四章 その四
目が覚めてまず目に入ったのは、白い天井と、新聞部の二人だった。
「お、初! 気がついたか!」海法は笑顔を浮かべて軽快に言った。
俺はゆっくりと辺りを見回して、状況を把握しようとする。白くて広い部屋。どうやらベッドの上にいるようだった。
「……ここは……?」
「病院」俺の問いに即答したのは神達だった。「三田村、重症だったから、救急車を呼んだの。命に別状はないけれど、しばらく右手は使えない、って」
「そうか……」
「三田村が気絶してから、だいたい一時間くらい。入院の必要はないって。三田村が平気ならすぐ帰れるけれど、どうする?」
どうする、と言われても。正直、判断がつかないので、わからないとしか言えない。
俺はとりあえず、慎重に上半身を起こしてみた。その際、無意識に右手を使おうとしてしまい、指先に強い痛みが走った。
「痛ッ!」
「あーもー何やってんだよ初ぇ」見かねた海法が俺を支えてくれる。
「悪いな」
「なーに、いいってことよ」
「それと」俺は一拍置いて言った。「ありがとう。二人が助けてくれなかったら、もっとひどい目にあっていたと思う。助かったよ」
「な、なんだよぉ、急に。別にいいってことよ、友達じゃーん」
海法はしまりのない顔で照れたような笑みを浮かべていた。正直ちょっと気持ち悪い。反対に神達は、我関せずといった様子で文庫本を読みふけっていた。さっきは微笑み返してくれたのに。わからない奴だ。
「それで、二人はなんであの時、裏通りなんかに来たんだ?」
話題転換に咳払いを一つして、俺は恩人二人に尋ねた。
「そーそー、あん時な!」海法は両手を打って答えた。「いやもーマジびっくりしたよマジで! いろいろホントにマジなんだもん!」
「……。神達、説明頼む」海法からの説明を放棄して、俺は聞く相手を神達に絞った。
「メールが来たの」神達は本に目を落としたまま言った。
「メール?」
「そう。送り主は不明で『三田村初が危険だ。今すぐ商店街裏通りに』って書いてあったの」
「それで、わざわざ来てくれたのか?」
そんな胡散臭いメールを信じて?
「私たちも半信半疑だった。でも、もし本当に三田村が危険な目に遭っているなら、見過ごせないし。……行ってみたら本当にピンチだったし」
「そーそー!マジで謎のメール様万歳って感じ!」興奮した様子で海法は膝を打った。「そんで、神達が足止めしているあいだに、俺が警察を呼びに行ったってわけ。結果的には神達一人で充分だったけどな」
二人の話を聞いて、俺は少しだけ、鼻の奥がツンと痛くなった。
たとえ半信半疑でも、どれだけ胡散臭くても。
この二人は俺が危険だと分かったら、一も二もなく駆けつけてくれたのだ。
これほど友情を感じる瞬間が、他にあろうか。
「……本当にありがとうな、海法、神達」
俺は涙をこらえて、二人に頭を下げた。
「何度も言わなくていい」
「そーだぜー。困ったときに助け合うのが友達じゃん?」
当たり前のように、胸を打つ言葉をかけてくれる。……俺、友人に恵まれているな。
「それにしても」海法は照れ隠しなのか、バリバリと頭を掻いて言った。「あのメールは誰が送ってくれたんだろうな? つーか、そいつはどうやって初がやばいことを知ったんだ?」
「あ、それについては心当たりがある」
しれっと答えると、二人は驚いたように目を剥いた。海法はともかく、神達がリアクションをとってくれるとは珍しい。思わず苦笑いが漏れた。
俺を裏通りに呼び出したメールは携帯電話に送られてきていた。
それをこっそり盗み見ることができて、バレないようにその後の様子も伺えて、危険だと判断したらすぐさま応援を呼べる。
それも送り主不明で、胡散臭い内容のメールときたもんだ。
そんな芸当が可能で、かつ俺の身を案じてくれそうな奴なんて、知っている限りでは、だった一人しか思い浮かばない。
「え! マジかよ初! 誰!? 誰なん!?」
身を乗り出して訊いてくる海法に、俺は努めて余裕たっぷりに言ってやった。
「可愛い可愛い、俺の天使様だよ」




