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20th 狂気の剣宴

長らく間が開きましたが、書き溜め分一気にいきます!

桐島は、自分の中に転写された能力に悲鳴を上げた。


(な、なんだよこれぇっ!)


彼の『盗賊バンディット』は、実際に見て受けた能力の一部分を奪い取る能力だ。奪われた側は少しの間だけ能力が使えなくなる作用もあるため、与えられた名前が『盗賊』。


だが、奪った能力の量がここまで『多い』のは初めてだ。(あくまで個人的な感覚として、だが)しかも、根こそぎにした感触はない。ただでさえ『託卵』で増幅されているのに、それで奪ってもなお底が見えない。


「ど、どうするよ?」


思わず独り言を漏らしてしまうほど、桐島は混乱していた。


その隙に冷静に狂った香取がまた動き出す。

今度は明確な敵意を向けて。そして、狂ってから初めて叫んだ。


「あああぁあああぁ!」


咆哮と共に剣がまた飛ぶ。一本や二本ではない、数十の剣の弾丸。


「くそっ!」


胴体を狙って飛来するそれを、桐島は必死に避ける。

だが、剣は追いかけてきた。器用に向きを変えてくる。

ちくしょう!と悪態をつきながら、桐島は奪った能力で自分の剣を召喚、迎え撃つ。

金属音が連続し、剣どうしが撃ち落とし合う。だが、香取の剣のほうが数が多かった。


「くそっ!」


足りないと見た桐島が腕を突き上げて更に剣を呼んで撃ち落とす、そのわずかな隙に香取は腹に突き立った剣を抜いて捨てた。穴から血があふれ出すが、まったく意にかけず桐島にその手を向ける。

直後、先ほどの数十倍でもきかない数の剣がまるで滝のように召喚された。


「うおおおっ?!」


能力の大半を奪われてなおこの威力。一位とはここまで規格外なものなのか。

というか、香取の出血が明らかに多い。下手を打てば命に関わる量だ。だが、気にもかけていないらしい香取はさらに自らをまるで砲弾のように突撃してきた。


「がああぁああぁあああ!」


常軌を逸した、正気を遺棄した叫び。それはどちらかといえば、荒れ狂う力に振り回されているようで…

…それに変化が起きたのは、すぐあとだった。


「む……?」


香取の動きが、止まった。桐島は神経をさらにとがらせる。この戦い、気を抜くイコール死に直結だからだ。自分の中にある『剣』の力に意識を集中する。表面だけをみれば、ただ剣を呼び使役する能力。

しかし、手に取ればわかる。それの本質はもっと異質なものであると。滅茶苦茶なまでに積もり積もった、『切断』。執念すら感じるほどに募った『歴史』。奪った分だけでも、これだけのことがわかる。

つまりこの能力は、その気になればありとあらゆる時代の名剣名刀魔剣聖剣、大雑把に括れば剣と名のつくすべてを呼び出せるもの、なのだ。……表面を奪ってこれだ。ならば、その根源はいったいなんなのだろうか。

思考が一瞬飛びかけるが、桐島はすぐに引き戻した。どちらにしろ、暴走状態ではまともに能力は使えまい。精神がおかしくなっているため、正常な発動が不可能になるのだ。


(つまり、条件の上では互角!)


桐島はそう判断する。里見は後ろで縮こまっていて頼りにならないし、藤堂は虫の息だ。あまり時間はかけていられない。ならばすることはひとつ。『盗賊』の効力が切れる前に香取を殺し、自分たちはアルファベットの内部での更なる地位を獲得する。それだけだ。


「今こそっ!」


千載一遇のチャンス。そう判断して桐島は一息に接近した。どれだけ規格外であろうとも結局は物理攻撃、接近して当てたほうがダメージは大きいはずだ。だが、今回はさらに一工夫。


「食らえっ!」


直接に殴る。香取は微動だにしないまま穴の開いた腹部に受けて、きれいに放物線を描いて飛ぶ。

その最中、香取がまるで袈裟斬りにされたかのような派手な傷を負った。


「いよしっ!」


成功の結果に桐島は思わず拳を握った。

打撃に斬撃を乗せ、当てた少し後に発動させる。こうすれば相手は一度に二回の攻撃を受けることになる。当てるまでが厄介だがそこは元々「盗賊」は一度その能力を受けなければならない条件がある。だから多少のダメージはこらえられるように鍛えてきた体が役に立った。


「ぐうっ!」


香取が苦悶の声を上げながら起きあがった。

ふらついて焦点を結んでいるかも怪しいが、その目には、わずかに正気が垣間見える。だが、体の制御権はまだ狂気が握っているらしい。血を流しながらも腕を前へ突き出す。呼び出されたのは、創作のなかで斬艦刀と呼ばれるあまりにも巨大な剣。


「消、エろオッ!」


振り落す。とっさに避けようにも、巨大さ故に逃げ場がない。


「うおああああああああっ!」


桐島は、死を覚悟する。残念ながら走馬灯はないが、かわりに剣が作った影が視界を黒く染めていき……

紙一枚の隙間を残して、止まった。


「……へ?……」


落下のかわりに始まったのは、香取の凄絶な自傷の光景だった。

ズム、周囲に腹に響く音が鳴る。

香取が自分の腕に、剣を突き立てていた。だが、それだけでは終わらない。

手に。指に。肩に。胸に。もちろん反対側にも同じように順番に。

足に。膝に。脛に。腿に。苦痛で意識を保とうとするかのように。

桐島は絶句して見ている他無かった。明らかに死のうとしているようにみえる。

その間にも、香取に刺さる剣は止まらず……

藤堂と同じ、いやそれよりひどい状態となっていった。そして、顔以外ほとんどがズタボロになったころ。


「が、くぅ……」


まるで断末魔のような苦悶を残して、香取はその場に倒れた。地面を打った衝撃で刺さった剣が動いたのか、電気を流された死体のように痙攣する。


「……え?」


死んだ。そう思った。だが、彼は立ち上がる。もはや死体同然だが、それでも。


「は、はは、か、感謝するよ。はあ、っく! やっと、正気に戻れた……」


さあ、と一声おいて、彼は両手指を揃えた。


「続けようか。言っておくけど、今までが本気と思わないでよ?」


「……上等……!」


剣を呼び出しその手に握り、桐島は駆ける。香取も剣を呼び、腰だめにしてなけなしの体力を振り絞って猛然と踏み込む。

最後はシンプルに。決着は一騎討ちとなった。

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