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11th 逃避の戦い

「よし。先公は俺の希望をちゃんと聞いてくれたみたいだな」


開口一番、相手の手に光と共に剣が現れる。西洋剣の片刃剣によく似ていた。


「まずは自己紹介を。俺は王丈匠おうじょうたくみ。『光輝の英雄アルトリウス』なんて呼ばれてる」


香取はふと思い出した。確か、石川たちに頼まれた危険人物だったはず。


「火種でランクは壱だ。さて、テメェも構えな。とっととおっぱじめようぜ!」


こいつ、生粋の戦闘狂バトルマニアか。そう香取は思う。だとすると、厄介である。加減を知らない可能性が高い。


(時間稼いでギブアップしよう。…… 疲れてるし)


ならば、と香取は口を開く。相手からペースを奪う事が肝要だ。


「指名だったのか。なら、僕も自己紹介を。香取健一。能力の名前は…… まぁ、見たらわかるし、言わなくていいよね。君と同じく火種で、ランクはまだ未定。今回で決まるのかな? よろしく、ってのも変か」


そう言って、コートのポケットに手を突っ込んだ。


「……それにしても、『光輝の英雄』とは、また変わった名前だね? しかもその剣、相当古い……」


「……あ?」


いきなりの語りに、ポケットから出てくる手を警戒していた王丈が軽く戸惑う。だが、香取は無視して続ける。


「古い剣、なおかつ光の属性、そして英雄。真っ先に浮かぶのは『アーサー王』だよね。名前の由来はその辺りかな? じゃあ、そこの豆知識を披露してみせようか」


一つ息をついて、香取は更に続ける。


「知ってる? アーサー王ってのは、虚構の創作物だって話」


「……何だと?」


乗った、と香取は内心で快哉を叫んだ。


「知らないのかい? まぁ、詳しい人のほうが珍しいと思うけどね。じゃあまず、アーサー王伝説の発祥の地は?」


「アイルランド及びブリテン発祥だろ。それくらいは誰でも知ってるっての!」


澱みない王丈の解答に香取は頷き、更に続ける。


「そう。けど、史料を辿っても、その時代に『アーサー』なんて人物は居ないんだよね。……もっとも当時、英国の侵攻を受けていたせいか史料そのものがかなり失われてるみたいだ。もしかすると、記録に残ってないだけで『アーサー王』は実在したかもしれない」


でも、と香取は更に知識と時間とを引き替える。


「例え本当に居たとしても、本来とは全然違ってる。…… 実は、『アーサー王物語』の成立した場所は英国なんだ。侵攻したイギリス人たちは土着の物語の集合、マビノギオンを持ち帰り、当時流行の『騎士道物語』に改竄していったのさ。

その証拠は、今君の手の中にある」


王丈が思わず自分の剣を見た。


「その剣の様式は中世のヨーロッパのものだ。製鉄の仕方、鉄の純度、刃紋……スクラマサクス、それもかなりの名剣だ。或いはその系統だね」


「……そうなのか」


「他に創作の証明としては、ランスロット卿なんかだね。彼も創作で付け足された人物だ。仕えるべき主の妻、グィネヴィアと不倫をしてしまう……いかにも、その頃の吟遊詩人が好みそうじゃない?他の円卓の騎士、例えばガウェイン卿なんかは、きちんと元になる『ガーフェイ』みたいな神格が居たんだけど、彼だけは見当たらないしね……と、こんなところかな」


香取は言葉を切った。打ち止めという訳ではない(むしろ本番のネタ、彼の剣についてはここからだ)が、時間はもう充分だろう。


皆が唐突に始まったアーサー王談義に目を白黒させる中、唯一ストップウォッチで時間を測っていた守屋に香取は尋ねた。


「ところで先生。今始まってから何分経ちましたか?」


「五分と十七秒だな。聞いてどうする?」


あ、と誰かが気付いて声を上げた。


「ギブアップする気か!!」


皆がどよめく。


「よくわかったね。というわけで先生、俺はリタイアを宣言します。壱位に勝てる訳ありませんって」


そう言って、香取は舞台から降りようとする。だが舞台の外に足を踏み出そうとした瞬間。


「あいたっ!」


香取は見えない壁に正面衝突した。


「これは……守屋先生の『壁』?」


それはまるで鱗鎧のように密集した、小さな盾。それがいつの間にか舞台を囲んで立ち上がっていた。


目の色が虹色に変化した谷原がそれを見て言う。あれが彼の能力発動状態なのか。


(って、それよりも!)


「先生っ! どういうことですか?! 五分経てばギブアップは認める規則でしょう!?」


だが、守屋の返答は真っ向からそれを否定した。


「いや。君に関してだけは認められない」


「どうしてですかっ!?」


「君は能力測定が初めてだろう。ある程度能力を見せてくれなければランク付けのしようがない。他の者なら、去年や春のデータを参考資料にできるのだがな」


そして、ふと目線を鋭くさせて、


「避けろ、香取!」


叫んだ。瞬間、背後に感じる爆発的な殺気。


「……!」


振り返らずに香取は横に飛ぶ。それが功を奏した。


「っだらあ!」


衝撃。音の方に空中で首を捻った香取が見たのは、ミニサイズのクレーターとその原因になった片刃剣、それを振り下ろした姿勢のまま舌打ちをした王丈だった。


「っち。外したか」


「あ、危ないな君は!」


思わず言い返した香取の台詞を、王丈は無視した。


「やれやれ、焦ったぜ。まさか時間切れ狙いの狂言だったとはなぁ!」


マズい、と香取は直感した。間違いなくキレている。


「さあて、コケにしてくれた礼だ。本気を出してやるよ。……腕の一本二本、覚悟しろやぁ!」


再び、剣を構えて王丈が疾走する。だが香取は、動かなかった。


「打刀一本……」


呟く。同時に、彼の右手に空間から染み出すように現れたのは、彼の言葉通りの刃。彼はそれを、迫る王丈に向けて横なぎに一気に振り抜いた。


ギィン、と硬質な音をたてて弾かれたのは、王丈の剣だった。


「っく!」


摩擦で反動を殺しながら、王丈は踏みとどまる。


「はは、やるじゃあねぇか。なら……」


言葉は、最後まで言えなかった。


「……!」


いつの間にか迫った香取が、袈裟に斬りつけてきたのだ。


「うおっ!」


思わず王丈は下がる。そこで香取がやっと口を開いた。


「……腕が無くなったら、人間はどうなると思う?」


「そりゃ……手術が必要だよな。下手したら失血死するかもしれないけど」


「死ぬ、ねぇ……」


どこか虚ろな表情で、彼は王丈の言葉を反復する。


「田中、谷原、河合…… 不本意だけど、君達のお願いを聞くことになりそうだ」


「……は?」


田中が意表をつかれて間抜けな声を出す。


「叩きのめして欲しいんだろ? コイツを」


「お、おう……」


田中たちは思わず強張る。昨日の放課後と同じ声音に香取は変わっていた。


「ほぉ…… 俺を叩きのめす、ねぇ…… やってみろやぁ!」


再び、王丈の剣が迫る。

だが、香取は表情を一切変えずに迎え撃つように構えて。


「剣食らい(ブリーズ・ド・フェール)」


金属の激突音と摩擦音が一瞬に連続し。

王丈の剣が、香取の刀に絡め取られて手から弾かれた。


「なっ!」


唖然として王丈の動きが止まる。武器を無くした相手に、香取は迷わず肉薄していった。



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