彼女
シャワー付きのネットカフェで夜を過ごし、朝から夕方は公園のベンチに座るという生活を繰り返した。メシは、その日によって弁当やらおにぎりやらサンドイッチやらいろいろ食べてみたが、やはりメロンパンが一番うまいと思った。特に、サクサクしてるメロンパンが好みだった。
ルキは、夜になるといなくなり、朝になると戻ってきた。おそらく、狩りに行ってるんだろうと思う。そのことについては、ルキは何も言わなかった。
『この公園が好きなんですか?』
いつもの公園でメロンパンを食べていると、ルキが不思議そうに訊いてきた。まあ、毎日毎日同じ公園で過ごす人間も変わってるかもしれない。
「まあな」
俺はメロンパンの端っこの、一番サクサクしてる部分を味わいながら言った。目の前のマンションを見上げる。今日も、その部屋のカーテンは閉まったままだ。
彼女はきっと今日も、薄暗い部屋で一日を過ごすのだろう。何もかもに絶望して、何もかもを拒絶して。
今なら、彼女と話せる。今なら人間になったから、俺の言葉は彼女に伝わる。だけど会って、何を話すんだろう。何を言えるんだろう。
俺はその部屋のカーテンを見つめ続けた。
晩飯を買って外に出ると、ルキの姿がなかった。外で待ってると言ったはずなのに。たまにあることなので、今更気にしない。俺はそのままネットカフェに向かおうとして、足をとめた。
彼女はきっと今頃、マンションの屋上にいるはずだ。
「…。」
俺は踵を返し、もう一度コンビニに戻った。さっき買ったはずのお気に入りのメロンパンと、ミルクティーを買う。
焦りのせいか緊張のせいか、手が震えてメロンパンを落としかけた。
…会いに行こう。彼女に。
きっと俺は何もできない。だけど、話してみたかった。