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21th 幕引きの交叉

「はあああああああっ!」

「せやああああああっ!」


決着は、一瞬だった。まるで劇画のように、一瞬のみの交叉。

互いに獲物は剣のみ。その一瞬にすべてを込めて、香取は居合を、桐島は上段からの逆袈裟を。

すべてがスローモーションにも思えるその瞬間。互いに振りぬいて、先に倒れたのは……香取、だった。

だがその直後、桐島が血しぶきをあげて倒れた。


「っハア、ハア……か、勝てた、か……」


香取の体には、傷は増えていなかった。相変わらず剣山が立ち上がった風情だが、痛みを頼りに意識を食い止める。先ほど倒れたのは、体の制止が効かなかったからである。


「さあ、次で最後だ……」


自分に言い聞かせ、意識を繋ぐ。そして、最後の一人に向き直った。


「里見君、だっけ。君はどうする? 見逃すことも、できなくはないよ……?」


剣を引いて構える。無理に戦うつもりはない(というか無理)ので、一応尋ねる。

だが、里見は立ち上がった。


「無理無理、敵うわけねえっす。けど、仕事だけはしなくちゃなんないので……」


ポケットから、彼も錠剤を取り出した。ただし、その色は『托卵』と違い真っ黒である。


「『寄生木ヤドリギ』。こいつだけは使わなきゃなんねぇっすよ。そうしたら、俺は逃げるっす」


言うなり、その錠剤を彼は飲んだ。


「……?」


だが、なにも変化が起こらない。すると里見は、負傷した二人を抱えあげた。


「この二人はこっちで預かるっす。どうせ下っ端、『A』と『B』っすから、替えなんていくらでも効くっすけど、こんなでも先輩っすからね。回収も仕事っすよ」


「……待て」


「なんっすか?」


思わず香取は里見を引き止めていた。


「香取さん、そんな様でなにができるっすか。今のあんたはぼろ雑巾っす、『四王』もそんなアンタには興味無くすっすよ?」


何か気になるセリフがあったような気はするが、そんなのはどうだっていい。香取を突き動かすのは、ただひとつの言葉に込められた意思だけだった。


「お前……そいつらが、『替えの効くやつら』だって……?」


そう。香取には一つだけ、なにをどうしても許せないものがあるのだ。


「人の命を、物みたいに扱うんじゃねえよっ!」


命を奪う、またはそれに準ずる行動だ。


「うおおおおおおっ!!」


走る。死にかけのまま、里見に向かって。一方、藤堂と桐島を掴んだ里見も器用にファイティングポーズをとる……ふりをして一目散に逃げ出した。


「待てっ!」


「そのセリフで待つ奴はいないっすよ~!」


異伝子を持つ以上、身体能力は一般人と比較すれば大幅に向上している。しかし、それを考慮してもこの差はなんだ。いや、香取が遅いのだ。傷だらけでまともに走れるわけがない。畜生! と叫んでも、通じるはずもなく。保っていた意識も限界を迎え、膝をついた。最後に聞こえたのは、里見の捨て台詞だった。


「『四王』王丈さんからの伝言っす。『俺の願いが叶うまで、あと五人だ……命と引き換えに命を得られるとしたら、お前はどうする?』。以上っす。……生き残って、くださいっす」


血が流れる。体の芯から力が抜ける。


(……ああ)


そういえば、死って怖いものだったっけ……

そんなことに今更気づきながら、香取の意識は闇に落ちた。



「緊急放送です。外科、内科、呼吸器科の医師並びに治癒能力者は緊急のカンファレンスを行います。至急第三会議室に集合してください。繰り返します……」


化野がその放送を聞いたのは、夕方のことだった。夢見を運んでから、意識の回復を待っていた間のことだ。


(急患……? それにしては大事すぎる気が……)


この病院は、この辺りでは一番の設備と人員を持っている。治療系統の能力を持った医師も当然居れば、それぞれの分野のスペシャリストたちもいるはずだ。その人員にまで集合をかけるとは、いったいどんな急患なのだろうか。


(事件の匂いがする)


職業柄、怪我や能力による被害はよく目にする。それの対処法も。だがしかし、いまだかつてこんな規模の招集が掛かっているのは聞いたこともない。もし、その怪我が人災だった場合……


(十中八九、『四王』が関わってる!)


耳を澄ませば、廊下を走る医師たちの声がする。そのどれもが、困惑を語っていた。

ベッドに横たわる夢見を振り返る。いつものパターンなら、しばらくすれば目を覚ますはずだ。

書置きを念のため残すことにした。もし彼女がいない間に目覚めても、自分がどんな状態にあったのかはわかるだろう。


(継心ちゃん、ごめんね?)


心の中で謝って、化野はかけだした。

……その少し後。眠る夢見の枕元に、人影が立つ。


「約束の履行に来ましたっすよ。夢見さん」


そしてゆっくりと、夢見の目が開いた。



廊下に飛び出した化野は一直線に緊急治療室に向かった。幼いころこの病院にはよく来ていたので、院内の地図は頭の中にある。エレベーターを待つ時間すら惜しい。そう判断した化野は、迷わず階段へ。中央部の地下まで続く吹き抜けに飛び込む。

急患の治療は、大抵一階で行われる。文字通り「一刻も惜しい」からだ。

それをよく知っている化野は、空中で強引に一階の手摺を掴んだ。


「っぐう!」


腕の筋肉が悲鳴をあげる。いくら身体能力が強化されようとも、五階からのフリーフォールの勢いには耐えられない。だが化野は『千変万化』でそれを補ってみせた。痛みをこらえつつも勢いをつけ、踊り場に飛び乗る。傷はおなじように『千変万化』で体を組み替えて治療し、また走り出す。廊下の突き当たり、そこが集中治療室だ。

扉の前にいた医師に身分証明書を見せる。医師はすぐに説明をしてくれた。


「……なるほど。生死に関わる重症、身元は?」


まだです、との返事を聞いて、化野は頷いた。


「容体は?」


「私の『刻限ストップリミット』と応急処置で時間を稼いでいます。カンファレンスは第三会議場で行われています」


「被害者の顔は見られますか?」


「駄目です。全身に刺さった剣が元でショック症状を起こしていますので、今は……」


「ま、待ってください。剣、ですか?」


思わず化野は医師の言葉をさえぎっていた。身近に剣の能力者がいるのだ。最悪の可能性が頭をよぎる。


「は、はい。大小様々な剣が、まるで剣山のように……」


「よ、容姿は?! その患者、もしかして白髪ですか?!」


化野の恐ろしい剣幕にタジタジになりながらも、医師は化野にとって最悪の答えを告げた。


「は、はい。ストレス性の脱色が。傷の様子からして、暴走した可能性が高いかと……」


ふっ、と化野の意識が遠のく。だが、使命感が最後の一線を踏みとどまらせた。頭を振って意識をクリアにし、告げる。


「面会のお願いをします。……もしかすると、知り合いかもしれません」


震える声で、そういってのけた。

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