対決
飛ぶのは久しぶりだったが、案外身体はちゃんと飛び方を覚えていた。俺はひなを残して、一直線に屋上へと飛んだ。
屋上には、まだルキがいた。コウモリのような漆黒の翼。フードをかぶっているせいで、その顔はよく見えない。
「…今、その鎌に切られたらかなり痛いんだろうな」
俺は一人で呟いて、笑った。ひなには俺の姿が見えていたが、俺はもう天使に戻っている。だとしたらあの鎌で切られるのは命ではなくて、身体だ。
『コ…ロ……ス…』
ルキがこちらを見て、口を大きく開けて笑った。
「そんな顔、ルキには似合わねえよ」
そう言って笑うと、俺はルキの方へと素早く飛んだ。攻撃するべき部分は分かっている。そこだけを狙うつもりだった。
だが、ルキが鎌を振るスピードは予想をはるかに超えていた。
「くっ!!」
よけたつもりだったが脇腹をかすったらしく、服にうっすらと血がにじんだ。
一瞬だけひるんだ俺に、鎌を振り上げたルキが素早く突っ込んでくる。頭を狙われたがギリギリでかわした。と思った瞬間、脚を攻撃される。速い!
「だっ!!」
太ももを少し深めに切られた。鋭い痛み。思わず後退して距離をとった。
「…やっぱ痛いな」
そう言った自分は何故か、笑っていた。
ルキのことを思い出していた。翼を見せてくれと頼んだ時に、『いや、ボクのはかっこよくないですし…。汚いですから』と言って泣きそうな顔で笑ったルキを。
「…ああ、そうだな」
俺は笑った。そして、ルキの方へと突っ込んだ。
ルキが鎌を振ってくる。避けようと構えるが、完璧に避けきろうとは思っていなかった。俺の狙いは鎌を振りおろした後、ほんの一瞬だけ動作が止まるその瞬間。その瞬間を作り出すしかない。そのために、
「くれてやるよ、こんなもん」
その時きっと、俺は笑っていた。
俺の左翼が、切られる音。舞い散る白い羽。
俺の目は、自分のちぎれた翼ではなく、ルキの翼だけを見ていた。自分の翼を切られながらも、ルキの後ろへと回りこむ。そして黒い両翼の根元を、両手で掴んだ。それに反応して、ルキが暴れだそうとする。だけどもう、終わりだ。
「誰かを傷つけるだけの翼なんて、いらない」
俺はルキの翼を、引きちぎった。