1‐5 神の子 (行間Ⅰ)
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嬉しかったので、続いて投稿します。
これは、7年前の出来事。
新垣月夜が、異世界に来る前までの話。
とある男の、物語──。
□ ■ □ ■ □
私は、街の中央に居座っていた。
噴水付近にある砂場の中心で戯れる子どもたちを見守る。
微笑ましい限りだ、あの少年、少女には未来がある。
まるで悪意のない純粋無垢な心に、私は心惹かれていた。
だが、それが悲しい。
このような少年少女たちの笑顔を奪う計画を、私は実行しようとしているのだから。
「(さて、始めようか)」
ゆったりとした動きで、子どもたちに接近する。
1人の少年が、私の姿に気が付いた。
「お兄さん、だれ?」
「ただのしがない、革命家さ」
「革命家…?」
「そう、自分の価値観を人に押し付けようとする、悪者だ」
「お兄さんは、悪い人なの?」
少年の言葉に、薄ら笑みを浮かばせた。
「ああ、だから、君たちは、私のようにはならないように生きなさい」
「……」
何を言っているのか分からなさそうに、少年は首を傾げた。
隣で呆然とする少女も、また、その意味は理解できていないのだろう。
「さようなら。次に会う時は、敵同士だ」
少年と少女にそう言い、私はその街の外に向かった。
数刻の時間が過ぎた。
そろそろだ、腕時計を見て、そう呟いた。
瞬間──巨大な爆発が、街中を包み込む。
「始まったか……」
人に被害はない、被害があるのは、その街にある全ての家屋だけだ。
勿論、家の中にいる場合は死ぬこともあるだろう。
それに付随する、食料なども、当然焼き払われてしまうだろう。
騒音が街の外まで流れ込む、悲鳴、喧騒、さまざまな声が重なっていた。
「(行こう……)」
騒然とする街中に、私は入って行った。
外から見ると、分からないものだが、中から見ると、その全てが目に映る。
逃げ惑う人々、そして崩れ落ちる想像以上の家屋。
全てが終わりを迎えた、その空間で、1人の男が避難を始めていた。
ルギッド・アナトール。
この街の町長を務め、そして、この街が腐った元凶。
あらゆるコネを使い、この街の町長の座に居座った老害だ。
「どこに行こうというのですか」
大量の荷物を持ち、避難を始めていたルギッドに語りかける。
「誰だ、キサマは!?」
「お察しを、この騒ぎを起こした者ですよ」
「な、なにぃ!?」
「そう慌てずに、街を見渡して下さい。見ましたか…? これが、あなたの街ですよ」
焼け落ちるその全て、漆黒の黒煙に包まれる空をルギッドは見た。
「……何が目的だ、金か…!? 金なら渡さぬぞ…!」
「ふっ、面白いことを言う。自分の息子と娘の命より、金を優先しますか……」
「なっ……!? あの子たちをどうした!?」
「何もしていませんよ。あなた次第、ですがね」
「ここまで街で騒ぎを起こして、これ以上、何を求める気だ……!」
「救いを、全ての者に、平等の暮らしを」
「な……どういう、ことだ……!?」
その意味を理解できていないルギッドは、先ほどの子どもたちと変わらない。
思えば残酷な話だろう。
街の住民の安全すら確認せず、金目の物を持ち出して逃げる。
息子、娘などより金を優先する。
そして、それ程の財力があるのに、重税で苦しむ人間に分け与えない。
町長としても、親としても、そして人としても、腐り切っている。
「……さて、余興はここまでにしましょう」
「な……!?」
私は懐から取り出した銃を、ルギッドに向けた。
「キ、キサマ……これ以上の暴挙は、神が許さぬぞ……!」
「ご心配には及ばない、神によって私は、この世界に導かれたのですから」
「……すると、キサマは、神の子……!?」
神の子、それは面白い捉え方をしたものだ。
引き金に力を込める。
最後に、ルギッドが言い放った。
「キサマの名は、何だ……!?」
「──“キリスト”。とでも名乗っておきましょうか」
「キリ、スト……?」
「お休みなさい、そして、神の祝福を──」
乾いた発砲音が、街中に響いた。
断末魔をあげて、脳天に穴を開けられたルギッドが倒れ込む。
それを気にする者はいない、大半の住民が避難し切ったその中で、少年と少女はいた。
「パパ、パパ……!」
ただの肉塊に声をかける、少年と少女。
私はルギッドの持っていた荷物に手を伸ばす。
そして、それを持ち去って行った。
最後に、少年がこちらを見たのに気付いた。
ゆったりと、振り向いてやる。
これが、物語の始まりだ。
「また会おう、少年」