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本心

 そこはとても温かくて、安心できる場所だった。だけど俺はそこにしがみつけなかった。手を離してしまった。


 俺は、生まれる前に、死んでしまった。


 母親の所為でもなかった。父親の所為でもなかった。誰の所為でも、なかった。



 気が付いたら俺は天使と呼ばれる存在になっていて、アズウェルという名前をもらった。そして、神様にこう言われた。

『自ら命を断とうしている者を、救いなさい。それが、お前の仕事だ』

 俺は必死に仕事をした。薬をたくさん飲んでいる人を、手首を切っている人を、首を吊ろうとしている人を、電車に飛び込もうとしている人を、飛び降りようとしている人を、必死になって救おうとした。その人たちを救うために、死神と戦うことも多かった。

 救えた時もあるし、救えなかった時もある。


 だけど、救えたらそれで終わりじゃなかった。救えた人の大半は、また同じことを繰り返した。その人たちは、死にたいと言い続けた。そしてまた薬をたくさん飲んでいる人を、また手首を切っている人を、また首を吊ろうとしている人を、また電車に飛び込もうとしている人を、また飛び降りようとしている人を、俺は必死になって助けようとした。


 何度も、何度も、繰り返した。


 悲しかった。自分が生きたかった世界を、自ら手放す人たちを見るのが。

 

 虚しかった。



 なんで神様は俺にこんなことさせるんだろう。俺がどんな気持ちで、仕事をしなければならないと思ってるんだろう。きっとあの人は、何も思っていない。神様は何も分かっていない。


 大嫌いだ。神様も。仕事も。なにもかも。


 俺は仕事をしなくなった。神様に歯向かうようになった。



 俺は仕事をサボって、毎日のように彼女のことを見ていた。部屋に引きこもる彼女を。夜になったら屋上に行って、一人で泣いている彼女を。消えてしまいたい、と思っている彼女を。

俺は毎日毎日、彼女のことを見ていた。


 だって、彼女は、


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