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prologue

この話はフィクションです。実際に存在する地名、人名、団体名とは一切関係がありません。尚、作中には残酷な描写が含まれます。お食事中などには、お読みにならないことをお勧めします。この話は、なるべく人間の本質を描こうと思っています。素晴らしいところも、汚ないところも余すことなくお楽しみ下さい。作者は素人ですので、暖かいご支援を頂ければ幸いです。では、お目汚し失礼致します。

人間はこの世界で一番不自然な生き物だと私は思う。何故なら自然界において、本能を理性で抑制する動物は、人間だけなのだから……。


「生命の樹」が枯れている。

しばらく前から、老人はそれに気づいていた。そして待っていた。またその樹に、再び実が生ることを。しかし、待てども待てども、それは枯れたままであった。

老人は、使い込まれたアンバー色の机の上に、おひさま色に焼けた古文書の綴りを広げていた。蔀戸(しとみど)から入り込む微風が、カビの浮いた古文書の端と、老人の真っ白な長い顎鬚(あごひげ)の先を震わせて通り過ぎる。

老人は微かにため息をつき、老眼鏡をそっと机の上に置いた。古文書には、大きな樹を形どった一枚の絵が描かれていた。樹には実が10個、それを繋ぐ22本の線、そして失われた鍵がそこにあった。

失われた鍵とは「楽園の扉を開く鍵」それは神の許しを意味するもの。神の許しを得て楽園に入る為には、知恵の実を食べた咎人(とがびと)の死が必要だった。創造主と悪魔達との論争から幾億年。その不毛な争いは、老人たちを疲れさせるには十分だった。

老人は再び楽園の扉を開こうとしていた。だが、アンヘルは泣き叫んでそれを嫌がった。あまりにも残酷だ、やめてくれと、老人の衣の裾にしがみついて訴えた。

老人は、ロッキングチェアを前後に揺らしながら、パイプを(くゆ)らせた。その灰色の瞳で、きれいな白銀色の髪の少年を映し続けた。


老人はクレーシュにアンヘル以外にも他に11人の子供達を預かっていた。その中でもミロクは東国の友人に預けられた大事な子供で、子供達の中でもズバ抜けて賢かった。優しいアンヘル。賢いミロク。他にも、力の強い子、足の早い子、それぞれいろんな個性のある子供達に囲まれ、老人はこの上なく幸せだった。しかし、その幸せは長くは続かなかった。

甲高い声で、うたた寝から開放された老人は、しばらく感じたことのない不安を感じていた。辺りはすっかり暗くなり、月が大きく出ていた。声がする。中庭から。年老いた身体をゆっくりと椅子から引き剥がして、窓際に身体を寄せると、声が聞こえる。はっきりと。老人は、耳を疑う。目を疑う。聞こえてきたのは、お互いの死を大声で願う子供達の声。死を嫌う、痛みを嫌った、悲鳴。見えるのは、刃物でお互いを刺し合う、大切な大切な子供達。老人は窓を叩いた。その行動に意味はなかったが、なんどもなんども……。アンヘルが隅っこでうずくまって泣いている。ミロクが高台で子供達の殺し合いを見て笑っている。ミロクと目が合う。とても純粋な黒い瞳に老人は恐怖した。老人は自分の過ちを悔いていた。

クレーシュの中庭は子供達の死体で埋まってしまった。そこからはもう無邪気な笑い声は聞こえてこなかった。おもちゃを失ってつまらなさそうなミロクがただ、空を仰いでいた。老人は杖を力強く握りしめた。庭の隅で誰かが咳込む。綺麗な白銀色の髪の毛を自の血で真っ赤に染めたアンヘルだった。死期を悟ったアンヘルが老人に対して、コロシテと言った。老人は矛先の定まらない憤りを感じた。ミロクがトドメを刺してあげないと、可哀想だといった。

気が付くと、老人の杖がミロクを殴打していた。気が付いてからも、何度も何度もそれは行われた。小さな少年の痛みを訴える声を、杖をぶつける音で潰し、許しを懇願する腕を、蹴り潰していた。世界は残酷だった。あんなに愛した子供達が互いに殺し合い、その最後の一人を老人は殺そうと躍起で、死を望むだけの少年は、殺して貰えず、ただ、歪んだ愛を見つめている。

老人は我に返ると、アンヘルを抱きしめ、子供の様に泣き続けた。



気が付くと、辺り一面が血の海だった。

(臭い。死んでる。気持ち悪い。ここはどこ?僕は?)

木造の建物に囲まれた、庭園の様な場所に自分と同年代ぐらいの子供が、11人倒れている。その中心では、見覚えのある老人が、そのうちの一人を抱きしめ、大声で泣いていた。抱かれた少年は、まだ生きている様で、とても苦しそうに咳き込んで、自分の死を望んでいた。僕は、老人に、楽にしてあげて欲しいと懇願した。

老人の目の色が変わった。老人は息を荒げていた。杖を振り上げ、僕の頬を振り抜いた。頬が熱い。僕が状況を飲み込めずにいるにもかかわらず、老人の振るう杖が僕の全身を痛めつけていく。目の前で火花が散っている様な感覚や、肉を打たれる感覚、太腿を杖の先端で突かれ、悶絶した。そうこうしてるうちに僕は、もう立ってることすら出来なくなっていた。

「やめて下さい!」と声を振り絞るが、実際は声を放つ前に口を強打されて声にならなかった。鼻からこぼれ出た血は鉄の味がする。

「おま、え、に、命乞い、する、権利は、ない!」

老人は叫んだ。殺される。このままでは、僕は死ぬ。嫌だ、こんな訳もわからないまま死にたくない。誰か、……助けてくれ。

四つん這いになった僕は、必死で這いずり回ろうと腕を伸ばすと、腕を蹴られ、顔から地面に潰れた。

僕は、死を覚悟し、そこで意識が途切れる。

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