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電光掲示板に猫

 時代は、2017年だろうか。街の電光掲示板に2017・9・30と表示されているところからすると、どうやらそうらしい。今度は極僅かな時間だけを移動したようだ。私達の心と意識は宗一郎とともに。

 宗一郎は街の電光掲示板の上に乗ってアクビをしている猫を静かに見つめている。猫は注目の的で、人々の手によってスマホの写真に収められていた。まだまだ長閑で平和な東京は変わらない。そんな想いを私達に抱かせる。

 宗一郎は私達の視線に気づくと、振り向いて口を開く。

「あぁ、物語がまた一つ語られましたか。如何でしたか。とても爽やかで突き抜けるような男女の青春物語だったでしょう」

 私達は宗一郎の立て込んでいた用事が終わったのか気になったが、とりあえずは宗一郎の話に耳を傾けることにした。

「兼人君は一度築き上げたプライドを捨て去ることが出来なかったのですね。悲しい事です。だがしかし、それを彩芽ちゃんが解きほぐしてくれた。二人はパズルのピースのようにぴったりと合わさったのです」

 宗一郎はてくてくと街の電光掲示板から離れていく。それを見計らったように掲示板の上の猫もどこかへと立ち去っていった。宗一郎は私達の疑問を知ってか知らずか、それとも構うつもりなど毛頭ないのか、話を訥々と続ける。

「男女がパズルのピースのように合わさることほど幸せなものはありません。お互い足りない所を補い合い、持ちつ持たれつと言う奴です。だがしかし……」

 そう言って宗一郎は顔を曇らせる。

「世の中には組み合わないパズルのピースも数多く存在するのです。悲しい事にね」

 そしてこの時代となっては、最早骨董品と言っていいだろう、古びた電話ボックスの隣に停めたタイムマシンに、宗一郎は乗り込む。

「さて、今度のお話は少し悲劇めいています。災害。それはいつの時代も起こることです。避けられない。悲劇はいつでも、どの時代においても起こる可能性のあるものなのです」

 だが、と一つ前置きして宗一郎は続ける。

「次の物語に出て来る災害は天災ではなく、人災です。しかし大いに情状酌量の余地はあります。情熱ゆえの犯罪です。あなた方の時代の名探偵ヒーロー、シャーロック・ホームズはこう仰ったと言うではありませんか」

 そして宗一郎は六十代とは思えぬ艶めかしい視線を私達に見せる。

「『君はこの犯罪をフランスで起こすべきだったのだ。かの国では情熱ゆえの犯罪には寛大であるから』と」

 ノスタルジックでどこか温かい、宗一郎のその言葉を残してタイムマシンは時空を走り抜けていった。

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