9.夏について
※このエッセイは捏造です。
実在の人物・団体・動物・行動・自然現象等には一切関係ありません。
今年も夏がやってきた。
そう、夏。
夏と言えば、七夕、お盆、成人式、盆踊り、夏野菜の収穫。とにかく大忙しだ。
兼業農家である私にとっては、
「月・月・火・水・木・金・金、そして時々休憩」
といった感覚の季節でもある。
大都会の方々にとっては馴染みがないだろうが、私の住むでは、成人式は夏のイベントだ。
なにしろ、1月には、成人式をする余裕は無い。
冬は冬で伝統的な年末年始の行事があるうえに、やるべきことが多すぎて、精も根も尽き果ててしまうのだ。
そう。除雪、大事!
町の女性陣は、大型重機を駆使して道路や屋根雪を除雪。
男性陣はそのお手伝いと、炊き出し。
その間、子供たちは、強制的に家事手伝いをさせられている。もちろん悪戯はご法度である。
ということで、成人式は夏。開催日は8月15日。
とても覚えやすい日付だ。
ハッピーマンデーなどというものは無い。
夏の成人式は今に始まったことではなく、先祖代々、この季節に行われている。
前述した冬だけでなく、春も秋も農作業で大わらわだからだ。
……あれ? ということは、一年中忙しいんじゃ…。いや、考えたら負けだ。
お盆、成人式、七夕、盆踊りは、全て8月のイベントだ。
伝統的行事は全て旧暦で行うから、新暦だと8月の行事となるのだ。
風の噂によると、大都会では、お盆は新暦の7月にするところもあるらしい。本当だろうか。
我が町の8月のイベントの流れは以下の通りである。
【8月1日】
婦人会の幹部のうち武術の達人数名が、山に行って竹を2本切ってくる。
この幹部の中には、私の母と、影の長老(妻の祖母)が含まれている……。
切ってきた竹は、町の小学校の校庭中央に設置される。
竹を山から降ろすのも、校庭に設置するのも、婦人会の仕事。だって、婦人会幹部は重機を使えるからね。
【8月2日~6日】
竹の飾り付け。
2本の竹のうち1本には、馬に見立てた飾りのみ付ける。
もう一方の竹には、色とりどりの飾りと、願い事を書いた短冊を付ける。
短冊は1人当たり5枚まで。
以前、町の長老(妻の祖父)が、竹の枝が折れそうなほどの短冊を括り付け、他の人の短冊を付けるのを邪魔した、という過去があったため。
もちろんこのときは、婦人会・青年会ともに総がかりで、長老を叱った。
【8月7日】
盆初め。
お墓の掃除など、各家庭で色々とお盆の準備をする。
私のような兼業農家の場合、家長(主に妻や母)の命により、この日は有給をとらされる。
会社はもちろん、休むことを快諾してくれる。快諾しない場合は………これ以上は言うまい。
【8月8日~12日】
農作業。
とにかく農作業。それと、会社の仕事。
子供は夏休みの宿題。
【8月13日】
お盆の迎え火。
迎え火として燃やすのは、小学校校庭に設置した竹のうち、馬の飾りのある方。
竹まるごと1本なので、かなり豪勢に燃える。
私は子供のころ、火に近づきすぎて髪の毛を焦がしたことがある。
というか、七夕の竹なのに、七夕用として使われていない。解せぬ。
【8月14~15日】
お盆。
各家庭でご先祖様をお迎えし、お祀りする。
…という名目で、女性陣は酒盛りしているのだが、誰も文句は言わない(言えない)。
【8月15日の夕方】
成人式、盆踊り、お盆の送り火。
暑いので、成人式は平服と決まっている。かつて盛装して参加した若者(若かりし頃の長老)は強制退場させられた。
成人式は小学校の体育館で行う。式自体は30分もせずにすぐ終わる。
式の後は校庭に移動し、盆踊りとお盆の送り火を行う。
これまた非常にに解せぬのだが、お盆の送り火にも七夕の竹を使う。
飾りだけでなく短冊も大量に付いているせいか、迎え火以上にゴウゴウと燃える。燃えすぎな気もする。
この竹が燃え尽きるまで、竹の周りを囲んで、町内全員で盆踊りをする。
【8月16日】
小・中学校の2学期の始業式。
夏休みは短いが、そのぶん冬休みが長い。だって雪国だから(涙)
ふむ。だいたい以上のような流れだな。
でも何か忘れているような……とても重大なことを………。
はっ! あれだ! 新成人(但し女性に限る)による山での狩り!!
恐ろしいことに、婦人会(16歳以上が加入)では、8月1日から14日までの間に、山に分け入って狩りを成し遂げなければ、成人として認められないのだ。
初心者(新成人)だけだと危険だから、影から婦人会幹部がサポートにつくらしいが。
青年会では、こんな恐怖の掟は無いぞ、おい。
うちの婦人会、得体が知れなさすぎるぞ!
恐ろしすぎて思わず、この狩りのことを記憶から抹消しかけていたよ。
でも、歴代の女性新成人のなかで、失敗した者はいないとか聞いたことが、ある。
去年は猪を仕留めてたな。
今年は何になるのだろう。
確か私の妻はシカを、母はツキノワグマを狩ったんだったか………。あな、恐ろしや。
やはり、我が町の御婦人には逆らわないに限るな。
※上記の文章は全て捏造です。