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捏造エッセイ  作者: 里見
6/10

6.梅の加工について

※このエッセイは捏造です。

 実在の人物・団体・動物・行動・自然現象等には一切関係ありません。


 本格的な梅雨シーズンに入り、例の『変質者が町にやってきた』事件から日もまだ浅い今日この頃、皆様いかがおすごしでしょうか。

 我々地域の男性陣は戦々恐々とした日々を過ごしております。


 私の長女(剣道部主将の中学2年生)は、特にこれといった問題もなくつつがなく通常通り元気である。一昨日、恐る恐る聞いてみたところ、どうやら例の事件については記憶するに値するものでは無いようであった。昨日も隣市にある剣道部が強いと有名な中学校に赴き、練習試合を行ってきたらしい。相手校の剣道部員は男子のみと聞くが、彼らの心が折らていないよう祈るばかりである。


 本日は、この時期にしかできない重要ミッションである、梅の実の加工を家族総出で行っている。

 春の花として有名な梅・桃・桜のうち、某学問の神様が愛でられたことで有名な梅の花であるが、私が地域においては果実のみがクローズアップされている。花道をたしなむ御婦人の間においても同様である。


 梅の実は生のまま食べるとお腹を壊すので(体験者は語る)、必ず加工して食べていただきたい。脱水症状は苦しいの一言につきる。

 皆様が梅の加工品と聞いて思いつく物は色々あるであろうが、我が家では『梅干し』『梅酒』『梅シロップ』『梅サワー』を作っている。

 家族1年分プラス御近所配布用のための分量となると、実質段ボール何箱分になるのかはここでは控えておく。相当な数になるのは推し測っていただきたい。これを各家庭で行うのだから、わが町では総量いったいどれくらいなるのか恐ろしくてあまり深く考えたくない。町内のスーパーの青果コーナーの掻き入れ時である、とだけ言っておこう。

 残念ながらこの地域では気候があわないのか、梅は栽培していない。過去何度か挑戦者が現れたようだが・・・紫蘇(しそ)だけは成功した。


 今、私の家族は皆、無言でひたすら梅の実のヘタの部分を爪楊枝でほじっている。とっても地味な作業であるが、これをするかしないかで出来栄えと食感に差が出るのだ。そう、一般消費者向けの流通に乗る美品と、規格外として特売されるパック詰め品ほどに。

 もう少しでこの作業も終わりそうだ。

 これが終わったら梅の実の洗浄、陰干しとなる。陰干し期間中は、家中に梅のさわやかな香りが漂う。人間にとっては場所をとるだけで特段(つまみ食いしなければ)問題ないが、大切なペットのインコ様にとっては有害であるため、万が一の危険を防止するため期間中は鳥籠内に留まっていただいている。期間明けが恐ろしい。


 陰干しが終わる少し前になると、梅加工用の様々な器具(樽や瓶など)の熱湯洗浄と天日干しを行う。これをアルコール洗浄(洗った後にアルコールでふき取り)で代用する家庭もあるようだが、私の家ではインコ様が間違ってアルコールを舐めることのないように、との配慮で昔ながらの方法をとっている。

 インコ様が私より大切にされていても、目から汗が流れなどしない!


(数日経過)


 加工開始から数日が過ぎた。今日は本勝負の日である。

 男性陣(私、父、小学5年生の長男)は『梅シロップ』『梅サワー』の加工。

 女性人(妻、母、長女)は『梅干し』『梅酒』の加工。

 他地域の方々から見ると奇妙に見えるらしいのだが、この地域においては、男性は下戸(げこ)、女性は酒豪(しゅごう)というのが常識だ。

 私のとぼしい生物学的知見からすると(個人的見解にすぎないのだが)おそらく、人間の遺伝子のうち、性染色体のX遺伝子にアルコール分解酵素の設計図が描かれているのではないかと思われる。性染色体Y遺伝子が加わるとその特性が失われるが、XX(ダブルエックス)染色体の場合は世間で言われるところの『(わく)』とういうレベルに達するのではないだろうか。


 女性に伝わるレシピは一子相伝であるため、詳細は不明である。

 一般的には『梅酒』は、梅1キロ+氷砂糖1キロ+焼酎1リットル、なのだが・・・。

 酒は別に焼酎でなくともよい。ホワイトリカー、泡盛、ブランデー等、各自お好みで良いと思う。アルコール度数が高ければいいのだ。

 但し、度数が高ければ高いほど良いわけではない。間違っても今、私の妻と母が手にしているウォッカ『スピ○タス』を使わないようお願いしたい。ラベルの注意書きに「火気厳禁」と表示してあるアルコールを、私は人間が摂取してよい飲料だとは認めていない。そう思ったとき妻から鋭い視線を受けた。どうして私の考えが分かったのだろう。妻はエスパーかもしれない。

 弁明しておくならば、妻と母は梅酒をロックまたはストレートで飲むため、自家製梅酒の大半は日本酒ベースである。

 そういえば、この時期になると当地酒蔵および近在の酒店の、店頭どころか在庫の酒が品薄になるというウワサがあったようなないような・・・。


 さて、我が家系の男性陣に代々伝わる基本レシピは以下の通りである。

・『梅シロップ』・・・梅1キロ+氷砂糖1キロ+塩ひとつまみ。

・『梅サワー』・・・・梅1キロ+氷砂糖1キロ+果実酢1キロ。

 あくまでも基本なので、ここに個人のアレンジを加える余地はある。去年は三盆糖と蜂蜜を使い、それはそれでおいしかったのだが、大人の経済的事情により通年実施するのは難しい。そこで私は今年、氷砂糖の代わりに、日本最南端の自治体(以降はO県とする)の特産品である黒糖を使おうと考えている。

 O県の真面目なサトウキビ農家(仮にKさんとする)が栽培したサトウキビを、Kさんの幼馴染である加工業者(仮にGさんとする)が黒糖に加工したという逸品である。

 よく知らないが、様々な工程を経て黒糖は白砂糖へ生まれ変わるのであるが、その過程で黒糖本来のミネラル分が雑味として除去されてしまう。この雑味を苦手とする人もいるのであろうが、私は黒糖自体の味がとても好きである。

 Kさんと私の出会いは、ネット通販の店主と客として。

 数年前、地元スーパーで売っている南国果物の値段に納得がいかないため、ネット通販でKさんに完熟パイナップルを注文したのが始まりであった。パイナップルは美味しかった。皮むきとカットを施して食卓に饗したのは私である。

 食後の感想を熱い思いのたぎるままに店主メールアドレス宛てに送信したところ、店主のKさんから照れ交じりの返信をいただいた。それ以来のお付き合いである。今では、我が家の田で収穫した玄米と、Kさん宅で栽培した各種果物や黒糖を、毎年宅配で物々交換する間柄である。いつかKさんの農地と、Gさんの加工工場へ、家族旅行することが私の密かな夢である。


 『梅シロップ』『梅サワー』は普通は氷砂糖が融けて数日で完成と聞くが、私と父は、更に熟成期間として冷暗所(自宅の床下)に1箇月を置いておくことにしている。こうするとコクが出るのだ。長男にはぜひ、この秘伝を受け継いでもらいたい。

 完成したブツは、KさんとGさんにおすそ分けする予定である。

 妻と母からも「いつも果物とゴーヤーありがとう」の気持ちを込めて、『梅干し』『梅酒』も同封する予定である。

 うむ、ゴーヤーチャンプルーは実に美味しい。我が家では健康面を配慮して豚肉の代わりに油揚げ(うす揚げ)を使って調理されている。油揚げはもちろん、地元産の大豆で作られた豆腐が原材料となっている。畑のタンパク質と呼ばれる豆を使った料理とは、さすが第一次産業に従事する女性ならではの気遣いと言える。

 この件についてKさんとメールの遣り取りをしたところ、「ミミガー送ろうか?」とのメッセージが届いたが何故だろうか。


※上記の文章は全て捏造です。


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