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三章 その三

「私、信じられないんだよね。心春が援交していたなんてさ」

 部室に到着して開口一番、真田さんは言い放った。

「俺もです」彼女の言葉に大きく同意した。「部長がそんなことするなんて、思えません」

「でも、実際にはしていたわけでしょ? それがバレたから、心春、首吊ったんだろうし」

 自殺未遂のことも知っているのか。そこまで知っているなら話は早い。

「真田さんは、何か部長から話を聞いていたり、相談されたことってないですか?」

 彼女は少しだけ考える素振りを見せたが、すぐに「ないね」と歯切れよく言った。

「うん、ない。全然ない。心春、そういうことを人に相談する子じゃなかったし」

「というと?」

「大変なことがあると、他人には相談しないで、全部自分で抱え込んじゃうってこと」

「ああ……」俺は納得した。確かに部長は、そういう人だった。新聞部でも、活動の進捗が芳しくないときは、誰にも助けを求めず、一人で遅れた作業を終わらせようとするタイプだった。

「大方今回も、一人でテンパって、挙句、無理がたたった。そういう話でしょ?」

「そう、です、ね」真田さんのあまりにさばけた言動に、俺は戸惑いを隠せなかった。

 この人、友達が自殺未遂を起こしたっていうのに、いやに冷静すぎやしないか。むしろ、冷酷と言ってもいい。それとも柔和な外見とは裏腹に、実は毒舌キャラなのだろうか。

 とにかくこの人からは、およそ部長への惻隠の情というものが感じられなかった。

「真田さんと椎野部長は仲が良さそうでしたけれど、昔から付き合いがあったんですか?」

 今すべき質問とは思えなかったが、聞かずにはいられなかった。

 もしかして、二人が友人というのも俺の勝手な思い込みでしかなくて、本当は顔見知り程度の関係だとか。それなら、先の態度にもいくらか納得がいくが。

「んー……。どうだろ。小学生の時からだから付き合いは長いけど、特別、仲良くはないかな」

「そ、そうなんですか」

 なんと。あれでさほど仲良くないのか。一緒にいるところ、結構頻繁に見かけたのに。女子の友情とは分からないものだ。

「ていうか、心春があんまり他人と群れるタイプじゃなかったからね。孤立していたわけじゃないけれど……。うん、距離を保とうとしていた節はあるよ」

 確かに部長は他人のプライベートに踏み込んだりもしなかったし、踏み込まれないように薄い壁を作っている感じもあった。それは部活でも同様だった。俺たちが入学してくるまで一人で新聞部をやっていたのも、もしかしたらそのへんに理由があるのかもしれない。

「それはともかく真田さん」俺は話を戻した。「部長が援助交際をしていたことは、誰も知らなかったんですね?」

「うん」彼女は当たり前のように肯定した。「心春も利口だから、現場を誰かに見られるなんてヘマもしないだろうし。でも、そうすると、あのサイト、どうやって情報を調べたんだろうね。ちょっと怖いかも」

 そう言いながらも、真田さんは平気な顔でお弁当をパクパクと頬張っていた。

 今にも「まぁ、本当はどうでもいいんだけど」と言い出しそうな雰囲気があった。

 美味しそうに昼食を摂る彼女を見て、俺は、言葉にできないやるせなさを感じていた。

 

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