1‐4 救い
少女の言葉には何よりも重みがあった、ただ、辻褄は合う。
神様爺が気に入りそうな人生だろう。
何よりこの決定的なまでの常識の無さ、それ等が全て決め手となっている。
思わず、言葉を濁した。
「それは…大変な人生、だったな…」
「……? いつものこと、だよ……?」
いつものこと。
そう、この少女にとってはこれが常識なのだ。
その純粋な瞳からは少女の残酷な過去が表れている。
「お前、ずっとここで暮らすつもりだったのか」
「うん」
「いつから、ここに居た…?」
「んと、3日かな」
「しょ、食事とかは…?」
「これ」
そう言い、少女は木の実のような物をポケットから取り出した。
取りだされた木の実は、紫色、そして毒々しい形をしている。
俺の本能が手を動かす。
「バカっ! そんな見た目危なさそうな物、口にするな!」
「……!」
少女の手から木の実を奪い取る。
危なっかしくて見ていられない。
「返して」
少女が手を差し出して来る。
そもそも言葉は何処で覚えたのだろうか、テレビ辺りから吸収したのか。
残酷だ、俺は今、残酷なことをしている。
人とまともに触れあったことのない少女に、最低な行為を犯している。
少女からすれば、自分のものを取った悪人にしか見えないだろう。
だが、俺はそれでも絶対に返さない。
「返すわけねーだろ!」
「どうして…?」
「死んで欲しくねーからだよ!」
大声で一喝した。
少女は目を丸くしている。
なぜだろう、何故、俺はこの女の子を見捨てられないのだろう。
こいつとは会ったばかりで、何より無視して去ればいいものを、何故。
俺は、こいつに生きて欲しいと願うのだろう。
「……わりーな、怒っちまって…」
俯いた。
こんな小さい女の子に怒鳴った自分に後悔した、嫌な気分だった。
最悪だ…。そう呟いた俺を、少女は見据える。
「だいじょうぶだよ、心配、しないで……」
「そうか……」
少女の慰めの言葉に、俺は決心した。
得意の、虚勢を張る。
「俺が、してやる…お前を、この世界で不自由なしに生きられるように…してやる」
確証などない。
それでも、この少女を元の世界にそのまま帰すわけにもいかない。
そして、このまま放っておいてやるわけにもいかない。
「俺に全て任せろ、俺についてこい…!」
自分勝手な意見だ、少女の言葉すら聞かずに自分の意見だけを押し通そうとする。
いつから、こんなバカな虚勢を張る人間になっちまったんだろうな。
「俺が、お前を救ってやる。だから、ついてこい」
言い切った。
俺のしたいこと、この世界で成さなければいけないこと。
それ等全てを決意して、言い切った。
少女はひたすらに目を丸くしている。
だが、意味は伝わらずとも、少女は俺の手を取った。
「ありがとう」
優しい目で、俺を見つめた。
その後、俺たち2人は森を出た。
そして、強化した視覚で全貌を見回す。
街が見えた、そこで、こいつに普通の暮らしをさせてやろう。
そう思い、俺は少女を連れ歩いた。
異世界で少女を救う、バカげた話だ、だが、まだ俺は知らなかった。
これが、旅の、始まりだということを──。