教会に白い鳩
海辺の近くに建つ白い教会の前に、宗一郎は佇んでいる。教会の屋根から白い鳩が飛び立っていく。宗一郎は、シルクハットを軽く脱ぐと鳩に別れを告げる。
宗一郎はゆったりとした足取りで海辺の道路を歩く。道路には車の行き交いはほとんどない。青く澄みきった海が、光を乱反射させる。カモメが遠くで羽ばたいている。とても美しく詩的な光景だ。宗一郎は今しがた語られた物語について話をする。
「きっかけとは不思議なものです。それがどんなに些細なものであっても。それは木田君のように豊かな収穫を生むこともあれば、また大きな火種となり、破滅を生む場合もある」
宗一郎は一度、極短い間、眼鏡を掛けると済んだ瞳で遠くを見つめる。彼は近眼なのだろうか。それとも遠くの景色を拡大することの出来る未来のテクノロジーか何かだろうか。そう私達が考えていると、宗一郎は少し険しい表情を見せる。
「次に語られる物語は、戦後の日本が舞台です。いえ、戦後と言っても、あなた方にとっては未来の戦後です」
一転、宗一郎は涼しげな表情を見せる。タイムマシーンで過去・現在・未来を行き来する宗一郎にとっては戦争の惨禍、悲劇など、瞬く間の一瞬の出来事、ケアレスミスに過ぎないのか。そんな私達の想いをよそに宗一郎は腕を後ろに組む。
「戦争。いつになっても人は闘うのをやめない生き物なのでしょうか。丁度、今話したように『きっかけ』さえあれば容易く銃を取るのか」
そして宗一郎は掛けていた眼鏡を懐に仕舞う。彼は平和主義者なのか、それとも世捨て人を彷彿とさせる、単なる歴史の傍観者なのか。私達が宗一郎の軸を見極められないでいると彼は語る。
「戦争は全てを奪います。愛、財産、命、時間。有意義に使うべき全てを。これが長い間、歴史を旅して手に入れた私の達観です」
宗一郎は道路を走り去っていく一台のワゴン車を見送る。ワゴン車の中では若者達が楽しげに談笑しあっている。
「その物語では戦争で全てを、言葉でさえ奪われた少年が出てきます。彼は果たして『出口』を見つけることが出来るのか。はたまた……」
そう言ってふと思い出したように宗一郎は付け加える。一際強い風が吹いて宗一郎はシルクハットを右手で抑える。
「あぁ、それと私の用事もありましたね。残念。昭和後期では彼を、あの男を捕えることは出来ませんでした。彼は逃げ場を千年後の東京に求めたようです」
そして宗一郎は妖しげに口元に笑みを浮かべて、路傍に停めてあったタイムマシンに乗り込む。
「大丈夫。須らく私の思い通りになるでしょう。それではいざ1000年後の東京へ!」
そしてタイムマシンは光を激しく明滅させると、風と光の中へと、消えた。




