海辺で日傘
2021年、東京。恭司と武光、そして恵が佇んでいたであろう海辺に、宗一郎は一人立っていた。のんびりと海岸線を見つめて感慨に耽っている。どうやら宗一郎は私達に気が付いたようだ。
「如何でしたか? 今度の『愛の物語』は。恵嬢の光圀への想い、そして級友だった恭司と武光への想いが、甘く仄かに、切実に伝わってくるではありませんか」
そして寂しげに口元に手をあてる。
「恵嬢、ついに光圀こそ助け出すことが出来ませんでしたが、これもまた運命。亡くなった光圀を思いやる恵嬢の気持ち。推し量るに有り余ります」
そして宗一郎は付け加える。
「恵嬢の神秘性は、どこか救済者の趣きさえありましたね。深い愛。まさしく深い愛がそこにはありました」
宗一郎はそう言うと手傘を差して青空を仰ぎ見る。空には海鳥が羽ばたいている。東京オリンピック、カジノ。2014年を生きている私達にはまだちょっとした近未来だ。確かにオリンピックの好況後、カジノも出来た東京ではああいう話もあるかもしれない。そう考えを私達が巡らせていると、愉快気に宗一郎は人差し指を立てる。
「さて、少し東京の、そして、未来の悲しくも美しい物語を見た所で、もっと明るくファンタジックなお話でもご覧になりたくありませんか」
宗一郎はそう言いながら、スマホ、のようなものをいじって誰かと連絡を取り合っている。私事が、それとも仕事だろうか。そんな私達の思いをよそに、淡々と楽しそうに宗一郎は語り掛けてくる。
「これもまた少し先、未来の話になりますが、戯れに覗いてみるのもいいでしょう。人の愛情、『愛のカタチ』と言うもの、何も男女間の機微に限ったものではございません」
そして宗一郎はまたもタイムマシンに跨る。
「仕事への愛、自分の内面世界への愛。趣味への愛。色々とあるものです。次はそんな自分の心の内に愛を向ける若い女性の物語です。楽しんで頂ければなによりです」
そう口にして宗一郎はエンジンをかけ、タイムマシンを走らせる。最後に宗一郎がこう零したようにも私達には思えた。
「私も色々と所用がございまして、今度の話には同席出来ませんがお許しを。何。一度語り部のオズマから伝え聞いた話。物語の想い出を共有するのに支障はないでしょう。それでは!」




