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9th 疑惑のクラスメイト

まずはこの震災に巻き込まれた方々のご冥福と、無事をお祈りいたします。


幸い作者の近くでは海から遠いため被害に会った者はいませんでしたが、停電はしました。このケータイも自家発電で動かしてます。


被災地の皆さん、頑張ってください。一人でも多くの生存を願っています。

次の日。イマイチ調子の悪い頭を振って彼は目覚めた。


(うぅ……)


昨日のこともショックだったが、今日も今日とて面倒事は続いている。日常は相変わらずであり、時間は無情であった。着替えて準備を済ませ、階下に降りる。珍しく母が台所に立っていた。


「おはよう。珍しいね、いつ帰ったの?」


「夜中よ。で、お腹は空いてるの? 適当に作ったけど、味はいいはずよ」


話しながら手元で目玉焼きを放り投げ、こちらに振り返りつつ皿でキャッチ。そのままこちらに差し出してくる。


「はい、その場凌ぎ。トースト焼いてるからしばらく待ってなさい」


お手軽に器用なことをやっておきながら、香苗は涼しい顔である。そんな彼女の異伝子は『悪戯』。名前は『器用な奇術師トリックスター』と呼ばれている。彼女にしてみれば、この程度朝飯前だろう。文字通り。


「いただきます」


正直あまり食欲は無いが、今日は一日もしかしたら運動したままになるかもしれないのだ。腹にはなにか入れたほうがいいだろうと香取は判断する。


「そういえば……毎回聞くけど、あの論文何に使うのよ?」


「いつもの如く黙秘させていただきます」


「ふーん。ま、勉強はいいことだわね」


投げやり感たっぷりに言われる。両親にも自分の罪は言っていないのだ。それでも協力してくれることは感謝している。


「そういえば今日は、なにかテストがあるんだっけ?」


話題を変えられた。都合がいいので乗る。


「うん。今回は休み明けだからちょっと大袈裟になるらしいけどね」


「まぁ、ケガしない程度にしなさいね? 今日も私は帰りが遅いし、あんまり化野さんのところにお願いするのも気が引けるし」


「そういえば、母さんって化野とそんなに親しかったっけ?」


ふと気になったことを聞いてみる。


「あー。それはね、海より深く山より高い理由が……」


ないよね、と香取が速攻で突っ込むと香苗は、可愛げのない子だねぇ、とため息をついて、


「職場が同じなのよ。向こうがこっちのことを覚えてたみたいで、なにかあったら遠慮なく言ってくださいね、こちらにはご恩がありますから、な~んて言われたら、家にあまり居られない我が身としては頼みたくなっちゃうでしょうが!」


なんかもういろいろとだめな人がいる。目の前に。


「それはさすがにマズいんじゃない? 甘えすぎな気がする……」


「大丈夫よ。もう少しでお父さんも帰ってくるし、それまでよ」


そういいながら、焼いていたのであろう薄切りベーコンを山盛りに出す。ついでに焼けたトーストも。


「あ、父さんもそろそろ帰ってくるの?」


「ええ。年末らしいけどね。それも少しの間だけ」


父の顔を見るのは約一年ぶりになる。毎回妙なお土産を持って帰ってくるので若干楽しみだ。


「さ、早く食べて支度しなさい」


「はーい」




学校に到着すると、校庭に見慣れない四角形が幾つかできていた。まるで舞台である。ざっと見ただけで20以上か。


(何だろ、これ)


酷く質素だ。ただ白い、石の台。上から見たらただの四角だろう。フェンスも何もない。


(まさか、この上で大立ち回りやらかそうってわけじゃないよね?)


そんなことを思いながら、教室へ。登校時間には若干早かったが、案外人はいた。大人しく席につき、正面の黒板を見ると。


(……物騒なっ!)


『夢見、死ね』と、白いチョークではみ出さんばかりに大きく書かれていた。


思わず隣の席を見る。不在だった。


(どういうことだ……?)


死ね、という命を粗末にする文面が気になる。頭に一気に血が登り、思わず冷静さの仮面が剥がれてしまいそうになる。が、それ以上になぜ彼女がそんなことを書かれなければならないのか、それが気になった。

近くを偶然通ったクラスメイトに聞いてみた。ショートカットでなぜか赤髪の男子は、あー、お前転校生だから知らないのか。あまり言うなよ、と前置きしてから教えてくれた。


「夢見はな、人の命を奪って生きてるんだよ」


「……はい?」


最初から意味不明だ。


「いや、こいつは噂だけどな。あいつ、全滅した孤児院出身なんだよ。お前も昔ここに居たなら知ってるだろ、『聖十字救済院』っていう今はないデカい建物さ」


「ああ~」


言われて香取も思い出す。確か純カトリック系の修道院を兼ねた孤児院だったはずだ。香取も一度行ったことがある。


「あそこな、焼けたんだわ」


「マジか!?」


「大マジ。出火原因は未だに不明、ただ、冬で空気が乾燥、なおかつ風が強かったのもあって建物が全部燃えてな。修道士たちは出払ってたからよかったんだけど、孤児院側にいた大人五人と子供三人が巻き込まれたんだ」


そこまで聞いた辺りで、香取は話の先が読めた。


「で、夢見だけ生き残った、ってのか? それだけで、これ?」


黒板を指差しながら香取は言う。それだけなら、ただ『運がいい』だけで済みそうなものだが……。


「ああ。こっからがこの話のキモさ。……実はな、他の人、つまり夢見以外の死体が全部ミイラ化してたんだと」


「み、ミイラ?」


「そう。カラッカラでしわくちゃの、ね。で、あいつの能力は『吸精ドレイン』。……後はわかるな?」


「ああ」


禁忌種の認定も拍車をかけているのだろう。つまり、夢見が死にたくないと思い、他の人の生命力を奪って生き残ったという訳か。


「……悪趣味だな。広めた奴」


「いや、これ信じてる奴結構居ると思うぜ。だってあいつ、肯定しないけど否定もしないからさ」


このクラスにいる事情も、その辺りだろうか。


「ありがとう。教えてくれて」


「いやいや、どういたしまして。今日テストだろ?お前、気をつけろよ」


初めてだしな、といい残して、クラスメイトは教室を出て行った。


結局、板書は登校してきた夢見本人(今日も相変わらず長袖で手袋)によって消され、クラスは何事もなかったように動き出す。


そして、その時間はやってきた。


「さて全員、体育館へ移動しろ。外は他学年だから間違えないように。以上だ」


守屋の簡潔な号令に、クラス全員が動き出す。なぜか皆めいめいに物を持っていく。文房具から竹刀、挙げ句の果てには和人形まで。不思議に思って、香取は隣の化野に聞いてみた。


「ねぇ化野、みんな何持ってくの?」


ちなみに化野は何も持っていない。反対側の席の夢見もだ。


「あー。健はさ、自分の能力を使う時に何か使う?」


「うん」


黒いコートのことだろうか。


「そういうの。みんなそれぞれ、媒体だったり素材だったり、いろいろ必要な物を持っていくの」


媒体はまだわかるが、素材ってのはどういう意味だろうか。


「なるほど。じゃあ、化野はそういうのは要らないんだね?」


「うん。……そういえば健、体育館の場所、分かる?」


香取は数秒考えて。


「……できたら、案内してくれる?」


申し訳なさそうに言った。





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