ロマンティックに火力発電所
7070年。ここは……どこだろう。白い外観の建物。その前に宗一郎はぽつりと立っている。彼は私達にまたしても気が付いたようだ。
「あぁ、この建物ですか。この建物は火力発電所です。この時代では、新しいエネルギー源が既に確保されていますが、それをあなた方にお見せするわけにはいきません。まだまだミステリーがあった方が人生は楽しいものなのですから」
そう気取った物言いをして宗一郎は手を組み合わせる。
「エネルギーをどう確保するかは人類にとって大きなテーマです。先の物語で出てきた十勝正宗もそのテーマを扱い、大きな成功を収め、そして破綻した」
宗一郎は悲しげに火力発電所を仰ぎ見る。
「その原因が一人の愛する女性と結ばれなかった悲恋から来ているとは、誰が想像出来たでしょう」
宗一郎は発電所を案内するように、建物の外側をぐるりと歩いて行く。
「『ロマンティシズム』。美しい響きです。だが理性と科学が支配する世界ではその存在は、許されなかったのかもしれません」
火力発電所は音も立てずに静かに稼働している。宗一郎はポツリと一粒降った雨を掌で受け取る。
「十勝正宗の子孫、出崎真司、いや時の盗人、西條時人も、そのロマンティシズムの継承者であったのでしょう。彼の信じていた『夢』とはつまり……」
そう言ったきり、宗一郎は口籠ってしまった。西條時人に繋がる、十勝一族の悲劇に想いを馳せていたのだろうか。それとも。あれこれそういうことを私達が考えていると、宗一郎は気を取り直したように晴れやかな笑みを浮かべる。
「それでは次は少し明るい物語を、語り部、『オズマ』に語ってもらいましょう。昭和後期の長閑な物語です。そこには淡くまだ若い『愛』。恋心が存在します。その昭和後期に私の追っている男もしばし逃げ込んだはずです。私とあなた方の需要が一致したわけですね」
そうして宗一郎は火力発電所を出ると、近場に停めてあるタイムマシンに跨る。いつものことだ。彼は楽しそうにエンジンを吹かせる。
「何もかも忘れるのもまた乙なものですよ」
そしてタイムマシンは光の只中へと消えた。




