思ってジャージに着替えようと思ったら、玄関の方から音が聞こえてきた。


「ただいまー」


 母親の帰宅である。

 そこで俺はハッとなった。

 そうだ。母親だ。俺の家には母親が帰って来るんだ。

 この状況をどう説明すればいい?

 いきなり部屋に女を連れ込んで俺は何をやっているんだろうか。

 母親の帰宅によっていきなり現実を突きつけられた気がした。

 母親が誰かもわからない奴をここに居候させるなんてことを許可する訳が無い。

 だとすれば彼女はこの家にいることはできない。

 イコール彼女は俺の元を去っていく。

 イコール俺は彼女に関する記憶を消されて元の生活に戻る。


「…………」

 夢が壊れる! ダメだ!!なんとかせねば!!

 そう考えている間に母親が居間の方にやって来てしまった。

 俺は慌てて月河のいるソファーの方へと行く。


「あら~、すごい綺麗になっちゃってるわね」


 俺は平静を保つよう努力しながらも母親と対面する。


「よう、俺の母親!」

「よう、私の息子よ! って……」


 母親が眠っている月河琴子の方に目をやった。

 まずい。

 俺の顔がひきつる。

 まだ言い訳を考え付いてないぞ!


「あんた!! ついに麻紀ちゃん以外の彼女ができたんだね!!」

「…………」


 俺の予想に反した反応だった。

 母親は俺の肩を揺さぶってそう確認する。

 どうやらソファーで寝ている転校生月河を俺の新しい彼女だと勘違いしたようだ。

 ちなみに麻紀まきちゃんとは俺が前に一度だけ付き合った彼女のことだ。


「あ……ああ……」


 とりあえず適当に返しておいた。

 どうすればいいんだ?


A.最初から全部訳を話して月河琴子をこの家にいさせるよう説得する

B.この場をうまく切り抜けて当の本人と相談

C.ファンタシー妄想大作戦で頭のおかしい奴だと思わせておいて逃走

D.母親を殺る(やる)


(Dか……?)

 って馬鹿なことを考えている場合じゃない!

 真面目に考えろ!

 真面目に考えるんだ俺!!

 そう思っているうちに母親が寝ている月河に布団をかけてやった。


「あらあら、こんな所で寝ちゃって。風邪引いちゃうじゃない」

(なんとまあ母親っ気あふれる御仁なんだ)


 なんて感心している場合じゃない!

 どうする!?

 全部話したって半永続的にこの家にこいつを置くなんて普通に考えて無理だし、だからといって月河に逃げられたんじゃ俺のビューティフルライフは記憶と共に消されてしまうぞ!

 っつーか結局こうなることは分かっていたのに、何で俺はそれに気付かなかったんだ!?

 雑務から解放されたとかで浮かれていた!!

 それに気がついていればいくらでも先手が打てたのに!


「それにもう遅いから今日は帰らないとダメよ。英輝……? 英輝!?」


 母親が俺に呼びかける。


(あ~!! 俺はどうしたらいいんだ~!!! 落ち着け! 落ち着け俺!!)


 左手の手のひらに右手で『人』という字を三回書いて飲み込んだ。


(ふう……)

「何やってんのよ?」

「う……」


 ばっちり母親に見られてしまった。

 だが落ち着け俺!

 確か彼女は言っていた。

 月河が魔法を使えるということは他人には内緒であると。

 ということは母親にも内緒にしなくちゃいけないということになる。

 正直に話すというのは選択肢から外すしかない。

 よし決めた。


「いや~、今日は世話になったな。明日からもよろしく頼むぞ!」


 俺は毛布をかぶった月河をポンポン叩いて起こそうとした。


「え?」


 母親はそれを難儀な顔して見る。


「いや、こいつは俺の取引先の接待係なんだ。今日はおもてなしのために俺の家に来た」

「はぁ? あんたの取引先って何よ?」


 題して『急に訪れた取引先の接待係だった作戦』だ!


「いや、コレは企業秘密なんだ。あんまりこの事に関して触れてしまうと母親、次は貴様の命があぶないぞ」

「あぶないのはあんたよ」

(ぐ……)


 さすがに俺の母親だ。すんなり通してはくれない。

 仕方ない。こうなったら強行突破だ。

 俺は眠っている月河を両手で抱き上げた。


「ほら、今日はこれでいいぞ。もう帰ってくれ」


 そう言って起こさないようにしながら月河を自室へと運ぼうとする。


「あんたねえ、あんたの学校の制服来た女の子がなんであんたの取引と関係あるのよ?」

「…………」


 まずい。嫌なところを突っ込まれた。

 なんとか切り抜けるぞ!


「これは彼女の趣味なんだ。虹沢学園のセーラー服が着たい接待係なんだ」


 そう言って逃げるように自室へ月河を担いで入っていった。


「ちょっと! どんな接待係だそれは!!」


 母親の突っ込みも無視して俺は自室へと入り、扉を閉めた。




「おい、起きろ!! 大変な事になった!」


 床に置いた月河の頬をぺしぺしと叩く。

 すると程なく月河は目を覚ました。


「ん……?」

「まずいぞ! 緊急レベルAだ! 取引が失敗に終わりそうなんだ!」

「ん……? 取引……?」

「違う! 母親が帰ってきたんだ! お前を殺そうとたくらんでいる!!」

「え!? えぇ!!?」


 月河はびっくりして起き上がる。


「わ、私、殺されてしまうんですか……?」

「いや、分からん。お前はこの家から追放されるかも分からん」

「え……ど……どうすれば……?」

「なあ、お前は他の人にお前が魔法を使える事を内緒にしておかないとダメって言ったよな?」

「はい……。言いました」

「俺の母親にも内緒なのか?」


 まだ眠気眼の月河はボケボケしながら答えを探す。


「あ、はい……。一応ご主人様以外の人には内緒にしておかないといけないっていう決まりなもので……」

「やっぱりそうか……」


 つまり母親にも全ての訳を話すことが出来ないということだ。

 だったらどうする? どうすればこいつをここに泊めてやることができる?

 いくらなんでも初対面の人間、しかも息子とは異性のお友達をしばらく家に泊めるなんてことはそう簡単に出来ることじゃない。


「本堂さんのお母さんは私をこの家に泊めてくれないんですか……?」

「普通に考えればそうだ」

「そうなんですか……。この世界も結構不便」


 魔法の国は勝手に人の家に泊まるのは当たり前のことなのだろうか?

 イマイチよく分からない。

 そんなことよりなんとかこの状況を打破する作戦を練らなければならない。


「そ、そうだ! お前は記憶喪失の可哀相な女子なんだよな?」

「え……? 嫌だな~、私はちゃんと記憶ありますよぅ」

「いや、お前は記憶がないはずだ。うん、そうに決まってる!」

「え!? えぇ!!?」


 決定。

 俺は、強引にこいつを記憶喪失っていうことにして、記憶が戻るまでこの家に泊めてあげる約束をしたっていう設定を急遽思いついた。


「いいか? お前はこの家……っつーか俺の母親の前では記憶喪失を装ってろ」

「え……? なんで……?」

「いいから! お前が記憶喪失でないと俺の家に泊められない規則がこの世界ではあるんだ!」


 説明するのがめんどくさいので適当な規則を作って簡潔に説明した。

 実際そんな細かい規則が日本で制定されていたら怖すぎる。


「そ、そうなんですか……?」

「そうだ! いいか、今から母親と対面するが何を聞かれても記憶がないから分かりませんとか、なんとか言ってごまかせ! 分かったな!?」

「は、はい……」


 彼女はちょっといぶかしげな顔をするも、一応納得してくれた。

 頭の弱そうな女だったので少々心配だが、これ以外の方法は見つからないので仕方ない。俺は月河を連れて母親の居る居間へ戻った。




「よう、待たせたな母親」


 居間に戻ると、母親は俺達が食い散らかした物の片付けをしていた。


「別に待ってないわよ。でもちゃんとその子を家に送って行きなさいよ」


 母親は片付けをしながら視線を俺に合わすことなくそう答えた。


「よし、では紹介しよう。こいつが記憶喪失娘の月河だ!」


 そう言って月河を前にだす。


「あ……あはは……、初めまして」


 月河はそう言って俺の母親に軽く会釈をする。


「あら、あんたの取引先の接待係じゃなかったの?」

「うるさい。もうそれはどうでもいいんだ」


 余計な嘘つかなきゃ良かったと少し後悔。


「って何? 記憶喪失なの……?」

 母親は作業を中断して月河を見る。

 後は月河が余計なことを言ってくれないように願うだけだ。


「はい! 何にも思い出せませんよ」


 はい、早速余計なこと言ってしまいました。


「アホか! わざわざそんな怪しまれるような事は言わなくていいんだ!」


 と、月河の耳元で怒鳴るようにささやいた。


「え……え……」


 月河は困惑していた。

 こいつのシンボルカラーは純粋の『薄いエメラルド』。

 きっと嘘つくのとかが苦手なのであろう。


「あら……。どこから来たのかも覚えてないの……?」

「は、はい! な~んに覚えてないんですよ! ほ、本当ですよ?」

(また余計なこと言っちゃったーーーー!!!)


 思わず俺ははいていたスリッパを片方脱いで、思い切りスリッパで月河の頭を殴ってやった。


「そんなしらじらしいこといわなくて言い!! お前は小学生か!!」

「い、痛い……」

「あんた、女の子を殴るなんてサイテーだよ?」

「ち、違うな。こいつは元々関西出身で漫才オタクだったんだ。ボケたら突っ込む。これは暗黙の了解だ」

「わて、お笑い好きやねん」


 と、話を合わせたつもりなんだろうか、下手すぎる関西弁で月河はそう言った。

 今の発音だと「私関東人です」と言ってるようなものだ。

 こいつにはもう何もしゃべらせない方がいいだろう。


「なんだか楽しそうね」


 それで納得してしまったのか、どうでもよくなったのか、母親は笑顔で俺と月河琴子を見る。


「ちょ、ちょっと記憶を失った時に脳みそを強くやられたみたいでな」

 母親にそう言いつつ、月河には「もう何もしゃべるな」と母親に分からないように言っておいた。

 月河が話すとボロがわんさか出そうなので、後は勝手に自分で用件を話すことにする。


「で、こいつ自分の家がどこにあるかも分からないし、気が付いたらここにいたって感じだったから記憶が戻るまでここにいてもいいよな?」


 俺は月河の口を手で押さえつつそう母親に言った。


「……別にここにいるのは全然構わないけど、それは嘘じゃなくて本当の事を話してくれたらね。その子のご両親も心配しているでしょ? ちゃんとご挨拶しておかないと」

「…………」


 急に素に戻られた。

 やばい! これはどうやって切り抜ければいいんだ!?

 本当のことを話すのか!? いや、それはダメだ。俺の新生活が一気に消え失せてしまう!

 だからと言って、こいつの両親とかはどうやって連絡取ればいいんだ!?

 ちょっと月河と作戦会議を再び行う必要がありそうだな。

 そう考えた俺は母親に待ったを掛けて、月河とこそこそ部屋の隅っこへ行って作戦会議を始めた。



「お前、親はどうしているんだ?」

「へ? クマサベに今でもいますけれども……」


 クマサベ……魔法の国のことだったよな。


「連絡は今ここで取れるのか? 電話とかで。魔法の国への通話料は高いのか!?」

「つ、通話料……? クマサベには帰らないと連絡は取れないです」

 連絡は取れないのか……。

 そもそも連絡が取れた所で、俺の母親にそれを回す訳にもいかないだろう。

 相手が何も知らずに「もしもし、魔法の国の人ですが……」とか言ったらそこで俺の母親に魔法の国のことが伝わってしまい、ルール違反となってしまう。

 どうすればいいんだ……。

 両親がいないことにしてしまえばいいのか?

 施設で育った孤児的な……。

 よし、そうしよう。

 それで何やかんやで俺の家で居候することになった……と。


「いいか? 真面目に聞け。お前は俺の母親に魔法の国出身であることがバレてはいけないんだよな?」

「はい……」

「母親は居候は構わないけれどもお前の親が心配しているとか、そういう方向で待ったを掛けようとしている。だが、お前がそれを正直に話してしまえば魔法の国の出身であることがバレてしまう」

「そ、そうですよね……。ど、どうすればいいんだろう……」


 月河は相当困った顔をしている。


「大丈夫だ。お前は孤児だ。両親の顔は知らないが、孤児院でたくましく育った子なんだ! その設定で行く!」

「あはは!そんなことはないですよぅ」


 と、謎の笑顔で答える月河。

 これだから馬鹿は困る。


「そんなことはなくても、そうしないと俺の家に居られない決まりがあるんだ!! そう母親も言っていたぞ!! いいな!? お前は孤児! これでもかってくらい孤児なんだ!」

「あ……分かりました!」

 そこまで言ってようやく察してくれたのか、月河は良い返事を返してくれた。

 もう余計なことは言わなくていいと言いつつ、再び月河と一緒に母親の前に出る。



「作戦会議は終わったの?」

「……いや、今日の母親のメイクについて感想を述べ合っていただけだ。気にすることじゃない」

「気にすることだ!! あんた、いい加減にちゃんとその子を家まで送り届けてあげないとダメよ? こんな遅い時間なんだし……」

「いや、そういう訳にもいかないんだ。こいつ、実は両親がいなくてな……所謂孤児って奴だ。なんか色々話を聞いていると大変だなと思って俺の部屋に連れてきた。これから暫くは一緒に住もうと思っているんだけれども、それは平気だよな?」

「孤児……? 月河さんと言ったかな? それ、本当なの?」


 母親は疑ったような顔して月河の方に聞いてくる。


「はい! 正真正銘の孤児です! 孤児すぎて、孤児じゃないと疑われてしまう程なんですけれども……」


 意味不明すぎる。何で余計なことを付け足すのか。

 その言葉を聞いて呆れた俺は、履いていたスリッパを再び脱いで、月河の頭をスパーンとはたいてやった。


「い、痛い……」

「その痛みは今俺の胸の中にある痛みだ! 覚えておけ!!」


 そしてもう二度と余計なことは言うな。


「ま、まぁ、今とにかく両親はいないのは本当だ。ちょっと複雑で特殊な事情を抱えている奴なんだが、しばらく居候させてもいいか?」

「う~ん……まぁ、うちはいいけれども、それは月河さんが決めて。うちじゃなくても色々あるとは思うんだけれども、本当にこんな奴と一緒の家でいいの?」


 母親は月河に聞く。

 俺は無理やり月河の頭を押さえて無理やり手でコクコクと頷かせた。


「な? いいって。じゃ、そういうことで……」


 月河を連れてその場を去ろうとするが。


「全然その子がいいって言って無いじゃない! 月河さんはそれでもいいのかな?」


 月河は俺の手を振り払って自分で喋ろうとする。


「はい。すみません。お世話になります」


 そう言ってぺこっとお辞儀をした。


「わかったわ。ごめんね、こんな家で。」

「いえ! 全然構いません! ご迷惑をお掛けする事もあるかもしれませんが、よろしくお願いします!」

「なら良かったわ。なんかもう一人娘が出来たみたいで私は嬉しいよ。こんな所だけどゆっくりしていってね」

「はい!」


 二人のやりとりを俺はただぽかんと見ていた。意外や意外。

 母親がすんなり月河の滞在を認めてくれた。

 まさかこうもうまく事が運ぶとは思わなかったぞ。

 ひとまず難を乗り越え、俺と月河は俺の自室に帰った。




「ほ、本堂さんのお母さん……いくつですか……?」

「はぁ?」


 自室に帰るなり、月河は目を丸くしていきなりそんなことを言ってくる。


「しゅ、しゅごい綺麗な人だった……。緊張した……」

「はぁ?」


 こいつの言ってる意味が分からん。


「い、いくつなんですか……?」

「さあな」


 なんでそんな所にこだわるのか、やっぱりこいつの考えていることは理解不能だ。

 そんなことよりもとりあえず危機は脱することができたし、何とか俺の新生活はこの手から逃げることはなかった。

 今はその達成感で一杯だ。


 それから俺達は『魔法の国』とこっちの国についての話とか、くだらない話をしていた。

 本来ならトレーニングの時間なんだが、今日はやめておいた。

 こいつの魔法の国の話も中々興味深かったし、これからはこいつのお陰でトレーニングの時間も増えるわけだしな。

 今日くらいはこいつに構っていてもいい。


 これからはこいつが全部俺の代わりに何でもやってくれるんだ。

 それにまだ俺は願い事を2つも残している。

 そう思うとこれからの生活に希望がわいてくる。


「本堂さん、オカリナ吹くんですね~。また聞きたいな~、オカリナ」


 そろそろ話もだるくなってきた頃、不意に月河はそんなことを言ってきた。

 どうやら食事前に聞いた俺のオカリナの音が気に入ってくれたらしい。


「嫌だね。だいだいここでオカリナなんて吹いたら近所迷惑もいいとこだ」


 だが、月河の要望に俺はそう冷たく拒否した。

 別に近所迷惑なんか全然気にしないんだけど、こいつに聞かせる曲なんざない。

 断る理由を勝手に付け加えただけだった。


「ああ~ん……私、すっごく本堂さんのオカリナ好きなんだけどな」

「…………」


 まぁ、そう言われて嫌な気はしないが。


「魔法力って、太陽の熱で回復できるんですよ。この世界って結構太陽の熱が弱いから困っていたんですけれども、あの太陽のよくあたる場所は本当に気持ちよかったです! それに、本堂さんのオカリナもとっても良かった。なんか太陽の熱と同じ感覚、魔法力が回復している時のすごくいい気分になれましたよ~」


 月河は相変わらずの笑顔で俺にそう言う。

 なんか面白いことが聞けた。

 魔法力なんてものがあるのか。

 無制限に魔法が使える物だと思ってたけど、どうやら違うらしい。

 あの月河の『色』のうちの、桃色が魔法力を表す色っていう推理、あながち外れてないのかもしれない。


(しかも俺のオカリナは魔法力が回復する脅威の音色を出してるんだってな。すごいぞ俺!! サイキック本堂だ! ハーッハッハッハ!)


 自分の妙な力に気付き、ハイテンションになる。


「でも、なんで本堂さんのオカリナってあんなにいい音色を出してるんだろう?」

「サイキック本堂だからに決まってるだろ!!」

「他の人のオカリナでもあの心地いい感じになるのかなぁ……?」

「人の話聞けよ!」

「今度試してみよ~っと」

「もういい」


 俺のテンションは急激に落ちる。


「また聞かせて下さいね!」

「嫌だ」


 俺がそう言うと、月河は少しだけ顔をムスっとさせる。


「む~……私、あの音色大好きなんだけどなぁ」

「お前はこれからずっと太陽の熱で魔法力でも回復してろ」


 って、ちょっと待て。曇りの日とかはどうなるんだ?

 太陽が出ていない日は魔法が使えない?

 イコール曇りの日のこいつは役立たず??


「ちょっと待て! 太陽が現れない雨の日とかには魔法力は回復しねーのか?」

「いえ、太陽の熱は二次的な魔法力の回復手段に過ぎないんですよ。一番魔法力の回復の役割を果たしているのがこのペンダントです」


 彼女は未だに着ているセーラー服の中からペンダントを取り出した。

 あれだ。不思議な紋章が浮き上がっている神秘的で綺麗なペンダント。


「ほう……。どれどれ……」


 俺はそれを手に取ろうとするとやはり


「ダメです!!」


 と言われた。やはり他人には手を触れさせてはくれないらしい。


「なんで。これさえあれば俺にも魔法が使えるのかなって思ったんだが」

「魔法を使用出来る事と魔法力は直接関係ないんですよ。魔法はクマサベの人に生まれつき備わった能力なんです。クマサベ以外の人にはどう頑張っても使えません」


 ちっ……俺はどう頑張っても魔法は使えないのか。


「それにこのペンダントは、生まれたときにクマサベの人間である事を証明してくれるために渡されるペンダントなんです。これがもしなくなったりしたら私の魔法力の回復はおろか、クマサベを追放されてしまいますよ……」

「…………」



 成る程な。それだけ大切にしている理由が分かった気がする。

 ペンダントをなくしただけで国から追放されるとは恐ろしい。

 海外旅行中のパスポートみたいな役割なのだろうか。

 それを間違って俺に渡して、粉々に砕かれた日にゃあこいつの人生終わったようなもんだろう。

 あのペンダントがよっぽど大切な物ということには納得がいった。


(仕方ない。俺のためだ。ペンダントに触れるのはやめておこう)


 こいつの魔法が使えなくなったら困るのはこいつだけじゃない。

 俺の願いもかなえられなくなっちゃうんだからな。

 だからペンダントについてふれるのはもうよしておこう。


 と、そんな話をしていると『コンコン』と、俺の部屋のドアがいきなりノックされた。


「あい?」


 ドアから母親が出てきた。


「月河さん、これ、おばさんのお古で悪いんだけれども良かったらどう? そのままの格好で寝るのも難でしょ?」


 俺の母親は両手に女性用のピンクのパジャマを抱えていた。どうやら月河に気を使っているらしい。


「わぁ……あ、ありがとうございます! おばさん!!」


 月河は母親からパジャマを受け取り、深々とお辞儀をする。

 母親はさっきっから笑顔で上機嫌だ。


「月河さん、お名前はなんていうのかしら?」

「月河です!」

「あん、そうじゃなくって、下の名前よ」

「あ、琴子です。月河琴子です!」

「琴子ちゃん……。ねえ琴子ちゃん、良かったらおばさんの隣で寝ない? 英輝の部屋で寝るっていうのも大問題でしょ?」


 そりゃそうだ。

 別にこんな馬鹿には興味ないが、一応女であることには変わりはない。

 高校生の男女が同室で寝るというのは世間的に大きな問題である。


 そう言えば今の言葉で母親の性質を思い出した。

 母親は大の子供好きなんだ。だからあんなに苦労して言い訳を考えなくても、母親がすんなり月河を受け入れることは、本当なら予測できたんだ。


 そう、実は元々体の弱かった母親は俺を生んだ後、子供がもう産めないくらいの体になったと聞いた。

 子供好きの母親は相当ショックだったらしいが、それでも俺のことを懸命に愛して育ててくれた。

 それで初めて俺に彼女が出来た時、物凄い勢いでうちに連れてらっしゃいと言ってきた。

 それで言われた通りに連れて来たことがあったが、母親はものすごい溺愛ぶりだった。

 まるで俺の元彼女を本当の娘であるかのように可愛がっていた。

 きっと娘がほしかったんだと思う。

 俺がそいつと別れたって言った時にはまるで自分のことの様に悲しんでいた。

 俺の前では決して『本当は娘が欲しかった』なんてことは言わないがその時の様子でなんとなく分かる。

 俺の母親は娘が欲しかったんだ。


 それでまた俺と同年代の女が家に泊まることになって、こいつをまた娘のように可愛がっているのだと思う。

 月河の方を見ると、月河は嬉しそうに母親の問いに大きく頷いていた。


「はい! 喜んで!!」


 そして月河は母親に連行されていった。


「あ、本堂さん、おやすみなさい。また明日~」


 そういい残して。


(ふう……。なんか今日はすごいことがたくさん起こったな……。でも明日からは自分の部屋の掃除も洗濯も飯も作らなくていいんだ! なんかすっげー開放的な気分になったぜ!!)


 そんなことを思いながら俺はゆっくりベッドに入った。

 これから始まる微妙に変わった新生活に少し期待しながら……。

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