公園
「はあー、はあー、うえっ」
気付けば、見知った小さな公園にたどりついていた。しまったと思いつつ、ベンチに腰かける。走るのももう限界だった。
ついてきていた黒マントは息切れも何もしていない。とにかく嬉しそうな顔で、俺の方を見ている。その姿を見て、俺はため息をついた。
「くっそ…。翼さえありゃ、お前なんて簡単に振り切れるのに」
「あの、どうしてあなたにはボクのことが見えてるんですか?」
その言葉を聞いて、ハッとした。そうか。こいつの姿は、普通の人間には見えないんだった。変なところで天使の力が残ってしまっている。本当にあの神サマは何考えてんだ、と思う。
「…嘘つくのもめんどいな」
俺は、俺が元天使であることなんかを、かいつまんでそいつに話した。
『ええええ!!あなた、そんな顔で天使なんですか!?』
俺の話を聞いたそいつの一言目は、これだ。まあそう思われるのも無理はないが、
「お前それ、すっげー失礼だぞ。顔で決めんなよ」
俺の言葉を聞いているのかいないのか、そいつは目を輝かせながら弾んだ声で言った。
『ボク、天使を見るのは初めてです!!』
「…俺は、おまえら死神と何回も戦ったことあるんだけどな」
ぼやいた俺の方を、信じられないような顔でそいつは見てくる。まるでツチノコでも発見したような顔だ。まあ、ツチノコを発見した人の顔なんて、見たことないけど。
『あなたは強い天使だったんですか?』
「強いっていうか、…仕事の関係上、戦うことが多かっただけ。こう見えても、昔はまじめに仕事してたこともあったんだよ」
「へえー…」
これ以上仕事の話を続けたくなかったので、俺は話題を変えることにした。
「ところでお前、なんでここにいるの?狩りか?」
死神は人の命を狩るときだけ、人間界に堕りてくる。となると、今こいつがいるのも狩りをするためなのだろう。
これ以上死神なんかに憑きまとわれたらたまらない。そう思って
「さっさと人間狩って、死神界に帰れよ」
と言った後、ハッとした。慌てて付け加える。
「だけど俺はやめとけ。人間だけど人間じゃないからな」
そう言いながら笑う俺に、そいつはもじもじしながら小さな声で言った。
「あの…ボク……追放、されたんです。…死神界」
「…はあ!?」
俺は思わず大きな声を出してから、あたりを見回す。幸い、誰もいなかった。
「だけどお前、死神の格好してるじゃないか」
俺はそいつを指さしながら言う。
「その変な黒い服、それからその大鎌!!宙に浮いてる足!!普通の人間にはその姿が見えてないみたいだし、お前は死神だろ?」
そいつは自分の服装や足元をおどおどと見て、それから笑った。
『死神のまま、人間界に追放されたんですよ』
格差社会。俺の頭に、そんな単語がよぎった。天使の世界では、追放される=人間になるなのに、死神界ではただ追放されるだけらしい。なんということだ。俺も死神に生まれときゃよかった。…それにしても、
「なんで追放されたんだ?」
『え?』
「お前はまじめそーじゃん。俺とは違ってさ」
俺は超まじめ天使のフェインのことを思い出しながら言った。この死神はどこからどう見ても真面目そうだった。俺に対しても敬語を使ってくるくらいなのに、何故追い出されたのだろう。