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渋谷でスクランブル

 2013年、渋谷のスクランブル交差点で宗一郎は信号待ちをしていた。彼の口から鷹尾と智美の物語が語られる。

「一番好きな人とは結ばれない。よくあることです。本当の幸せとは何かとふと考えたくもなります」

 そして宗一郎は儚げに、信号が青に変わるのを確かめた。彼はスクランブル交差点をゆっくりと歩き出す。私達に語り掛けるのをやめないままで。

「鷹尾は、智美さんを愛しているからこそ、危うい生活を送る自分から突き放したかった。『自分』というある種の火種から彼女を遠ざけたのです。彼の決断は正しかったのか、はたまた……」

 そう言い終えて、宗一郎は交差点を渡り終えた。空を見上げるとどんより雲が掛かっている。雨粒もポツリポツリと落ちてくる。宗一郎は傘を差すと、自分がなぜ過去に一度舞い戻ったかをそれとなく明かす。

「いえ、私がなぜ20世紀の東京に戻ってきたかと言うと、ある男を追っていたのです。その男は危険な破滅嗜好の持ち主。彼をどうしても止めねばならなかった」

 その男、危険な破滅嗜好の持ち主とやらを、宗一郎は無事止めることが出来たのだろうか。だがそんな私達の疑問も置き去りに宗一郎は直ぐに、次の場所、次の時間。つまり次の物語へと私達を案内する。

「さて空模様もこんな具合です。少し晴れやかな愛のエピソードにでも触れてみましょう。出逢いがあれば別れもある。別れもあれば、出逢いもある。凡庸な響きですが、これ、また疑いのない事実なのです。そんな男女のエピソードにあなた方を案内しましょう」

 そう言い終えると、宗一郎はスクランブル交差点から少し離れた路傍に停めてあるタイムマシンに乗り込んだ。そして彼はこう言葉を残して走り去っていく。

「私は立て込んでいて、次のエピソードにはまたも同席出来ませんが、ご安心を。語り部のオズマからこの話は幾度も耳にしているのです。お話が終わったのち、また想いを共有しましょう」

 次の瞬間、タイムマシンは激しい光の煌めきを残して、消えた。


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