1‐11 能力
留美奈が使用した力が、俺の眼に焼きついた。
彼女は、完全に同じ魔法食をその力で再現した。俺には分かる、強化した視覚から見るに、それ等の魔法食は寸分の狂いも無い、俺たちが食したものと完全に同じものだと。
「おじいさんに、この力をもらった」
「どういう力だ、そいつは」
「よくわからないけど、ぶっしつせーせーとか言ってた」
「(“物質生成”だろうな、恐らく)」
力の名前から察するに、物質を作り上げる。という能力なのだろう。
「でも、いちど見たものじゃないと作れないって言われた」
「だから、今日見た魔法食を再現できたのか」
納得の行った説明を貰うことが出来た。
神様爺に呼ばれて来たならば、確かに俺と同様、能力を貰うことが出来たはずだ。
そこに、何の違和感もない“はず”。
「(だが、何かが引っ掛かる……)」
神様爺が俺たち、元の世界からこの世界に連れて来られた人間に能力を与えるという話は疑いようもない、だが、俺は何かを見落としている気がした。
「ねぇ」
「……ん? どうした、留美奈」
「これ、冷たくなるよ」
「あ、ああ、そうだな、冷める前に食っちまうか」
留美奈に急かされ、考えることを一旦止めた俺は食卓に座る。
逆に、留美奈は俺と反対側に座った。
「ん? 俺の隣に座らないでいいのか」
「……?」
「いや、食事をこぼした時の掃除が大変──」
「わたし、そんな子どもじゃない」
「(ついさっきまで、こぼしてたじゃないか!)」
頭の中で1人、虚しいツッコミをするものの留美奈は無視して食事を始めた。
がっつくように食っているせいか、やはりポロポロと食べ物が口から零れている。
「(言わんこっちゃない)」
呆れながらも、俺も食事に手をつけ始めた。後で掃除しよう、そう誓いながら。
食事を終えた後、食卓のまわりを掃除していた。
子どもが出来た時の親の気持ちがよく分かる。
「さてと」
掃除の後、俺は本日、学びとった全ての出来事を頭の中で纏めていた。
留美奈の話から出て来た違和感を思案する。
「(果たして、この異世界に俺と留美奈のような能力を持った人間はどれ程いるのか)」
俺と留美奈がこの世界に連れて来られた理由は単純明快、気に入られたからだ。
俺の予想では、神様爺の奴は気に入った人間を片っ端からこの世界に送り込んでいる。そして、俺と留美奈同様に能力を分け与えているはず。
「(すると、俺たちのように能力を持っている人間がいるはずだな)」
そして、俺は1人だけ、留美奈以外にこの世界以外から来た人間に心当たりがある。
「(キリスト。多分だが、奴も俺たちと同じ世界から来た人間だ)」
キリストというのは、こちらの世界では神の子という定義がある。これほどに有名な人間、元の世界ならば知らぬ人間はいないだろう。
「(まぁ、ただ単に、そういう名前の人間がいることも否定はできないが……)」
結果的に、キリストがどちら側の人間かを確かめる術はない。
ただ、不可解な情報がある。キリストが殺人鬼、という話だ。
「(もしも、これが本当なら、同じ世界の人間とて関わりは避けたい)」
だが、俺が見るからには、礼儀の正しい好青年だ。殺人をする人間とは思えない。
「(……分からんな、まだまだ情報が少なすぎる)」
とりあえずは、明日行われる用心棒試験とやらで用心棒としての資格を勝ち取るところから始めねばなるまい。としたら、明日のため、早めに寝ることにしよう。
「留美奈、電気消すぞ」
「うん」
カチッ、という音を立ててスイッチを押し、電気を消した。
布団は1つしかない。
つまり、2人で1つの布団を分け合うことになる。
「せまいか?」
「だいじょうぶ」
「そうか」
声をかけ、留美奈の睡眠を確認すると、俺も寝入ることにした。