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12th 異常者の戦い

「あれは…フェンシング…だな……」


守屋の『重層歩兵軍ファランクス』の外側で香取と王丈の戦いを観戦していた河合が、呟いた。


「な、なんだそれ?」


聞き付けた田中が尋ねる。応えたのは自身の能力『接続する世界史アクセスアカシック』を発動している谷原だった。


「河合の言うように、あれはフェンシングの技だな。しかも相当に難しい。普通相当な実力差が無ければ決まるはずのない、な」


しかも、と谷原は続ける。


「あれは本来、フェンシング専用のしなる細剣でなければできない技だ。それをただの刀であいつはやってのけた……異常と言っていい」


ふう、と谷原がため息をつく。彼の能力は長く発動はできないのだ。と、そこに。


「谷原。君の目で見て、彼はどうだ?」


守屋がやってくる。


「……正直、分かりません。あいまい過ぎます」


「曖昧、だとは?」


「なんていうか…… イメージだけ見えるんです。いつもならもっと具体的なものが見えるはずなんですけど……」


「じゃあ谷原、何が見えるんだ?」


田中が尋ねる。


「『剣』。ただ、なんていうか……変なんだ。剣、なんだけど、形がわからない、みたいな……」


「つまり…『剣』という…概念そのもの…ということか…?」


河合が呟く。


「ふむ。やはり実際に見なければわからないか」


守屋は自らの能力で作り上げた籠の中に意識を向ける。壱位の全力には彼は対抗しきれないからだ。リアルタイムで壁を調整しなければ他の生徒にまで被害が及ぶかもしれない。


「さて、香取はどうなのか……」


守屋は、香取に期待している。既に壱位である化野とは良好な関係を保ち、なおかつ今、もう一人の壱位である王丈を圧倒して見せた。

バランサー、あるいは抑止力にすらなる可能性があるのだ。


「さて……」


王丈は自分の剣を呼び戻した。香取も半身になって刀を構える。


第二ラウンドが始まった。




「なんだってんだテメェ、急にやる気になりやがって!」


香取は刀を鞘に納めながら、口を開いた。


「僕にはね、どうしても許せないものがあるんだ」


身体を螺旋に捻り込んでいく。


「それはね、人の命を脅かす事。他の何をしてもされても、僕は能力を使わない。でも、それだけは許せないよ……」


そして、告げた。


「いまから四つ、技を見せよう。それだけで君を倒す」


更に捩じりあげ、それが頂点に達したその瞬間。


「一之剣『太刀風』!」


捻りを一気に解き放った。足首、膝、腰、肩、肘、手首、それらが全て連動する。しかもそれが、異伝子で強化されている体だったならば。


「おおおおおおっっ!」


捻りが全て遠心力に変換される。その速度の最高点にさらに速度を叩き込むように鞘をレールに刀を振り抜いた。


その結果、剣先が音速を突破し衝撃波を飛ばす。


「う、おおおっ!」


距離を無視した攻撃に、王丈は果敢にも抵抗した。


「光よ!」


剣を掲げ、叫ぶ。すると、辺りが暗くなる。いや、違う。


(王丈の剣が、輝いて……!)


そして、その輝きがまるでブースターのように剣の背から噴き出した。


「せ、やああっ!」


そして、文字通り輝く剣が衝撃波を叩き割った。無形の空気の斬撃を。


おおお! と外部から驚きの声が上がる。香取と王丈、両方にだ。


「ヘッ! どうだ?!」


王丈が挑発の言葉を投げる。だが、香取は全く聞いていなかった。


振り抜いた姿勢のまま全身を脱力させ、まるで倒れ込むように体を低くする。そして、


「二之剣、『残月』!」


脱力から一転、そのまま地面を這うかのように疾駆する。


「やらせるかよっ!」


王丈はさらに剣を輝かせる。蛍光灯程度だった輝きが、さらに増す。もはや、眩しさに直視できないほどだ。


「食らえっ!」


そのまま迎え撃つように振り下ろす。


「……甘い」


だが、香取はそれを読んでいた。鞘をつっかえ棒のように横に突き、スピードを落とさないまま僅かに右側にそれる。

そのまま、伸び上がるように下から斬撃を放った。横から見れば三日月のような弧を描き、王丈の腕を切断しかねない勢いで迫る。


「あああっ!」


だが王丈もまけじと剣から光を噴き出して右腕の向きを強引に左に変更した。両腕が左に流れる。


「囲め、短剣を十三」


そのガラ空きになった胴を、香取の呼び出した短剣が囲んだ。


「しまっ!」


王丈は慌てて剣を一度手放し、今度は左手に再度呼び戻した。そのまま光を吐き出させ、その威力だけで短剣の幾つかをはたき落としてのける。

だが、そこに香取は告げた。


「三之剣『狂咲くるいざき』……突き立てろ!」


残存する短剣が全て、突撃した後反り返るように斬り上る。


「痛っ!」


胴を斬りつけて血飛沫を飛ばす姿は、季節外れの彼岸花。


「クソがっ!」


王丈は叫ぶ。輝きがはぜて、短剣が四方に吹っ飛んだ。


「はぁ、はぁ……」


だが、それは相当な負担だった。王丈の息が荒くなる。


「ギブアップするか? まだ最後の技が残ってるが」


そう言う香取も、大分疲労が見えている。剣先はもう、下がりがちになっていた。


「ハッ! 冗談だろ。それより、やっとテメェの能力がわかったぜ!」


「ほう……?」


守屋が呟く。外からでは、『剣を呼び出す』までしか分からなかったのだ。


「テメェの能力、それは『剣』の名前を『言う』ことで『顕現』させる能力だ! そうだろ!」


王丈の推測を香取は頷いて肯定する。


「表面上だけならそれで正解だ。ただ、本質は全く違うけどね。…… 表面上とはいえ、当てて見せたことを称賛するよ。ご褒美って訳じゃないけど、一回だけ本気を見せてあげる」


そう言った。


「今までが全力じゃねぇってか?! いいねいいね、じゃあこっちも全力出してやろうじゃねぇの!」


王丈の剣が、持ち主の意志に応えるように更に輝く。辺りから光を奪うように増していくそれは、間違いなく光輝の英雄の剣。

一方の香取は、右手を肩の高さまで持ち上げて、一言。


「刃よ、原初の我に従え……」


言うなり、先程と同じく十三の短剣が彼を守るように現れる。


「さあ、もっとだ!もっと、輝けええええっ!」


「はああああああああああっ…………………!」


王丈の輝きと香取の集中が臨界まで高まる。解放のきっかけは、『壁』の軋みだった。


ギシギシ、と壁が悲鳴をあげる。


「まずい……! 全員、伏せろ! 壁が保たん!」


「手伝おう……!」


「お、おい田中っ!」


田中が飛び出すと同時、自分の能力を行使する。


「固まれ……!」


手を触れた部分から、薄いプラスチックのような物が壁を覆っていく。それは瞬時に硬化し、壁を補強した。


それを時間稼ぎとして全員が伏せたその直後、二人がそれぞれ叫んだ。


「吹き荒れろ、『野分の調』!」


香取が、指を鳴らす。


「全てを砕け、『光子爆発』!」


王丈が、剣を振り下ろす。


全ての短剣が、まるで台風に吹かれたように無軌道に全てを斬りながら暴れ回る。

溜めに溜めた光が、物理的圧力に変わり剣から爆発する。


壁が悲鳴をあげて壊れ、圧倒的な輝きと刃が光を跳ね返す煌めきが薄れた後。


余りの威力に一フロア全てが絶句した。その後。


薄れた輝きの中に、人影が立ち上がった。

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