第3話 オカリナの空で馬鹿がうひょひょー
転校生月河が俺の家に居候する事になったので、俺は彼女に一通り狭い家の中を案内し、今からやる事を全部偉そうに指図した。
その間彼女は嫌そうな顔一つもしないでうんうん頷いていた
。
こうしてみると召使というのも意外に便利かもしれない。
要はこの月河琴子という女は無料で働く住み込みのお手伝いさんだというわけだ。
「じゃ、よろしく頼んだ。じゃあな」
俺は全部やる事を指図し終えると自分の部屋に向かう。
「あ、本堂さんはどこへ?」
「お前には関係ない」
そう言って彼女を居間に残して自分の部屋へ行って、工具とオカリナを取り出し、外へ出て行った。
実はこんな俺でも人と変わった趣味が二つ程ある。
1つ目はオカリナを吹くという変わった趣味。
俺が今手にしているオカリナは自分が物心つく前から俺のそばにあって、俺はずっとそれをとても大切にしている。
これは小さいときに親父にもらったものらしい。
父親の顔すら覚えていないからよく分からないけれども、母親に大切にしろと言われてる。
まあ父親の形見とかなんとかよく分からないけど、小さいときからずっと一緒にあるこの古ぼけたオカリナにだんだん愛着が沸いてきて、今では命と同じくらい大切にしている。
最初は全然吹き方とかが分からなかったが、母親に教わったりすると徐々に吹けるようになってきて、吹いてるうちにその音色の心地よさに浸れるようになってきてしまったのだ。
だから、暇を見つけてはお気に入りの場所で一人オカリナを吹くのが趣味、という少々変わった人間になってしまった。
別に一匹狼を気取っている訳ではないのだが、このオカリナの音は自分で吹いててすごく心地がよいのだ。
ちなみに、オカリナはこのオカリナでなくてはダメなんだ。
このオカリナが奏でる音は何故か俺の心を癒してくれた。
他のオカリナを吹いても同じ気持ちにはならないので、このオカリナが特別なのだろう。
また、俺はオカリナから派生して他の楽器に手を出してみたこともあった。
ギターやベース、電子ピアノなんかにも手を出してみたけれども、全部ひと通り出来るようになった後に結局飽きてこのオカリナに戻ってしまったという過去がある。
やっぱりオカリナ、この親父の形見とされているオカリナでないとダメなんだなと思った。
2つ目は趣味というか夢というか。
俺、実は空を飛んでみたいんだ。
小さい頃に一度母親にスカイダイビングというものを経験したのだが、あの時の衝撃を未だに俺は忘れられていない。
この体が風を切って空を舞い、普段見える景色が豆粒みたいになって見えるんだ。
この世界を征服したような高揚感がそこにはあった。
それからは空に憧れを抱いてしまい、昔はよく母親に『高い建物』によく連れて行ってもらったっけか。
何と言っても、あの高さから見る景色が最高なんだ。
母親は昔父親と空飛ぶホウキで空を飛んだことがあるとかふざけたことを抜かしていたが、当時ガキだった俺でもさすがに馬鹿らしいと思いつつ、他に空を飛べる方法はないのかと考えたものだった。
中学生くらいになってくると、空を飛ぶなんて所詮は夢物語だと現実を知るようになってくるのだが、俺はこの世に人力飛行機なんてものがあると知り、そこでまた空を飛びたい情熱が再燃してしまったんだ。
それから俺は人力飛行機について調べに調べまくって、ついには自分で作ってみようと思い始める所まできた。
中学生の時は設計図を書いたりして一人で色んな妄想をしていた。
でも、機材がどうしても買えなかった。
中学生の小遣いにしては機材があまりに高すぎたのだ。
母親に土下座して頼み込んだこともあった。
で、結局作り上げたのがボロボロの人力飛行機。
今思えばあれでどうして飛べると思ったのか分からない程の酷い出来だった。
それを自信満々に裏山に設置して、自分の全生命力を懸けた渾身のペダリングで飛行機を飛ばそうとしたんだけれども、1ミリも浮くことが出来ずにマシンを壊してしまった。
ひどく落胆して、もうそんな夢みたいなことはしないと思ったが、高校に入るとバイトが出来る年齢になってしまうんだ。
授業中とか暇な時にあのスカイダイビングの興奮を思い出すと、どうしてもまた人力飛行機を作って空を飛んでみたいと思うようになってしった。
そしてまた次第に空を飛びたい情熱が沸き上がってきて、バイトを始めて資金を調達し、また人力飛行機制作を始めたのが1年くらい前の話だ。
それからバイトしながら人力飛行機制作を行い、一度装備を整えて飛行機を飛ばした。
が、結果は惨敗。
飛びそうな気配はあったんだが、結局まともに飛ぶことはなく機体を壊してしまった。
その失敗を色々と反省していたのだが、プロペラを回す俺の足が弱いと感じた。
それから俺は毎日夜にランニングを行って脚力を鍛えはじめ、同時に機体の修理と改造を行っている。
バイトは既に辞めてしまったのだが、資金は結構余っていたので、ちょいちょい買い物をして機材を自作している最中だ。
なので、こうして学校が終わったら人力飛行機の改修を行ったりして毎日を過ごしている。
工具とオカリナを家から持ち出し、アパートを出てすぐ裏にある小さな山を登る。
この裏山は小さい頃から母親と遊んだりして俺には馴染みの深い場所だ。
山というよりは丘と表現した方が近いのかもしれんが、少し登ると直ぐに開けた野原のような場所に出る。
かなりの広さがある場所で、人が来ることは全くと言っていい程ない。
完全に俺の私有地みたいになっている。
この場所に製作中の人力飛行機を格納する雨よけの場所も作った。
実際に人力飛行機制作はここで行っている。
更にデコボコだった地面を整地して、人力飛行機の発射台としても使っているんだ。
お陰でこの山は完全に俺の為にある俺専用の基地になっていると言って過言ではない。
ここは日当たりもよく、人が来ないのも相まってオカリナを吹いて悦に浸ったり、気持よく昼寝する場所としても最高の場所なのだ。
俺はここに着くと早速木陰にある俺が持ってきた椅子に座り、オカリナを吹き始めた。
そしてさっきまでのことを少し考える。
(願いが叶う……か。なかなか面白いことになってきたな。大それたことはできないにしろ、結構おいしい出来事だよな。2つ目は何をお願いしようか……。空を飛ばしてもらうというのはどうだろうか……。あいつ、雑巾も飛ばしていたし、空を飛ばすことも出来そうだよな……。でも、せっかく後2つ願いを叶えられるのに、自分で達成できそうなことに使ってしまったら勿体ないかな……まあ、願いはなんでもいいし、時間もたっぷりあるんだ。ゆっくり考えるか……)
しばらくすると、この俺の聖域である不可侵領域に突然人の声が聞こえた。
「すごい……。とっても綺麗な音色」
この場所は俺の中では神聖なる場所なんだ。
ここに人がいる所なんか見たこと無いし、いたとしてもすぐに追っ払ってやる。
それくらい俺にとって思い入れの強い場所なのだが。
「それ……オカリナですか……?」
目を開けると、エプロン姿の月河琴子が俺の視界に映った。
「とっても気持ちいい……。何か癒されます……」
彼女も目を閉じてこの場所の風を感じ始めた。
俺は自分の聖地を汚された気分になってオカリナを吹くのをやめ、ゆっくりと立ち上がった。
「あ……」
彼女はそれに気付いて目を開ける。
「あ……。じゃねえ! 部屋の掃除はどうした!?」
「はい。終わらせました!」
「風呂の掃除は?」
「はい! 終わらせましたよ~」
彼女は笑顔でそう答えるが、いくらなんでも早すぎる。
きっと嫌になって逃げ出してきたに違いない。
「洗濯と料理は?」
「あ、そうそう、夕食はいつ頃になさいますか?」
「……7時」
「はい、分かりました! 7時ですね~。うんうん」
彼女は妙に納得したように笑顔でうんうん頷く。
「じゃない! お前嘘つくなよ! こんなに早くアレだけの雑務が終わるわけねーだろ!!」
俺が指示したことは普通の人間がやれば2時間は軽くかかるはずだ。
「いえ、ちゃんと終わらせましたよ?」
「…………」
そうだ。
こいつは普通の人間じゃないんだ。
きっと魔法か何か使って終わらせたんだ。
「ちょっと魔法使って疲れちゃいましたけど……はは」
そういう彼女の顔からは疲労の色がかすかにだけれども見える。
本当になんだかよく分からない奴だ。
普通あんな雑務を頼まれたら誰だって嫌がるにはずなのに、こいつは嬉々としてその仕事をやり終えてしまった。
「掃除洗濯料理。お前、雑用が好きなのか?」
「え? う~ん……。特別好きっていう訳でもないですけれども、ここの世界の物がたくさん見れて面白かったです」
よく分からない。
よく分からないと言えばこいつの『色』だ。
未だにどうしてこいつが二色の『色』を持っているのか理解できていない。
俺はなんとなく目を『色を見るモード』に切り替えて月河の色を見てみた。
「…………」
「?」
そこであることに気が付いた。
こいつの色は薄いエメラルドがかかった白の外側に桃色があったはずだが、今見てみると若干だがその桃色が薄くなってる気がする。
(なんか分かってきたぞ。さては外側の桃色は魔法に関係する色だな。だから今まで見た事もないような色だったんだ。で、その魔法を使ったから若干桃色が薄れてきている……と言ったところか?)
俺は勝手に彼女の色について考察してみた。結構人の色を考察するのは好きなんだ。
「あの……私の顔に何かついてます……?」
俺は彼女を凝視していることに気付き、はっとなって目をそらす。
A.いや、なんでもない
B.鼻毛出てる
C.ヘラクレスオオカブトがお前の顔に止まっている
D.お前はすでに死んでいる
(……Dだろう)
自分で選択肢を作って自分で答えを勝手に導く。
「お前はすでに死んでいる」
「え!?」
「お前の拳はすでに見切った。さっきの一撃の瞬間、俺はお前の秘孔を突いたのだ。お前に気付かれないようにな。残念だがお前の負けだ」
「え……私……死ぬ……?」
簡単に信じた。
これがこいつのシンボルカラー、純粋の『白』なんだろうな。
「嘘だ」
「なんだ……びっくりしましたよ」
普通あんなこと言われてびっくりする奴はいない。
「それにしてもいい場所ですよね~、ここ。すっごく気持ちいい。それに本堂さん、オカリナ吹いてましたよね?」
俺は自分の右手のオカリナを見る。
A.ああ。それがどうした?
B.断じて違う。神に誓ってもオカリナなんぞ吹いてはいない、絶対にオカリナだけは吹いていない
C.いや、実はこれはオカリナに見せかけた暗殺道具の吹き矢なんだ
D.いや、実はこれはオカリナに見せかけた望遠鏡なんだ
(Bか……? いや、ここで激しく彼女の問いに否定するのも全く無意味だ。ここは思い切ってバクチだ。Dでいってみよう)
なにがバクチなのかは全然分からない。
でもなんとなく俺の密かな趣味を見られてしまったのは少しシャクに触った。
「いや、実はこれはオカリナに見せかけた望遠鏡なんだ」
「え……? 望遠鏡なんですか?」
「そうだ。ここは景色がいいだろう。それには望遠鏡が持って来いなんだ」
「そうですよね~。私もここの綺麗な景色、そのオカリナの形をしている望遠鏡で見たいな……」
彼女が俺の望遠鏡・・・・・もとい、オカリナを見つめる。
「…………」
「いや、これは俺専用の望遠鏡なんだ。俺じゃないとこの機能が働かないんだ。ほら、ここの穴をこうして……」
俺は無理やりオカリナの穴に目を近づけて望遠鏡のように使おうとした。
「こうすれば……ほ~ら、遠くの景色が見えるか!!」
月河琴子の頭をぶっ叩いた。
「痛い……」
「お前が早く突っ込まねーからこんな訳分からんことやらなきゃならねーことになっただろーが!!」
「すごい無茶苦茶言ってる……」
せっかく気持ちよくオカリナを吹いていたのに、こいつのせいで気分を害された。
もう気持ちよくオカリナという癒しの音色に一人身を流すということは無理そうだ。
まぁでも、こいつにも聞きたいことがあったから丁度いい。
「それはそうとお前、物体を浮かせる力とかあるのか?」
「物体を!!」
「どこで驚いてるんだ! 雑巾ふよふ~よしただろ? あれ、雑巾じゃなくても出来るのか? 例えば俺ふよふ~よとか魔法で出来たりするのか?」
「本堂さんふよふ~よですか……む~……」
そう言うと月河は難儀な顔して唸り始めた。
簡単には出来ないということか?
それともそれは二つ目の願いとしてカウントされてしまうということだろうか。
その、願いっつーのも曖昧で良くわからないんだよな。
あいつに命令したらそれが願いだと勝手に受け取られたら非常に困る。
「出来ないことはないと思いますよ!」
「本当か!! それって俺がお願いしたら2つ目の願いとしてカウントされちまうのか?」
その言葉を聞いて凄いテンションが上がってきてしまった。
これはもしかしたら、早速二つ目の願いの出番が来てしまうかもしれない。
「カウントされてしまいますね……。それ以前に、本当に本堂さんを浮かせることなんて出来るのかなぁ……」
「さっき出来ないことはないっつっただろうーが!! ちょっと試しにやってみろよ! もちろん、お前の魔力をご主人様が図るという意味だから、願いにはカウントされないぞ!」
「むむ~う……」
と、都合よく理由を付けてお願いしてみたら、また月河は顎に手を当てて考えこむような格好になった。
「私が勝手にやったってことで平気かなぁ……。私もシステムは余り良くわからないのですよ……。これで2つってカウントされていたら嫌だなぁ……」
「えぇー!? 理解してないの!? 大丈夫かあんた!!」
そんな曖昧なシステムで来られても困る。
もう、さっきの『身の回りの世話をする』っていうのもこいつが勝手にやり始めたことだから、願いにカウントされないって押し切ってもいけそうな気がしてきたぞ。
「魔法で監視されているのですよぅ。私の魔力がどういった理由や目的で出されたのか見られているんです。なので、ご主人様の為に使ったものかどうかが分かってしまったらなぁ……。でもいいやー!私、ちょっと試してみますね♪」
「おい、ちょっと大丈夫なのかそれ! 凄い心配なんだけど!」
でもいいやー! なノリで俺の願いがひとつ減らされでもしたら冗談じゃない。
月河には待ったをかけたのだが、彼女は「平気です平気です」と言って腕まくりを始めた。
そして俺に向かって、両手を前に出して魔法を唱えるようなポーズを取る。
かなり不安になりながらもその様子を見守っていると……。
「お!? おぉ!!」
俺の足が地面から少しずつ離れていった。
「まじかまじか!! ひゃっほーーー!!! すげぇーーすげぇーーぞーー!!!」
めちゃくちゃテンションが上ってしまう。
このまま俺は大空を舞うことができるのであれば、もうこれが二つ目の願いでもいいってくらいテンションが上ってしまった。
しかし、足が地面から5センチ程離れてからはいくら待ってもそれ以上浮いてくれない。
「どうした!! もっと上げていいぞ!! 大気圏まで飛ばせ!!」
そんなことされたら燃え尽きるけどな。
それがそう声を掛けるも、目の前の月河は目を閉じながら魔法を使うのに集中している様子だ。
俺の話なんて全く聞いていない。
次第に月河の表情が辛そうな感じになってきて、ついに月河はその体勢から崩れて「ふい~」と地面に座り込んでしまった。
それと同時に、浮いていた俺の足も地面へと着地する。
記録、5センチ。
「ふい~……。どうですか!? 出来ましたよ!! 私、本堂さんふよふよできましたよー!!」
「…………」
あれで凄い満足そうな月河。
屈託のない笑顔を俺に向けてきている。
対して俺は物凄い白けた顔で月河を冷たく見てやった。
「よ~し、出来るということがわかったので、いつでもOKですよー!! 願い、叶えますか!? それとも、まだ取っておきます??」
かなり疲れていた感じだったのだが、自分の成果が嬉しかったのか、再び立ち上がってグッと腰に力を入れてまだまだいけることをアピールする月河。
しかし、そのアピールも魔法を使った疲労のせいか、少しよろけてしまっている。
5センチ浮かせてこのザマじゃ、何の期待もできん。期待した俺が馬鹿だった。
「でもな~……ここでまた願いを叶えてしまったら、私がここにいる時間が短くなってしまいそうだしな~……。あの、本堂さん、三つ目の願いはずっとず~っと取っておいて下さいね?」
「…………」
「あれ? 本堂さん?」
「おじぎをするように前かがみになれ」
「は、はい!」
月河は俺の言葉に従ってお辞儀の途中みたいな格好になる。
「そのまま両手を真横に広げろ」
「はい!」
従順に従う月河。
「もうちょっと手の位置は低くしろ」
「は、はい! こうですか?」
「片足で立て」
「は、はい!」
「命!」
月河は馬鹿正直に俺の言ったことに従った。
結果、月河を『命』のポーズにさせることに成功した。
月河は命のポーズのまま固まる。
「い、いのち……?」
「くだんね」
月河の乱入でオカリナに浸っていた俺の気分も台無しだ。
一瞬持たせた期待も裏切られてテンションも落ちた。
飛行機製作の続きをやろうと思ったけれども、このままだとこいつに邪魔されそうだ。
そう思ったので、俺はこの場から離れて月河が本当に掃除をこなせたのか見に行ってやることにする。
「あれ、本堂さん、何処へ行くんですか!?」
「帰る」
「わ、私は!?」
「命!」
「命!!」
俺の掛け声に命のポーズのまま応答してくれた。
ノリだけはいいみたいだ。
くだらなかったので、そのまま月河を置いて帰ることにした。
家に帰るとあのボロい玄関はピカピカに見違える程綺麗になっていた。
「すげえ……」
俺は思わず感嘆の声を漏らしてしまった。
「へへへ~、どうですか?」
あの後駆け足で俺の元に寄ってきた月河は、少しはぁはぁいいながら得意そうに言う。
正直ここまでやるとは思わなかった。全く使えそうにない魔法使いだったんで全然期待してなかったが、予想以上の出来だ。俺はさらに靴を脱いで部屋の中へと入っていく。
「……マジかよ」
散らかり放題だったこの部屋もすっかり整頓されていて、ゴミ一つ落ちていない。
どうがんばったって普通の人間にはこんな短時間でここまでピカピカにする事は不可能だ。
思ってた以上に彼女の魔法が素晴らしかったんで、素直に驚かされた。それにだんだんテンションが上がってきてしまった。
「おい! お前結構すげーじゃんかよ!! よし! 今日は俺のおごりでウタゲだ!! ウタゲの準備だ!!」
後ろを振り返ってテンションを上げながら月河琴子にそう言う。
「わ~い! 宴会だー!」
「よし! 近くのコンビニで酒買ってこい酒!!」
「え……?」
「もちろんお金はお前がだすんだぞ!!」
「え……本堂さん、さっき俺のおごりって……」
「訂正だ! 俺のおごりのようでお前のおごりで宴会だ! よし! コンビニで酒買ってこい!」
「な、なんか無茶苦茶……」
テンションの上がった俺は月河に酒を買いに行かせた。
しばらくすると月河は戻ってくるのだが、酒を持っていなかった。
どうやら店員が未成年だからと売ってくれなかったらしい。
代わりに月河が買ってきたものは……。
「ハケ」
「はい。ハケです」
「何に使うんだ?」
「知りません」
アレだ。お好み焼きとかにソースを塗りたくる為に使うハケを買ってきやがった。
「店員さんにお酒を頼んだら断られて。これなら似てるから大丈夫だって……」
「似てるのは名前だけじゃねーか!! なんだその店員!! そしてお前もだまされるな!!」
召使いにこんな見当はずれな無駄遣いされて、先が物凄く思いやられた。
その後俺達は月河琴子の作った料理を食べ、彼女がもう一度買い直してきた飲み物やお菓子をつまんだ。
魔法がからんでいるからだろうか、彼女の作った料理はどれもこれも絶品だった。
最初は使えないと思っていたが、料理がうまいとか、使い走りならできるとか、そういう地味な所で意外に役に立てそうな気がする。
今まではコンビニ弁当だとか、カップラーメンだとかそういうのばっかりだったが、これからはずっとこんな温かい手料理を食える。
それどころかめんどくさい雑用は一切やらなくて済むんだ。
そんなことを思い、いい気分に浸りながらソファーでゴロゴロしていた。
(至福だ。こんなにラッキーな事が舞い降りてくるとは俺の人生も捨てたもんじゃねえぜ。明日からは雑務が全くない上に温かい手料理が食べられるんだろ? なんか楽しくなってきた!)
「うひょひょーー!!!」
「どうしたんですか!?」
テンションが上がりすぎて、思わず寝っ転がりながらそんなことを叫んでしまった。
難儀そうな顔して月河が俺のことを見てくる。
すっかり忘れていたが、こいつが今同じ部屋の中にいるんだ。
そうなんだよな……。
俺が自由な時間やら温かくてうまい手料理を手にした代償として、こいつが住み着くことになっちまったんだ。
これでこいつもいなければ最高なんだけど、それだと掃除も洗濯も料理も自分でやらなきゃいけなくなる元の生活に戻っちまうもんな。
それだけは我慢するしかないか……。
月河が何事かという感じで俺の傍に寄ってくる。
「……今のは、この世界の掟だ。夕食を終えて一段落ついたら寝転がりながら『うひょひょーー』と言って体をジタバタさせる決まりがあるんだ」
「そうなのですか~。じゃあ、私もやらないといけないですね!」
「そうだ。魂を込めて叫べ」
「はい! 分かりました!」
そう言って月河は床に寝転がる。
「うひょひょー!」
「…………」
アホくさ。
こいつが邪魔だけれども、こいつがいないと雑務が返ってきてしまう。
そんなジレンマを考えながら、しばらく月河とアホくさいやりとりをしていた。