1‐3 少女
少し予定より遅れましたが、投稿します。
少女は俺を不思議な眼で凝視した。
乱れた黒髪のツインテール、そして幼いその身体、小学生が良い所だろう。
一見、ただの少女だが、所々擦り切れた傷の跡を見ると、何かしていたのだろう。
虫取り…違うな、虫カゴも虫取り網も所有していない。
ならば、何か。
「お前はここで何をしている」
「それは、こっちのセリフ」
「なに…?」
少女から返された言葉は予想し難い物だった。
「ここは、わたしの家」
……?
ここは、わたしの家。というのは本来の現代語で訳せ、ということだな。
つまり、この木々が密集した虫だらけの楽園が、こいつの住居だと。
信用できない。
「ここはお前の土地なのか」
「ちがう」
ほらみろ、やっぱりそうだ。
こいつは人の住居の屋根裏に、不法侵入したホームレスと何ら変わりはない。
「でも、わたしはここにいる」
「あのな……」
一から順に説明する。
人の土地に勝手に入ってはいけないこと。
更にそこに住居を作って暮らしてはいけないこと。
それ等をまとめて懇々と説明する。
「そうだったの…」
納得したように頷き、少女は俺の言葉を理解した。
ただ、問題はこれからだった。
「なら、わたしは何処にいけばいいの…?」
「そりゃ……」
自分の家に帰ればいい、そう言おうと思ったところで口を噤む。
そもそも帰れるなら、このような場所にいる必要はない。
というか、こんな幼い少女が何故、森の中などで暮らしているのか。
迷子、というのはありえる話か、とりあえずは名前から聞いてみよう。
「お前、名前は?」
「留美奈」
「国籍は?」
「日本」
「なるほど、そうかそうか日本か、俺と一緒だな……なに?」
日本、だと。
ちょっと待て、この異世界に連れて来られたのは俺だけじゃないのか。
問いただしてみる。
「おい、お前…どうやって、この世界に来た」
「おじいさんに、つれてこられた」
「そいつはもしかして、ワシは神だ…とか、ほざいている爺のことか」
「うん」
何てことだ。
あの爺、気に入った人間を片っ端から異世界に送りやがっている。
しかもこんな幼い少女まで送り込みやがるとは、何たる外道だ。
初対面の人に殴りかかる奴並に外道だな。
「そうか…そういうことか…」
1人納得する。
だが、神様爺がこの少女を異世界に連れて来た理由は何なのか。
「(確か…俺の時は、お前の人生はこの世界には、もったいない。という理由だったな)」
過去から要点を引きずりだす。
つまり、神様爺が人を連れて来る理由は、そいつの人生が特別ってことだ。
「えーと、宮下。1つ聞いていいか」
「うん」
「お前、今までどういう風に生きてきた?」
「ただ、ずっと家にいただけ」
ふむ、引きこもり気味の少女だったというわけか。
もしかして、学校で虐めにでもあっていたのかもしれない。
だが、そこまで特別な過去でもないだろう、普通にありふれている話だ。
思案する俺を見て、少女は小声で呟いた。
「そう、ずっと…家にいただけ…」
「…どういうことだ?」
「わたし、外の世界のことはあまりしらない…ずっと、まどから見てただけ。ママとパパ、いつもいなかった」
寂しそうな少女の目、徐々にそれが光を帯びる。
「だから、おじいさんが外に行っていいって言ったから、わたしは、ここに来た」
「……もしかして、お前……」
もしかして、こいつは、生まれてからずっと家に閉じ込められていたのでは──?