1‐9 魔物
街の外に出没するという魔物、それに俺の力が通用するかどうか。
1度だけ全体強化を使った俺は、常人とは比較にならないほどの力を持っている。
それで通用しないなら、もう1回使わなければならないだろう。
「(試験の最中に強化は、あまり使いたかないからな)」
強化中はどうしても隙が出来る。
試験が決闘方式だとすれば、一瞬の隙が命取りとなってしまうだろう。
あらかじめ必要な分の強化はしておいて損はないだろう。
街から適度に離れてみる。距離にして、2、3km離れた時のことだった。
「(複数の気配あり、人間の気配じゃねーな)」
ここは平地だ。
隠れる場所などないし、絶好の戦闘地帯だ。
それでも、やはり警戒はされるだろう、更に街から離れてみる。その間に、魔物の数とやらを推測計算する。
「(3、4匹ってところか)」
異常に強化された聴覚で呼吸音の数を探った。
後ろを振り向き、街を見る。
既にぼやけかけている、強化した視覚でぼやけているならば、相当だろう。
立ち止まり、襲撃を待つ。
──来た!
“グゲァァァァァァァ!”
複数の魔物の声が重なって聞こえた。
後ろからの襲撃、遅い。
最低限の動きで避け、背後を振り向いた。
「(陸型が3匹、鳥型が1匹か)」
地に足をつけたカエルの変種のような魔物が3匹に、カラスの変種が1匹。
魔物らしい、残虐な格好立ちをしている。
機を待つように待ち構える魔物4匹、どうやら、それなりに頭は働くらしい。
「安心しろよ、ガチンコ勝負、下手な小細工は使わねーよ」
言葉が通じているかは分からない、が。
その言葉を聞いた瞬間に、魔物4匹は奇声を発しながら襲いかかって来た。
“ゴゲェェェェェェェェ!”
「おおおおおオオオオオオオオオ!!」
魔物1匹1匹の動作が遅い、敵が大きい口を開ける前に、ボディに一撃叩き込む。
“ゴェア!?”
奇声を発して倒れた魔物に眼を向ける余地はない。
「まだまだ、物足りねーな!」
続いて、一瞬驚いたように足を浮かせた、もう1匹の陸型魔物に肘で一発、叩き込む。
“ゴォグァ!?”
「残り、2匹!」
強化した足が異常な速度で、もう1匹の魔物に近付いた。
陸型の魔物は俺の姿を見失ったのか、各方向を確認している。
「後ろだよ、バーカ」
声をかけると反射的に大口を開けてきた。
開いた口の中にある、ぬるぬるとした舌を掴む。
“オゴッ!?”
驚異的な握力で、その舌を握りつぶした。
血は飛び散らない、代わりに黒っぽい魔物の液体が飛び散った。
残り1匹、鳥型の魔物。
“クェァァァァァ!”
危険を察知したのか、大空に飛び上がる。
なるほど、空に逃げるっていう手があったな。
「だが、浅い知恵だな」
俺の強化した足腰は常人のそれと比較にはならない。
力を入れ、──跳ぶ!
「オラぁぁぁぁぁぁぁ!!」
“ク、クェ!?”
「相手が、悪、かったなぁぁぁぁぁぁ!!」
驚き空中で動きを停止した魔物の頭部に、最後の一撃を叩き込んだ。
墜落する前に黒い血しぶきを上げて消滅した魔物、俺はそれを確認した。
地に着地し、拳を握りしめた。
「(よし、上出来だ)」
まだまだ俺自身、この力に使い慣れてないせいか、動きに無駄がある。
それと、偶然、この魔物たちが弱かったという可能性も否定はできない。
ふと、魔物が消滅した場所に何かあるのを発見した。
「何だ、こりゃ?」
魔物の死骸、というよりは素材といった方が良いのだろうか。
鳥型の魔物が消滅した地点から落ちて来た素材も含めて、4つある。
こういうのはゲームならば交渉などに使えたりもするはずだろう、全て拾う。
ポケットに入れた素材が、妙にぬるぬるして気持ち悪い。
「後何回か、戦ってから帰るか」
首を左右に動かし、こきこきと音を鳴らす。
──その後、何匹かの魔物と戦ったか忘れたが、苦戦はしなかった。
素材を全てポケットに入れ、街に向かう。
「(さて、留美奈のところに帰るか)」
それなりの戦利品をポケットに入れながら、俺は歩き始めた──。