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リメンバー・彩  作者: 若雛 ケイ
Episode1 メザメノイッポ / 序章 魔法の国からコンニチワ!
2/62

第2話 全部間違ってるヤンキーと転校生と俺

 謎の転校生がやってきた日の昼休み。

 俺の席の隣は朝と同じように賑わっていた。

 男も女も転校生月河琴子に興味津々もいいところで「一緒にお昼食べようよ~」とか「学食案内してやる!」とか、月河と仲良くなりたそうな奴の多いこと多いこと。

 お陰でいつものお昼の静寂を楽しむ俺の一時が完全に邪魔されてしまっている。


 仕方ないので今日は屋上で一人静かに飯を食おうと思って席を立った時に、後ろから急に首根っこを掴まれた。


「おぉ!?」

「ちょっと来い」


 誰の仕業かと思ってその犯人を見てみたら、今どき珍しいヤンキーの女だった。

 米谷冬子よねやとうこ

 校内では有名な『桜華紅蓮隊』というの怪しいレディースチームのメンバーの一人だ。

 時代遅れのカールのかかった金髪ロングヘアをしている米谷。

 前髪は巻いているし、スカートは長いし、耳はピアス開けているし、唇は真っ赤だし、何故かいつも竹刀を持ってるし、昭和の不良をそのまま体現してみましたみたいな格好をしている。


 桜華紅蓮隊というのは見るからにヤバそうな女四人組のチームで、この学校にいて知らない奴はいないだろう。

 クラスは違うが、メンバー全員が俺と同じ2年に在籍している。

 校内ではトラブルメーカーとして教師にマークされているし、こっちから変に突っかかっていけばひどい目に合う。

 だが、自分から絡んでいかなければ基本的に絡んでこないような奴らだし、女子の間からは『割りと良い人だった』なんていう噂も聞く。


 そいつが何故か俺の首根っこを掴んで「ちょっと来い」と言って、俺を引きずりながら教室の外へと出て行った。

 こっちから絡まなければ基本的に何もしてこないと思っていたので、非常に珍しい。


 実を言えば俺はこいつらと面識がない訳ではない。

 とは言っても、去年、しかも一度だけしか絡んだ覚えはないので、向こうさんは俺のことを覚えているとは思えない。

 なのに、何で急に絡まれたのかは理由がサッパリ分からない。


 まぁ、元々滅茶苦茶な奴らだし、こいつらに理由を聞いても無駄ではありそうだ。


 嫌な予感がプンプンしながらも、「離せ」と吠えて掴まれた手を振りほどこうとする。

 が、奴は常に携帯している竹刀を床にバシッと叩いて俺を威嚇してきた。


「うるせぇ!! ちょっと来いって言ってんだろ!!」

「理由もなくお前と行く所なんてねぇよ!! 俺は一人静寂な昼休みが欲しいだけだ!!」

「静寂だよ!!」


 そう言う米谷は俺を引きずったままだし、床をバシバシ竹刀で叩いているし、静寂とは真逆の方向にいる。


「全然静寂じゃねぇだろ!! 主にお前のせいで!!」

「うるせぇ!! ぶっ殺すぞ!!」


 バシン! バシン!!


 一言一言、こいつが発言する時の効果音みたいに竹刀を叩いている。

 こいつらは学内でも、当たり前だが、アンタッチャブルな目で見られており、基本的に同級生だろうとこいつらに対して敬語を使っている奴は多い。

 見てくれも怖いし、当然と言えば当然か。

 でも、俺はそんなことはしない。

 何故なら、こんな奴らに敬語なんか使った日には舐められるからだ。

 所詮は同級生、しかも女だ。

 こっちが下手にでる理由などない。


 米谷は階段でもお構いなしに俺を引きずるので、階段のカドが全身を波打つように打ってきて痛い。

 仕方ないので観念して俺は自分で立ち上がり、米谷の後をついていくことにした。



 結局きたのは誰も居ない屋上。

 購買で適当に飯を買った後来ようとしていた場所だ。

 こいつがいなければな。


「ってぇな……。俺に何の用だ? 俺の静寂の一時を邪魔するまでの価値がなかったら怒るぞ!?」

「まぁ、ちょっと来いよ……」


 警戒して米谷と少し距離を取っていた俺に対してそう言ってくる。

 少し構えながら恐る恐る近寄って行くと、間合いが詰まった所で米谷はガッと腕で俺の首を締めるようにして体を寄せ付け、内緒話するような体勢を取ってきた。

 お陰で米谷の顔が近くにあるんだが、香水臭い。


「……なぁ本堂、恋愛しようぜ?」

「しねぇよ!!」


 俺を呼び出しておいて何を言われるのかと思ったらこれだ。

 全く予想できなかったことなので驚いたが、それ以上に『米谷と恋愛』という蟻が恐竜に勝つくらいあり得ないことを言われたので、驚きよりも拒否が先に来てしまった。

 俺は思い切り米谷の体を突き飛ばして、再び距離を取る。


「何でしねぇんだよ恋愛!! ぶっ殺すぞ!?」

「何でしねぇんだよじゃねぇよ!! 何でお前と恋愛しなきゃいけねぇんだよ!! お前、俺に惚れてんのか!?」

「あたいじゃねぇよ!!」

「じゃあ誰だよ!!」

「それは……」


 あれ?

 なんか急に勢いが大人しくなったぞ。

 恋愛しようぜと言ってた本人が恋愛の相手ではない……というのはどういうことだ?


「それはどうだっていいから恋愛しろ!! しなきゃぶっ殺すぞ!!」

「意味わかんねぇーー!!」

「お前、恋愛したいって言ってたじゃねぇか!!」

「言ってねぇよ!! 何だ突然!! 大体恋愛なんて人から言われてすることじゃねぇだろ!!」

「んだと!? 意味分からねぇ奴だなてめぇは!!」

「そりゃ俺の台詞だよ!! 何この脈絡のない意味不明なイベント!! このイベント用意したの誰だ! 責任者呼んでこい!!」

「ったく……恋愛しなかったら殺すからな?」

「しねぇっつってんだろ!!」


 そう言いながらスタスタと屋上の入り口へと歩いて行く米谷。

 話はこれで終わりらしい。

 増々意味がわからない。

 結局その恋愛するという約束を俺はしなかったけれども、それだけでいいんだ。

 米谷は俺に恋愛しろと強制したかった訳じゃなくて、それを伝えに来ただけってか?

 本当に意味が分からない。

 一体何だったんだと思いながら、俺も屋上を後にした。



 が、屋上を出てから校内に戻って少しすると、今度は桜華紅蓮隊の別メンバーに出くわした。


 三好七恵みよしななえ

 桜華紅蓮隊の中では比較的まともな見てくれをしている。

 金髪ボブカットで、真っ赤な唇と耳にピアス、常に竹刀を持ち歩いていて、丈が地面につきそうなスカートを履いているというのは米谷と同じなんだが、顔は普通に可愛い。

 飴が好物らしく、いつもこいつの口からは飴の棒が出ている。

 今もそうだった。


 そいつは俺を見つけるなり、米谷と同じように俺の首根っこを掴んでずるずると引きずっていく。


「ちょっと待て!!」

「待ふぁねえよ! へめぇ、逃げふぁら殺ふはらな!」


 三好の言葉は飴のせいで変な言葉になっているが、語気からも言ってることは伝わってきた。

 こいつらは何か言うと語尾に『殺す』を付けてくる。

 威嚇のつもりなのか分からんが、ここまでくれば最早ギャグだ。

 三好はそのまま米谷と同じように俺を屋上へと引っ張っていった。

 階段が痛かったので俺も観念して、途中からは自立して三好の後をつけて行った。



 屋上に着くと、俺はさっきと同じように三好と距離を取って構える。


「何の用だ……? さっきお前の仲間にもここに連れて来られたぞ?」


 俺がそう言うと、三好は手首をクイクイ動かして「ちょっと来い」と俺に伝えてくる。

 嫌な予感がプンプンしていたが恐る恐る近づいてみると、さっきの米谷と同じように間合いに入った瞬間に腕でグイッと首を掛けられて内緒話するみたいな感じになった。

 香水くせぇ。


「本堂、お前……れ、恋愛しろよ」

「またかよ!!!」


 三好が一度飴を口から外して何か言い始めると思ったら、米谷と全く同じことを言い始めた。

 俺もまたさっきと全く同じようにバッと三好を突き飛ばしいて再び距離を取る。


「え、何、お前らの中で恋愛ブーム……いや、違うな。恋愛しろよブームにでもなってんの!?」

「するのかしねぇのかハッキリ言え!! ぶち殺すぞ!!」

「しねぇよ!! 米谷ともお前とも恋愛しねぇ!! 何か夢の中に出てきた男とも恋愛しねぇ!! 何で俺に恋愛させようとする奴ばっか揃ってんの!?」

「訳分からねぇ奴だな……」

「お前やさっきの金髪カールにだけは絶対言われたくない台詞だなそれ!! 分かった。じゃあ、仮に俺が恋愛すると言ったらお前どうすんの?」

「そりゃ……それでいいに決まってんだろ……」


 もう、全然意味が分からないんですけれども。

 誰が相手とかでなくて、俺が恋愛すればこいつらが満足する状況って何だよ!

 とりあえずこんな無意味なイベントはさっさと消化したいから、適当なことを言って追っ払うことにする。


「分かった分かった。恋愛する恋愛する。俺は恋愛しまーす」

 と、投げやりな感じで言ってやった。

 すると三好は少し満足そうな顔をする。


「そうか……よし、それでいい。恋愛してなかったら後で殺すからな」

 そしてそれだけ言って三好は屋上の出口から出て行ってしまった。

 本当に何から何まで訳の分からない奴らだ。

 でも、これでようやく俺も静寂の昼休みを手に入れることができそうだ。



 今あったことは綺麗さっぱり忘れ、さっさと飯を買って静寂の一時を楽しもうと思いながら屋上を出て少し歩くと、また桜華紅蓮隊の別のメンバーに出くわした。

 この謎の桜華紅蓮隊連続イベントには、さすがの俺も顔を手で覆いたくなった。


 高田由希子たかだゆきこ

 坊主頭に限りなく近いベリーショート、しかも色が紫色とイカれた色をしており、それでいて目つきが怖すぎる。

 メンバーの中では一番チビだが、見てくれは完全に男だ。

 竹刀を持っていたり地面すれすれの丈のスカートを履いているのは他のメンバーと同じなんだが、目のあたりに傷跡があるし、耳だけではなくまぶたにも鼻にもピアスをしている。

 桜華紅蓮隊の中でもぶっちぎりに恐ろしい格好をしている女だ。


 こいつらには散々面倒くさいことに付き合わされたので、嫌な予感がしつつも目を合わせないようにこそこそと逃げるような位置取りで通り過ぎようとする。

 が、そんな努力も虚しく、またさっきと同じように首根っこを掴まれて引きずられてしまった。


「ちょっと来いや」

「……恋愛ならしねぇぞ?」


 また屋上に連れて行かれそうになったので、また同じことが起こる前に先手を打っておいた。

 すると、高田はその言葉に驚いたようで、咄嗟に俺を掴んでいた手を離す。


「な……てめぇ!! 何で恋愛しねぇんだよ!!」

「やっぱりその相談だったのーー!? 何3人でローテーション組んで同じこと伝えに来てんだよ!! それ意味あんのか!? 俺はひとりひとりに同じことを言わなきゃいけないのか!?」


 今度は屋上ではなく校内でのやりとりだったので、俺と高田のやりとりを見た他の生徒もいた。

 その生徒は触らぬ神に祟りなしといった感じで無視するか、面白そうだからちょっと見てみようと言った感じで物陰に隠れて俺と高田のやりとりを見続けている。

 高田は俺に近づき、俺の胸ぐらを掴みあげ、顔を近づけて威嚇してきた。


「恋愛……しろ」


 凄い怖い顔つきでそう睨んでくるんだが、脅し文句の内容が意味不明過ぎる。


「しますします。恋愛するからもう購買行っていい?」

「ちっ……恋愛しなかったらぶっ殺すからな……」


 とりあえずさっきの三好の時と同じように適当言ってごまかすと、高田もまたさっきの三好と同じように納得した感じで俺を掴む手を離した。

 そして、そのまま何事もなかったかのようにどっか行ってしまった。


「…………」

 結局3人相手にしたけれども、恋愛がどうのとか意味不明なことを言われるだけで、本当の所は何が言いたかったのか全く伝わってこなかった。

 意味が分からないので、俺は見ていたギャラリーを適当に指差して、


「恋愛しろよお前ら! 俺のようになりたくなかったらな!」


 と、言っておいた。

 後リーダーの村下楓むらしもかえでと出会っていれば、桜華紅蓮隊の連中は全員マスターしたことになったのだが、その後村下に会うことはなかった。

 会わなくて心から良かったと思った。




 本当にとんでもなく無駄な時間を使ってしまった。

 俺はそのまま購買へ行って飯を買い、屋上は嫌だったので仕方なくうるさい教室で飯を食うことにした。

 教室に戻って自分の席に着けば、隣は転校生とそのギャラリーで大賑わい。

 せっかくの俺の癒しの時間が今日は一分たりとも取ることができなかった。

 全部奴らの恋愛ブームと転校生月河のせいである。




 学校が終わった。

 今日一日は本当に疲れた。

 1から10まで訳の分からない桜華紅蓮隊のイベントのせいもあるのだが、それは昼休みだけの話。

 問題は転校生月河だ。

 奴はことごとく俺の睡眠時間を妨害し、くだらん話や質問を吹っかけてきた。

 その度俺は何度も相手をしてやることとなり、なかなか睡眠時間はとれない。

 それだけならまだいいのだが、奴がやたらクラスの連中に人気が出てきたせいで、男子も女子も月河の席に群れる群れる。それも俺が寝れない要因のうちにバッチリ入っている。


(くそ……今度会ったら腐った雑巾を投げつけてやる)


 腹いせに適当な嘘を教えたりもしたが、それだけじゃ俺の怒りは収まらない。

 今度仕返しに何をやってやるか考えながらいつもの帰路を歩いていた。



(…………)

 なんか後ろに人の気配を感じる。

 学校を出て間もない時だった。

 俺は後ろを振り向いた。


「!!」

 何かよく分からんが転校生月河が笑顔で俺を見ていた。

 奴はストーカーも担当しているのだろうか?


(くそっ。無視だ無視)

 俺は無視して真っ直ぐ家に向かった。



(…………)

 まだ後ろに人の気配を感じる。

 俺は後ろを振り返った。


「…………」

 まだ転校生月河が笑顔で俺を追いかけていた。

 もううちの制服も散らばっており、一通り辺りを見渡したが、うちの制服を着ている人間は俺の他に月河しか見当たらない。

 あいつの家は俺と同じ方向にあるのだろうか?

 そうでなければ……。


(転入初日にしてもう彼女のハートを奪ってしまったか!? 恐るべし俺の魅力……)


 確かに不思議と俺は女にモテるがこんな怪しい奴にモテても嬉しくもなんともない。

 それどころか、このまま俺の家まで引っ付いて着たら、一目散に110番しなければいけない事案である。

 そんなことを考え、極力後方にいる怪しい人物を無視しながら自分の家へと向かって歩いていった。



 あれ以降極力後ろは振り返らないようにして歩き続け、自分のっつてもアパートだがに着いた。

 今はあの転校生月河のせいで学校の怪談みたいな気分である。

 振り返れば奴がいるとか、リアルに怖い。


(いや何大丈夫だ。奴は確かにおかしい所もあるが、普通の女である事は間違いない。俺の後をつけてたのもたまたま家が同じ方角にあったからだ。うん、間違いない)

 まさかもう居やしないだろうと思いつつも、恐る恐る後ろを振り返ってみる。


「…………」

「…………」

 はい、居ました。

 3~4メートル後方で月河琴子さんが俺を笑顔で見つめていました。

 間違いないです。

 こいつ、正真正銘ストーカーです。


(でも、何故あんなににっこり笑っている?)


 まさか笑顔で嘘を教えたことや冷たい態度であしらったことへの復讐とか考えてないだろうな……。


 そこで俺は彼女をためしてみたくなった。

 このまま奴はどこまで着いてくるのか?

 まさか家の中までは進入してきまい。

 俺は彼女を無視して自分の住んでいるアパートの201号室、自宅へと向かう。


 トントントントン……


 階段を上がる。


 トントントントン……


 しばらくして誰かが俺の後に次いで階段を上がっている音が聞こえてくる。


「…………」

 自分の家の前に着いて鍵を取り出し、自分の家へと入る。

 ちなみに家は誰もいない。

 母親は働いていて帰りは夜遅い。

 父親は俺が小さいときに病気で死んだ。

 その時の俺はあまりに幼かったんで、俺の記憶の中には父親なんかいない。

 誰もいないはずの自分の家にただいまの挨拶をわざと大きな声でしてみた。


「たっだいま~♪」


 しかも意味も無くハイテンションに両手を上げて、物凄い笑顔で帰宅の喜びを表現してみた。


「おっかえり~♪」


 後ろから声が聞こえた。

 後ろを振り返るとそこには何故か笑顔の転校生月河。


 あわわわわわ、どうしよう。

 とりあえず110番が一番いいのかもしれないが、ここはあえて相手の様子を探ってみるのも面白いかもしれない。

 そう思った俺はこの非常識な女の子に怒鳴る事もせずに、彼女の肩に手を置き、笑顔を作った。


「ねえお嬢ちゃん、ここは誰のお家か知ってるかな?」

「はい、本堂さんのお家ですよね」


 彼女が相変わらずの笑顔で返してきた。なかなか手ごわい相手だ。


「そうだよね。お嬢ちゃんのお家じゃないよね。分かったならさっさと自分の家に帰って風呂入ってクソして寝ようね」


 俺も負けじと笑顔で対抗する。


「いえ、私お家ないのでここに住むことに決めました」

「何でー!?」


 さすがに大声を上げてしまった。

 まずいまずい。

 奴を探るはずだったのに、突っ込んだら負けだ。


 桜華紅蓮隊もそうだが、この転校生月河も相当な意味不明具合だぞ。

 こう、俺に絡んでくる人間が馬鹿ばかりだと、ひょっとしたら正常なのがこいつらで、俺が異常なんじゃないかと錯覚させられてしまう。

 ここは常識人としての対応を見せてやらなければならない。

 何とか態度を取り繕い、平静を装って対応しようと努める。

 一呼吸置いてから、落ち着いて、極力笑顔で対応してやった。


「でも、知らない人のお家に勝手に入るのは非常識ですよね?」

「う~ん……私の国じゃ結構常識なんですよ~?」

「どんな国だ!! さっさと帰れ!!」


 自分の意志もむなしく、決意を決めた3秒後思わず声を上げて突っ込んでしまった。

 この女は色も変だし、他もどこか変だと思っていたが、やっぱり頭がおかしかったんだ。

 それが分かれば興味も失せたし、もはや俺がわざわざ相手をしてやることもない。

 そう思った俺は相手の肩を押して追い返そうとするが、彼女は帰ろうとしなかった。


「私本堂さんをご主人様にすることに決めました。ご一緒させて下さい」


 そう彼女は笑顔で言って深々と一礼。


(ほう。元々怪しいと思ってはいたが、ここまで怪しいとはな。きっと新幹線にでも跳ねられて頭がいかれたんだ。いや、新幹線にひかれたら死ぬな……。飛行機か? それとも戦車か?)


 どっちも絶対にあり得ない。

 まあそんなことはどうでもいい。

 とにかく、目の前の女子高生は可哀想なことに、犬に踏んづけられて頭がイカレてしまったんだ。



 さて、どうしたものか。

 こいつは俺をご主人様にすると言ったな。

 となるとこいつは召使いか?

 成る程、正直それも悪くはないが、残念ながらこんな頭のイカレた人間と遊んでいる程俺は暇じゃない。

 ここは無理言って追い返してやることにしよう。


「俺がご主人様なんだな?」

「はい。そう決めました」

「だったら俺の家のメイドになれ。風呂、掃除、選択、料理、全部今日からお前がやるんだ」

「あぁ~……、はい!! 分かりました!!」


 彼女は表情が明るくなって元気にそう答えた。


「…………」

 絶句した。

 俺が待ってた反応は「そんなことできません! さようなら!」だったのに。

 俺がぽかんと口を開けて彼女を見てると、彼女は行儀良く靴を脱いで、部屋に上がりだした。


「お邪魔しますね! まずはお掃除からしますか?」


 彼女は俺にそう聞いてくる。


「あぁ……」


 俺はどこまで冗談だか分からずに適当に答えてしまう。

 すると彼女は腕まくりしてさっさと部屋の奥へと入っていった。


「あの~、掃除機と雑巾、どこにあります?」


 部屋の奥から彼女の声が聞こえてくる。

 マジでやるつもりなのか?

 どこまでやらせればオチがつくんだ?

 最初は「何本気にしてるのバッカみた~い」という言葉がいつ彼女からくるのかと思っていたのだが、この段階までくるとこのまま永遠にその言葉がこなさそうで不安だ。


(なんなんだアイツは……)


 あまりにも彼女がマジなのだ。

 演技派という可能性もなくはないが、あまりにも彼女がマジすぎて、どうもオチつきのイベントだとは思えなくなってきた。

 その辺をしっかり確かめようと思い、彼女とちょっとだけ話をしてみることにする。

 勝手にずかずかと俺の家に入っていった彼女を追うように俺は部屋の中に入った。


「なあ、お前何やってんだ?」


 彼女は既に鞄を適当な所におろして、雑巾を手に取り、今から掃除するぞ! って感じになってた。


「あ、お掃除を始めようかと思ってるんですけれども……」


 彼女は動きを止めて俺の顔を見ながら真面目にそう答えてくる。


「なあ、お前頭打ったのか? よかったら病院紹介してやるぞ?ちょっと遠いが池本総合病院っつーさびれてはいるがなかなかいい病院があるんだ」

「いえ、私は平気ですよ! あ、あとお願いは三つまでですからね! 三つ叶え終ったら私は国に帰らなければならないので……」


 どうやらそうとう頭を強く打ったらしい。


「残念だな……。もうお前再起不能かもな。総合病院よりも精神科医の方がいいかもな」

「いえ、私は大丈夫ですよ?」


 大丈夫らしい。


「あの……さっきのお願いは一つ目のお願いでいいんですよね……?」


 彼女が追ってそう言ってきた。


「あ、いや、ちょっと待て。願いはなんでもいいのか?」


 俺は彼女に調子を合わせてみる。


「はい。一応規則がありますが……」

「なんだ? 規則って」

「まあ色々ですね……。願いを増やせとか、人を殺せとか、他に何かあったかなぁ……」


 彼女はそんなことを言いながら、制服のポケットから生徒手帳みたいな小さい本を取り出して確認を始める。

 俺は彼女の口からどんな言葉が出るのか変に楽しみで、次の言葉を待ってみた。


「え~っと……日本の法律に背くようなことはダメみたいです。後、自分も魔法使いにしろとか、魔法の存在をこっちに知られてしまう可能性があるようなことはダメみたいですよ!」

「…………」

(ん。今確かに自分も魔法使いにしろって言ったぞ。自分『も』って言った。ってことは、こいつ、魔法使いなのか……?)


 いや、こんな頭の中で妖精さんを飼っていそうな女の話を鵜呑みにしてはいけない。

 これはきっと彼女の中のファンタシーワールドなんだ。

 頭のやられた彼女の妄想の世界なんだ。

 それに俺はつき合わされているだけ。

 そう思うと段々気が楽になってきた。

 何故か?

 俺も一緒にどっぷりファンタシーワールドにひたってやろうと考えたからだ。


「あ、あと私の魔法力の限界を超える魔法は残念ながら使えませんから。私ってばあんまり魔法力がないもので……」


 そう言って彼女は苦笑いする。

 さぁ、反撃開始だ。


「そうか。残念だな。ちなみに俺はどんな魔法だって使えるぞ。ヒットポイントを回復する魔法から、敵を眠らせる魔法、さらにはインドゾウを召喚する魔法まで使える」


 そうは言うものの、実際インドゾウなんて召喚されても迷惑なだけだし、架空の思いつき魔法のくせに実用性は0だった。


「え!? ほ、本当ですか!??」


 俺のその言葉を聞いて驚いた表情を見せる転校生月河。

 自分が魔法を使えるのは良くても、他の人が魔法を使えると驚いてしまうらしい。


「当然だ。なんてったって俺は妖精さんを7匹も飼ってるんだ。貴様はせいぜい2,3匹って所だろう。格が違って当然だ」


 これ、全部俺のファンタシーワールド語ね。


「おかしいな……。こっちの世界の人は魔法が使えないって習ったのに……」

「馬鹿言え。こっちの人は皆使えるぞ。もちろん、それぞれの格によって使える魔法には限界があるがな。ちなみに俺の格はさっきも言ったとおり『妖精セブン』だ。お前の格は何だ?」

「か、格……?」


 初めて相手がしどろもどろになってる。

 なんか完全勝利を収めた気分だ。


「わ、私の国には格はありませんでした。はぁ……。勉強不足でした」


 彼女はガックリと肩を落とす。


(ハーッハッハッハ!! 第一回メルヘン妄想大会、優勝は本堂英輝に決定だぁ!!)


 なんてテンションを上げてガッツポーズをしていると、転校生の傍にあった雑巾が宙を泳いでいるのを目撃してしまった。


「ハァ!!!?」


 さすがの俺も声を張り上げて驚いてしまう。

 その雑巾、元あった場所までふよふよと宙を泳いでいる。

 俺はそれを追いかけ、元あった場所にしっかりと戻っていくその雑巾を唖然として見てしまった。

 結局その雑巾は元あった場所にしっかりと収まるのだが、その雑巾を手にとってまじまじと見てみても、ピアノ線が付いていたとかそういった仕掛けはなかった。


「…………」

 仕掛けなんかあるはずない。

 この雑巾は正真正銘、俺の目の前で空を飛んだんだ。

 ビックリして言葉もうまくだせない。

 この雑巾が空を飛んだ理由として、あの怪しい転校生が絡んでるかもしれないと思ったので、その雑巾を持って転校生のところへ戻った。


「…………」

「…………」

 転校生の所へ戻ったが、転校生は肩を落としたまま固まっていた。

 そこへ声を掛けてどうして雑巾が空を飛んだのか聞こうとするが、さっき目の前に広がった『雑巾ふよふよ映像』が衝撃的過ぎてうまく言葉が出せなかったので、ボディランゲージと一緒に説明する。


「ぞ、ぞうきん、ふよふ~よ!?」

「…………」


 口に出た言葉が、なんか外人なまりのある日本語になってしまった。

 驚いてることがモロバレでなんだか恥ずかしい。


「ぞうきん、ふよふよ?」

「ぞうきん、ふよふ~よ!」

「え? あ、はい。私が片付けましたけれども……」

「リアリー? OK!」


 何故か英語になってしまった。

 とにかく、彼女がこの雑巾を片付けたらしい。

 ということはこの雑巾を宙に浮かせたのも彼女ということになる。

 俺は雑巾と彼女を交互に見合った。


「妖精セブンってどれくらい凄いんだろう……。やっぱり大学のレベルとか超えてるのかな……」

「…………」


 なんかマズイ。

 ファンタシーな妄想を繰り広げてる馬鹿は俺一人だけっぽい。


「お、お姉さん、魔法使い……?」

「は、はい……。でも、全然ダメで……私もこっちでいう妖精セブンには遠く及びそうにないのですよ……」


 さっきの話が効いたのか、まだ彼女は落胆しているような様子だった。


「証拠は……?」

「証拠……。あの、いちおうクシマンサイベンドー出身の魔法使いなんですけれども……」

 俺が証拠を要求すると、彼女は制服の胸の辺りからペンダントを取り出して俺に見せてきた。


「…………」

 なんだこのペンダント。

 こんなペンダント見たことない。

 サイズは手のひらサイズよりも小さくて、金メダルのような丸い形をしている。

 色は乳白っぽい色しているんだが、透明のようでそうでない。

 本当にどう形容したらいいのか良くわからない色をしている。

 表面には見たこともない文字が色々刻まれており、何か時折様々な色の玉がツッと通り過ぎたりして、デジタル機器のようなメカニカルな動きをしている。

 でも、電気製品という感じではなく、材質は石っぽい。

 いや、石でもないなこれ。何だコレ!?


 とにかく、こんな不思議な物体というか、今まで見たことがものだった。

 俺はそれをもっとよく見てみようと手を差し出すが、彼女にひょいとかわされてしまった。


「すみません。このペンダントはダメなんです。他人には滅多なことでも触れさせてはいけないものですので……」


 らしい。


「ちょ、ちょっと他に魔法を見せてくれ。そしたら信じてやる」

「え?え、えと、はい」


 彼女がそう答えて少し間を空けた後、俺は本日二度目の衝撃映像を目の当たりにした。


 ボゥ!


 火だ。

 彼女が差し出した右手の人差し指の先端から火が突如として現れた。

 手品なんかじゃない。

 本当に何もない所から急に炎が舞ったのだ。

 俺は唖然としながらその炎を見ていたが、その炎はすぐに消えてしまった。


「こ、こんなのしか出来なくて……すいません」


 さらに彼女は肩をガックリと落として俺に向けて頭を下げる。

 どうやら彼女は本物の魔法使いで確定っぽい。

 魔法使いというものに少なからず興味はあったし、何よりもさっき彼女が言っていた『願いは三つまで』とかいう言葉が非常に気になったので、俺はこの転校生と真面目に話してみることにした。




 とりあえず転校生をくつろげる場所に座らせ、妖精セブンだのこっちの人間が魔法を使えるだの、そういった嘘は全部嘘だと言ってやった。

 すると彼女からは安堵のため息が漏れた。「なんかおかしいと思ったんですよ」らしい。

 俺からすればストーキングとか平気でできる貴様の方がよっぽどおかしいと思うが。


 それでも俺はまだ気を緩めてはいない。

 相手が1から巧妙に仕組んだペテン師だという可能性もまだ捨ててないし、本物の魔法使いだとしても、何の為にここにやってきたのか分かったものではない。

 俺は心の中で十分に警戒しつつも、彼女と会話を始めた。


「お前何者だ。素性を全部話せ」

「え、えと……。クシマンサイベンドーよりやってきた月河琴子です。えと……」

「何? クシマン……なんだって?」

「えと、魔法の国、クシマンサイベンドーです。略してクマサベです」

「略称はどうでもいい」


 魔法の国。

 からかわれているのか本当なのか。判断に困る所だ。


「あ、あの、一応他の人には内緒ですよ」

「何で?」

「そういう決まりなんです。他の人には教えてはいけないんです」

「俺ならいいのか?」

「あ、はい。あの、本堂さんは私のご主人様になるので……」


 また出たご主人様。

 もう俺には何がなんだかサッパリだ。

 しっかり手順を追って説明してもらわなくちゃ理解できん。


「お前は魔法の国からここに来たな? 何の為に来た?」


 俺がそう聞くと、彼女は少し考える間を置いた。


「う~ん……。勉強……でしょうか。クマサベは狭い閉鎖的な国なんです。だから世の中にある色々な物を見る為の勉強……?」

「本当か?」


 という建前のもと、日本征服を企んでいるという可能性もなくはないので念を押してみる。

 もっとも、本当か? なんて聞かれて「嘘です」と答える馬鹿はいないだろうが。


「す、すみません!! あの、あの、本当は勉強とかじゃなくて、あの、あっちの世界は楽しいよって友達から聞いたので、私も遊びに行ってみたいなって……」


 馬鹿でした。

 こいつの『色』の薄いエメラルドは伊達じゃないようだ。

 でも、こいつがこの調子なら、ここに来た目的は日本人皆殺しとか、地球をのっとるとかそういデンジャラスなものではなく、今言ったように遊び目的なのに間違いはなさそうだ。


「よし、お前は魔法の国から遊ぶ為にこっちにやってきたんだな?」

「あ、あの、一応勉強も……」

「ならば次だ。ご主人様って何だ? お前は俺を一体何に選んだんだ?」


 今一番分からないのはコレだ。


「は、はい。ご主人様です。クマサベから異世界へ行く人は、行き先の世界の住人を一人選んで、その人の好きな願いをかなえてあげて、幸せをプレゼントすることになってるんです。私のそれが、本堂さんなんですよ~」


 と、笑顔でいう転校生月河。

 意味不明すぎる。

 何が楽しくてこっちの人間の願いを三つかなえてやるのだろうか?

 まぁ、かなえてもらえるもんなら喜んでかなえてもらうし、俺にとって都合の悪いことは何一つないが。

 ただ、その話を受け止める前に一つ確認したいことがあった。


「なんで俺がご主人様に選ばれたんだ?」

「え……え、えっと、それはですね……」


 何か急にあたふたしはじめる月河。

 何を考えてんだか良くわからない。


「え~っと、そう。本堂さんには何か他の人と違った物を感じましたから……」


 何か言葉を探していたと思ったら、次に出てきた言葉がそれだった。


(他の人と違った物を感じた……)


 きっと邪悪なオーラをヒシヒシと感じ取ったのだろう。

 俺が他の人間と決定的に違うところがあるとするなれば、他の人間よりあまりに邪悪すぎる所だと思う。

 まぁ、他人の『色』を見ることができるといういらん特殊能力も持っているが、それは外見からは判断できるはずないので、この転校生が俺から感じ取った他の人と違うところは邪悪な雰囲気でファイナルアンサーであろう。


「あの、それに一応昼間に魔法を見られていますから……」


 彼女は続けてそう言う。


「昼間? 今じゃなくてか?」

「あ、はい。今さっきもそうですけれども、昼間の段階で一応見られてしまいましたので……」

「魔法? 俺はそんなもん見て無いぞ」

「えっと……あの、学校でお腹治したの、あれ魔法でなんですよぅ」


 そう言われて学校での出来事をちょっと振り返ってみる。

 今日の出来事と言えば桜華紅蓮隊の意味不明な恋愛しようぜが真っ先に思い浮かんだのだが、それをかき消して探すと、思い当たった節があった。


 こいつが俺の隣の席に座ってすぐの話だ。俺が腹痛を訴えたらこいつ、魔法を使うような仕草をしていたな。不思議な感触だとは思っていたが、あれはやっぱり魔法だったのか。


「成る程……」


 どうやらこいつは本物の魔法使いで、なんだか知らんが俺の召使いとなって、俺の願いをかなえてくれるらしい。

 何というドM。

 こいつにメリットなんてひとつもなさそうだけど、それでいいのか?

 まぁ、こいつがそう言ってるんだから、それでいいんだろう。

 俺にとってしてみれば、要はアラジンと魔法のランプだ。

 あれ? これ、もしかして物凄いラッキーなんじゃねぇのか?


「お前、本当に願いをかなえてくれるんだな?」

「はい! 一応3つまでっていう制限はありますけれども……」


 こういうのって何故3つとか制約があるのか分からない。

 人を幸せにする為だったら何百個でも願いをかなえさせて欲しい所である。


「三つ……。三つかなえたらお前はどうなるんだ? 魔法のランプに帰るのか?」

「魔法のランプ?? えと、私はクマサベに戻されます」

「クマサベ……?」

「あ、クシマンサイベンドー、魔法の国のことです!」


 どうやらこれはかなり本気らしい。

 なんかおとぎ話のようなことが今現実となって俺の目の前に現れているのだ!


(いかんいかん。過度の期待をしてはならん。ガッカリするのは自分だ)


 そう思って一度深呼吸をして落ち着かせる。

 以前年賀状にくっついてるお年玉ナンバーを一つ読み違えて物凄いガッカリした経験があるので、その経験を存分に活かしてやらねばならない。


「俺は何すればいいんだ? ただで何でも願いをかなえてくれるのか?」

「はい! あっと、一応私をこの家に置かせてくれれば」

「は? 置かせないっつったらどうすんだ?」

「どうしてもダメって言うなら、本堂さんの私に関する記憶を消させていただきます。そして新しいご主人様を探しに回りますよ~」

「記憶も操作することができるのか!? お前、結構……かなりすごい奴なんじゃ!?」

「えへへ~」


 俺がそう言うと、彼女は照れるように笑った。

 こいつが嘘を付いているとは思えない。

 さっき雑巾が宙を舞う異常事態を見ているので、記憶が吹っ飛ぶ異常事態も今なら簡単に信じられそうだ。

 さっき『他の人に内緒だ』と言っていたが、本格的に内緒なのだろう。

 外部に漏れたら記憶を消されるということみたいだ。


「…………」


 俺は少し間をあけて考えた。

 選択肢は2つ、転校生の女を受け入れるか、受け入れないか。

 受け入れれば変なのと一緒に住むことにはなるが、俺は願いをかなえることが出来る。

 多少の犠牲はあるやもしれんが、これはリスクよりリターンの方がはるかに大きいのは誰にでも分かるだろう。

 段々この話が現実味を帯びてきて胸が高鳴ってきた。


「信じていいんだな?」

「はい!」


 俺が最後にそう確認をすると、彼女は何の迷いもなくそう大きく頷いた。


(これはおいしすぎる!! 絶対こいつを手放しちゃだめだ!!)


 そこで初めて自分の手に入れた物がホンモノだと確信し、大きく喜びを感じた。

 願いは確か三つと言っていたな。

 なんでもアリなんだ。

 世界征服も夢じゃない!

 思わず顔がにんまりしてしまう。


「何をお願いしてもいいんだよな?」

「はい!」

「よし分かった。俺を不老不死にしろーーーっ!!」

「えぇ!!?」


 俺はマンガでありきたりのセリフを放った。


(不老不死になれば世界を手に入れるのも夢じゃないぞ! はっはっは!!! まずはこの町からいただこうか。そしたら次はこの市、そして県だ。その次は もちろん日本。戦争だって目じゃねーぜ! なんたって俺は死なないんだからな! ハーッハッハッハ!)


 俺は両手を上げて高笑いする。


「ダメですよ! 一応制限ありますし、私の魔法力の限界をはるかに超えてますもん」

「…………」


 俺の野望は3秒で打ち砕かれた。


「魔法力の限界って……お前どの程度ならできるんだ?」

「う~ん……料理を作るとか、物を動かすとか……」


 俺は彼女の言葉に驚嘆し、愕然とした。

 その言葉で一気に現実へと帰された気がした。

 そうだよな、そんなおいしい話がある訳ない。

 段々からかわれてきたように思えてきた。


「それは魔法じゃなくても出来るだろ!! てめえ俺をからかってんなら今すぐぶっ殺すぞ!」

「え、え、え、いえ! ち、違います違います!」


 彼女は必死で否定する。


(使えない魔法使いだな……)


 俺は少し考える。

 期待していたものよりもはるかにスケールがしょぼそうだ。この調子だと億万長者とかも無理そうだ。

 でも物は試し、一応願い出てみる。


「金だ。お前が魔法で出せる全ての金を出して俺を億万長者にしろ」

「魔法で出せる全てのお金……。2000円になりますけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫な訳あるか!!」


 どこから2000円が出てきたのか全く分からないが、とにかく、とんでもなくしょぼい億万長者にしかなれなさそうだった。


(ちっ……。全く使えないじゃねーか。つまらん。追い返そうかな)


 と思いながらにこにこ笑っている彼女の方を見つめる。

 彼女は何をお願いされるか、わくわくしてそうな表情で俺のことを見つめていた。


(でも三つまでなら何か願いをかなえてくれるってせっかく言ってるんだしな……。一応使うだけ使ってやろうか……)


 何の代償もなしに三つ願いをかなえてくれるっつーんだから、追い出すよりも、使うだけ使って必要なくなったらポイが利口な使い方だと思う。


(よし決めた。せっかくだから身の回りの世話をしてもらうか)


 俺の母親は帰りが遅く、昼食、夕飯はもちろん風呂の掃除だって部屋の掃除だって身の回りのことは全部自分でやってる。

 それはかったるくてしょうがないことだった。

 せっかくこいつがこう言ってるんだからこいつに全部押し付けてやろうでないか。


「よし分かった。今日から俺がお前のご主人様だ」

「本当ですか!? やったー!! 私、この世界のことまだあんまりよく分からないので、色々教えて下さいね!」


 彼女は女の子らしい可愛い仕草ととびっきりの笑顔で俺にそう言った。


「いや、教えてやることは何も無い。お前は俺のいうことだけ聞いてればいいのだ」

「……むう」


 彼女の顔は一瞬むくれた顔をするも、ご主人様が決まった事がそれほど嬉しいのか、そんなことはどうでもいい様子ですぐ笑顔を取り戻した。


「あの、せっかくですので願いはずっと取っておいて下さいね! 私もこの世界を色々見て回りたいですし」

「三つ願いを叶え終わるとさっさと魔法の国に帰っちまうんだっけか?」

「はい。一応24時間のタイムラグはありますが、叶え終わった時点でもう私がクマサベに帰ることは決まってしまいます」


 24時間のタイムラグとかはよく分からないが、三つの願いを叶え終わったら魔法の国に帰ってしまうらしい。


「ってことは、逆に言えば三つ目の願いを叶え終わるまではずっとこの世界にいるっことだよな?」

「はい。なるべくならうんと時間を使って下さいね!」


 彼女は相変わらずの笑顔でそう言った。


「その辺に関しては問題ない。うんと時間を使ってやろう」


 俺はそう言って心の中ではにんまりだ。

 一つ目の願いでこいつに身の回りの世話を三つの願いが叶え終わるまで全部任せる。

 それで三つ目の願いは俺が死ぬまでとっておけばいい。

 飽きたらさっさと三つ目の願いをかなえて国に送り返してやればいいんだ。

 それで二つ目の願いは俺の好きなように使う。


(ふふふ……、我ながら完璧だ)


 普段使わない頭は、こういう場面になるとフル稼働される。我ながらなんだか情けない。


「よし、さっそくだが一つ目の願いだ」


 そう俺が言い出すと彼女はキラキラした目で俺を見つめる。


「三つ目の願いを叶え終わるまでお前は俺の身の回りの世話を全部しろ。家事、炊事、洗濯全部だ。それが俺の一つ目の願いだぁ!」

「はい! 分かりました!! 月河琴子、がんばります!!」


 俺がそう願いを申し出ると、彼女は威勢良くそう言った。

 俺は嬉しそうな彼女の顔を見る。


(なんかイマイチ得してる気分になってないのは何故だろう)


 彼女があまりに使えなさそうだったからに決まっていた。

 それでも、これからは毎日の雑務からは完全に解放され、俺は自由な時間をより多く手にすることができるんだ!

 大富豪になるようなことはなかったが、それだけでもノーリスクで手に入れることが出来たのだから大きいだろう。

 俺の自由な新生活はここから始まるんだ!

 そう思うと段々とテンションが上がってくるのだった。

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