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 死神の仕事は、人の命を奪うことだ。死神の大鎌で切られた人間は死ぬ。ただし死神の鎌は、人間の身体を切るわけではない。その命を、切るのだ。死神に切られた人間は病気やら事故やら、あるいは自殺して死ぬ。

 ただし死神の鎌は、天使や死神に対しては普通の鎌として機能する。つまり、天使が死神の鎌に切られた場合は、身体が切れる。これが結構痛い。天使だって、血は出る。神サマに血が流れているのかは知らないが。


「…もしかしてお前、人の命を奪えない優しい死神だとかそんなのか?」

 これはあり得ると思った。こいつ、死神にしてはフニャフニャしてるし、『殺すなんて、そんなかわいそうなこと出来ません』とか言い出しそうだ。ところが俺の予想に反して、

『いいえ。仕事はやります』

 という答えが返ってきた。

「だったらなんで追放されたんだ?」

 ますます分からない。仕事もする真面目な死神を追放する理由なんてないはずだ。

『…自分でも、よく分からないんです』

 死神は、空を仰ぎながら言った。その向こうにある、俺たちがいた「上の世界」を見るかのように。

『なんで追放されたのか、ボクには分からないんです。だからボクは、最低なんです』

 死神は悲しそうに少しだけ、笑った。

 

 暖かい日差しと、少しだけ涼しい風。おそらく季節は春なんだろう。俺は何年も前から、この公園を上の世界から見ていた。相変わらず、人気のない公園だ。

 隣の死神を見る。自分は最低だと言ったきり、死神は何も話さなくなった。下を向いて、暗い顔をしている。よっぽど思い出したくないことでもあるのかもしれない。


 同じように、いつも下を向いている人間を俺は知っていた。


 俺は顔をあげて、公園の目の前にあるマンションの一角を見た。今はカーテンの閉まっているその部屋に、「彼女」はまだいるのだろうか。忘れたいことばかり思い出して、囚われて。

「…お前、名前は?」

 俺が急に声を出したので、死神は一瞬驚いてから、こちらを見た。

『え?』

 死神の目を見ながら、ぶっきらぼうに言う。

「死神にもあるんだろ?名前」

 それを聞いた死神は、一瞬目を丸くした。そして慌てながら、

『ル…ルキです。ルキ』

 その声はかすかに震えていた。

「…アズウェル」

『え?』

「俺の、名前」

 それを聞いたルキの顔が、少しだけ赤くなった。何故か、嬉しそうだ。

『ア、アズウェルさん!!アズウェルさん!』

 早口言葉のように繰り返すルキに、思わず笑ってしまった。

「さん、はいらない。アズウェルでいい」

 そう言うと、ルキの顔が真っ赤になった。

「どした?」

『あの…』

 照れたような、困惑しているようなルキ。

『よ…呼び捨てとか…したことなくて…』

 友達いなかったから、と小さく付け加えるルキを見て、俺はまた「彼女」のことを思い出していた。

「…早く慣れろ。俺は、さん付けされるの嫌いだ」

 俺は何もないところを見ながら言った。何故か、自分も照れていた。



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