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猫に餌やり

 宗一郎は、2026年、東京の片隅にある公園で白い鳩と戯れていた。鳩にエサをやり、何事かを考え、いや推理している? そんな印象だった。宗一郎は私達の視線に気が付くとこう零す。

「これはこれは、お久し振りです。え? さっき会ったばかりじゃないかって? 実は私は諸々の事情がありまして、あれから三カ月の月日が経っているのです」

 三か月。それは長い。宗一郎が久し振りと言うはずだ。私達がそう思っていると宗一郎は微笑ましげに「サボサンダルのあの娘」、希美の話を切り出してくる。

「如何でしたか? 川崎希美嬢のお話は。彼女の自分の心持ちへの愛。仕事への愛。これもまた男女間の愛情に勝るとも劣らない素晴らしいものです。と……」

 そう言って可笑しそうに宗一郎は笑う。

「2029年には『喪失世代』なるものが出て来るのですね。人間、何事も、いつの時代も、若者を型に嵌めて括りたがる。それは変わらないようです」

 さて、と言って公園を清々しい風に吹かれて、宗一郎は歩き出す。公園の野良猫たちが、宗一郎の人柄を見抜いたように、警戒心もまるでなく、宗一郎に纏わりついていく。宗一郎は野良猫の喉をグルグルと鳴らす。

「人間は動物愛にも恵まれている生き物でしてね。よく動物達に愛される。かくいう私もビーグル犬を飼っていたことがあるのですが、これは話の脱線。やめにしましょう」

 そして宗一郎は腰を降ろし、群れて集まってくる野良猫達と戯れる。その様子はとても楽しげだ。

「なのに人間。その愛を、大切な愛をすっかり忘れてしまうこともあるのですね。仕事に追われ、資本に追われ、今の時代ではよくあることです」

 そう言って宗一郎は、立ち上がると公園をのんびりと散歩していく。

「ご覧ください。世界はこんなにも美しいというのに。それを忘れてしまう人間もいるのです」

 そして宗一郎は、彼の若い頃の魅力を彷彿とさせる、少し艶やかな笑みを浮かべる。それは彼が、決して平坦ではない人生を歩んできた証にも思えた。

「さぁ、次はそんな愛を無くした男の物語でもあります。彼は果たして愛を取り戻すことが出来るのか。はたまた……。ではさらにもう少し未来、2039年の東京へタイムワープしてみましょう」

 宗一郎はタイムマシンに跨る。そして彼はこうも付け足す。

「ご安心ください。次は私も同席します。しっかりとご堪能おあそびください。魅惑あるお話ですよ。存分に楽しみましょう。では!」

 そして激しく光を明滅させ、宗一郎のタイムマシンは公園から、消えた。


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