13 イギリス絶対王政の確立
「え、瑞季君今日も来たんだ……?」
「そうかそうか俺が来てくれてそんなに嬉しいか日向ちゃんは……!」
「ちょ、まっストッp…………いたたたたたたたたたぁああ!!」
「そうかそうか、今日も頑張るか。」
「ちょ、瑞季君!今私の脳細胞確実に万単位で死滅してるゥゥゥウウ!!」
イギリス絶対王政の確立
「じゃあ今日はオランダから場所は変わりイギリス絶対王政の確立をザックリやるな。」
「はい閣下……。」
「イギリス絶対王政の確立はテューダー朝の時だ。テューダー朝を創始して星室庁を設置したランカスター家のヘンリ7世。1534年に首長法を定め、英国教会を成立させたヘンリ8世、1559年に統一法を発布し英国教会を確立させたエリザベス1世。この三人が絶対王政の立役者だ。」
「なんか懐かしい人たちだね。」
「へぇ、覚えてたのか、そのお粗末な脳みそで!?」
「本気でびっくりって顔しないでくれる!?私実は豆腐メンタルだからさ!?そして別に覚えてはない!聞いたことあるだけ。」
「胸張るな。まあそれくらいがお前だな……。詳しくは後で復習しとけよ?ヘンリ7世はバラ戦争のところ、ヘンリ8世とエリザベス1世は宗教改革のあたりで触れてたはずだ。」
「あ、あーヘンリ8世はあれか!離婚を反対されてトマス=モアを殺した人か!」
「そうそう、トマス=モアはこのあとちょっとやる予定だが、その前にイギリス絶対王政の特徴な。イギリスの絶対王政には官僚制度と常備軍がほとんど存在しないんだ。」
「……あれ?スペインをやる前に官僚と常備軍が絶対王政の特徴って言わなかった?」
「ああ、16世紀から18世紀のヨーロッパのほとんどが官僚と常備軍を抱えていたんだが、イギリスではそれがほとんどなかった。」
「じゃあイギリスはどうやって治めてたの?」
「官僚と常備軍の代わり、というのは少し違うが、地上地主ののジェントリっていう平民が地方行政を行っていた。このジェントリは平民ながら力があった。もっとも貴族には及ばないがな。そしてこのころのイギリスは絶対王政路線でありながらも議会は断続的には続いていた。」
「微妙に民主的?」
「さあ?どの程度議会の決定が王に届いてたかも定かじゃねェからな。星室庁は王の決定に逆らうものを処刑するためのモノだったし……。まあこれくらいにしてヘンリ8世な。」
「待ってましたヘンリ8世!どちらかといえば待ってるのはトマス=モアだけど!」
「トマス=モアに入れ込む理由が分からねぇ……。ヘンリ8世は1509年に即位、1534年に首長法を定めた。……首長法の説明は必要か?」
「お願いします先生!」
「内容が聞かれることはまずないが、簡単に言うとイギリス国王がイギリス国教会の唯一最高の首長ってことにするもんだ。王=教皇っていう形になるからカノッサの屈辱のグレゴリウス7世とハインリヒ4世の聖職叙任権闘争やアナーニ事件みたいなことは起こりえない。で、もう一つやっておきたいのが非合法でありながらも各地で行われていた第一次囲い込み、エンクロージャー。……中世以降のイギリス代表的産業といえば?」
「ええと、イギリスなら……毛織物?確かフランドル地方から羊毛をもらって毛織物にしてたんだよね?百年戦争の原因の一つ。」
「おおっ!覚えてたか、絶対忘れてると思った。で、まあ中世以降イギリスは羊毛の確保に奔走した。つまり羊毛、羊を飼っていると儲かるわけだ。普通に農民に農地を貸してるよりもな。」
「うわ、農民かわいそうなことになりそうな気がする。」
「ああ、かわいそうなことになった。領主や地主は羊を飼うために農民から農地を取り上げ生垣や塀で囲んだんだ。」
「文字通りの『囲い込み』エンクロージャー……。」
「その所為で多くの農民が土地を失い、浮浪者が増え社会不安が高まった。で、これを批判したのがお前が大好きなトマス=モア。たぶん倫理でもやってるとは思うがトマス=モアの書いた『ユートピア』このユートピアの中でトマス=モアは囲い込みのことを『羊が人を食う』と皮肉った。」
「羊が人を食う…………言いえて妙だね。」
「政府はその社会を不安定にする囲い込みを何とかしようとエンクロージャー禁止の態度をとった。」
「態度を取ったって、なんか他意がありそう……。実質的にはそこまで改善されなかったってこと?」
「ああ、儲かるってわかってることをそう易々とやめられるわけがない。殺人とか窃盗とかと違ってあからさまに法に触れるモンじゃねぇし。ヘンリ8世はこれくらいにして次エリザベス1世な。」
「血のメアリはスルーなの?」
「いや、なかなか衝撃的な名前のせいで覚えてるだろうし、どちらかといえば絶対王政よりも宗教改革のが関わり深いし。とりあえずエリザベス1世だ。」
エリザベス1世
「え、エリザベス1世だけで段落つけるんだ……。」
「エリザベス1世は1558年に即位。イギリス絶対王政の全盛期だ。先に言っておく。エリザベス1世すげぇ。かなり。この人のために一段落つける価値がある。」
「先に宣言しておくほど!?」
「まず即位してしたことは社会不安の静定だ。ヘンリ8世とメアリ1世の時にエンクロージャーやカトリック復活にスペイン皇太子との結婚で国民の不満がすごく高かった。一つ目は宗教。これは宗教改革の時にやったが、なんだったか覚えてるか?」
「統一法!プロテスタント!イギリス国教会の成立!」
「そうそう即位した一年後の1559年に統一法を発布。かなりザックリ言っちまうと『もうこれだから!異議ないね!ないよね!?』ってくらいの勢いだ。」
「わかんないかな。主に瑞季君の振り切れたテンションが。」
「二つ目が経済。1558年物価の安定のためにトーマス・グレシャムっていう財政家が動いた。市場に質のいい貨幣と質の悪い貨幣が流通してると、質のいい貨幣は鋳造されるようになり、必然的に市場に出回るのは質の悪い貨幣……。そうなると市場の物価は狂い始めるんだ。経済学を学ぶならこれも勉強するがこれはグレシャムの法則ってよばれる。まあ世界史的にはここまでガッツリやる必要はないから、この時期、エリザベス1世の下で働いたグレシャムって人がいたってだけ覚えてりゃ上等だ。こんな感じで負債も社会不安も清算したら次、スペイン王フェリペ2世への対抗だ。」
「ええっと……フェリペ2世っていうとカルロス1世の息子でレパントの戦いの時にいて、スペイン絶対王政の最盛期?」
「そう、丁度このときエリザベス1世のときはスペインの最盛期だ。」
「だよね!そんなスペインに楯突いてイギリスは大丈夫なの!?」
「まあイギリスにはなんにせよ表だってスペインと対立する理由がない。さあ丁度このとき、フェリペ2世が王位についてるときに起きた対スペインといえば?」
「オランダの独立!ゴイセン!宗教改革?」
「ああ、イギリスはこの独立運動に便乗した。プロテスタントとしてオランダ独立を支援し、1588年にはスペインの無敵艦隊、アルマダをイギリスのホーキンズドレークの活躍によって撃破。1571年のレパントの海戦以来広い涼会見を牛耳っていたがそれは失墜し、オランダは事実上の独立を果たした。」
「無敵艦隊を撃破て……強……。」
「意識飛ばしかけてんじゃねぇぞ?……さらにエリザベス1世は1600年に東インド会社っていう貿易会社を設立した。これによりアジア全域での貿易独占権を握り、アジア進出・植民地支配の中心をとなった。」
「スペイン勢力とイギリス勢力の反比例図が目に浮かぶよ。」
「おら、目ぇ開けろとりあえずもう終わりだから。アジア以外にも植民地を作った。その一つが1607年に北米ヴァージニア植民地。おい、これでとりあえずイギリス絶対王政確立の三人は済んだ。……今回はいつもに比べて余裕があるからもっともゆっくりやってもいいが、尻たたかねぇとお前は勉強しねぇだろうなぁ……。」
「眠い…………。」
「おい、机で寝るな机で――……。」