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捏造エッセイ  作者: 里見
7/10

7.留守番について

※このエッセイは捏造です。

 実在の人物・団体・動物・行動・自然現象等には一切関係ありません。



『男子、厨房に入るべからず』


 このような妄言、いったい誰が言い出したのであろうか。正に愚の骨頂である。

 兼業農家の男子たる者、家族を養うために会社勤めし、余暇は全て農作業に費やすのは当然のことながら、皆の健康にも気を配るため掃除・洗濯・料理も一通りこなせねばならない。

 もちろん、ご近所付き合いと精神的安全保障のため、青年会に加入することも重要だ。もしも町内の男女間で諍いが起きた場合、ご婦人側に詫びを入れる際に、青年会の全会員に協力してもらえるのだ。これが青年会に未加入だったら・・・自分1人で立ち向かうなど、考えるだに恐ろしい。


 さて、今現在の私の状況を説明しよう。

 季節は夏。自宅台所のガスコンロの前に立ち、コンロの上の両手鍋を見つめている。より正確に言うならば、その鍋の中の、限りなく黒に近い焦げ茶色の、ゲル化しプツプツ煮え立つ何か、である。

 これは、何だろう。

 さっきトイレに行くためちょっと目を離した間に、いったい何が起きたというのだろう。



 実は昨日から、我が家には男性陣しかいない。私の文武両道な長女(剣道部主将の中学2年生)が所属する剣道部が、団体・個人ともに県大会、地区大会と順調に勝ち進み、とうとう全国大会に出場することになったためだ。

 選手団、部の顧問、コーチ(我が町独自流派の剣道の師匠。いわゆる私の母。師範代は私の妻)、サポーター(婦人会の幹部達)が揃って出陣、じゃなかった、出発していった。レンタルした大型バスに乗って。婦人会メンバーは全員、中型免許と大型二輪免許を取得している。幹部に至っては、大型免許や大型特殊免許まで取得しているため、バスの運転手は手配していない。他にも様々な種類の国家資格保持者がザクザクいるらしく、大型除雪車やクレーンやヘリコプター、更には火薬や劇薬まで取り扱えるとか。

 我が町の婦人会は、何を企んでいるのだろう。

 出発は日の出前、そう、私が目覚める前だった。食卓には『家のことは任せます』と走り書きされたメモだけが残されていた。朝食は影も形もなかった。


 まあ、大会遠征と言えば、我が町の学校の運動部(武道系しかない)にとって毎年の恒例行事。

 この時期、町の男性陣は、確実に留守番ができるよう、予定を入れないようにしてある。勤務先の上司も心得たもので、残業・休日出勤・出張を強制したりはしない。

 以前に某会社で、他地域から転勤してきた管理職職員が、嫌がる部下に休日出勤を厳命したことがあった。この上司はその後、始終何かに、特に女性に怯えるようになり、1ヶ月もしないうちに他の支店に依願転勤していった。あのときは、『心の平和維持活動のため原因を深く追及しない』と青年会緊急会議で決定したのだったな。確か。



 女性陣(母、妻、長女)不在の2日目である現在、我が家には男性が4人いる。

 ちなみに当世帯の男性陣は本来、私、父、長男(小5だ)、の3人である。

 1人多い。

 座敷童でも、数え間違いでもない。片手に満たない人数を数え間違っていたら、私の知能が末期状態ではないか。

 この余分な1名は、我が町の長老である。何を隠そう、我が妻の実の祖父であり、青年会の会長でもある。(※青年会メンバーは、終身現役であることが義務付けられている)

 昨日の朝、私が調理した料理を3人(私、父、長男だ)で食べている時に、

「お腹すいた。御飯ちょうだい」

といきなり押しかけてきて、それからずっと、帰れと言ってもここにいる。

 長老のところは子供も孫もみな独立したので、彼は今、

「新婚気分よ再び!」

とかほざいて、長年連れ添った妻と2人暮らしをしている。その妻は『影の長老』という二つ名を持ち、婦人会の顧問として、婦人会会長(長老夫婦の娘。私の妻の実母)に奥義を伝授している。昨日旅立った一行の中にいるのだ。

 長老も家事はできるのだが、ぼっちが寂しかったらしい。仕方がないので、料理当番に加わることを条件に、滞在を許可した。


 そして冒頭に戻る。


 今日の昼食は私の当番である。真夏こそ熱いカレーがおいしいよね。ということで、夏野菜たっぷりのヘルシーカレーを作っていた。肉を買い忘れたので、代わりに缶詰のシーチ○ン・ノンオイルを入れた。

 カレールウは、甘いものが大好きな長男と自分のために、バ○モントカレー甘口にした。そこに秘密の調味料を加えることで、味に深みを持たせる。うむ、ガラ○マサラは実に素晴らしい調味料だ。

 さっきまでは順調だった。99%完成していた。

 だが、今目の前にあるコレは、なんなのだ。

 ふっ。犯人は分かっている。

 辛口カレー派の長老(封切ったばかりのガラム○サラの瓶と、半分残っていたタバスコの瓶が空になっている)と、極甘カレー派の父(ゴミ箱にミルクチョコレートの包み紙が大量に捨ててある)だ。

 このゲル状の物体は、責任を持って、彼ら2人に完食してもらう。絶対にだ。残すことは許さない。食べなければ、影の長老と、母に告げ口する。これはブラフではない。


 この日の昼、私と長男はレトルトカレー(甘口)を食べた。


※上記の文章は全て捏造です。



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